慈善告知
小狸
短編
「私の言葉は特定のファンの方を傷付ける場合があります。それをご承知の方だけ、以降の動画を再生してください」
そう前置きすれば、何を言っても許されるのだろうか。
ある動画配信者の話である。
その人物は、顔出しこそしていないものの、声から恐らく男性であるということが分かる。
名前は、
投稿する動画は、主に「最近のライトノベルや小説の批評」である。
批評とは名ばかりで、その中には作者を当たり前のように中傷するような内容も含まれている。初めて観た時は、もう酷いものだった。私の好きな作家先生が中傷されていたら、それこそ怒りに任せてコメント欄に書き込みをしていたかもしれない。
まあそのコメント欄も、枷原氏の――所謂信者と呼ばれる人々の肯定的なコメントで埋め尽くされていたのだけれど。
彼を誉めることはしたくはないが――上手いのが、分かりやすい言葉を使って中傷することだった。比喩表現を用い、動画閲覧者に伝わりやすいように工夫が施されていた。
彼は動画の中で、こう言っていた。
「我々は、金を払って、小説を購入している」
「だから、批評をする権利がある」
具体的には、最近ネット上で流行して、書籍化された小説群が、主に批評の――いやさ非難の的であった。
暇なのだろうな、とも思うが、しかしそれにしては動画が凝っているのである。
適当に小説を読んだ苛立ちをそのままに乱雑にまとめているにしては、手が込んでいる。
それもあってか、以前、偶然目にしてしまった時には、かなりの数のチャンネル登録者数を誇っていた。
しかしどうだろう。
そこまでの労力を割くことができるのなら、そこまで人の気持ちが分かるのなら――どうしてそれを、作家先生に向けてやらなかったのだろうか、と思ってしまう。
小説を一つ出版するには、そこには多くの人が携わっている。
作者は勿論、編集の方だって目を通すだろうし、それが一人だとは限るまい。そうやって削りに削って良い物を作ろう作ろうと思って、ようやっとできたものを上梓するのではないだろうか。
適当でやっつけでどうでも良くやっているのなら、それは確かに糾弾されるべきかもしれないけれど――それでも、最近流石に、「画面の向こうに人がいる」ことを、忘れている人が、多すぎるように思うのだ。
別段、批評、非難をするな、と言っているのではない。
所詮私の言葉に、影響力などないことは見ての通りである。誰も私の文章なんて読みもしないし、読んだところで、何かが変わるということはまずないだろうということは、皆さまの想像通りである。
どちらかと言えば私は、好きに批評し、好きに非難し、好きに中傷すれば良いんじゃないの? 知らねーけど、と思う人間である。
結果誹謗中傷による開示請求なり何なりを受けても、まあ好きなことを好きなようにしたらそうなっただけだしね? と他人事のように思うくらいである。
止める気はない。
ただ、これだけは忘れずにいて欲しい。
作家は、人間である。
あなたが、そうであるように。
(「慈善告知」――了)
慈善告知 小狸 @segen_gen
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