第134話

 その夜、寝室でくつろいでいると、静かな足音が聞こえてきた。


「ご主人様、入ってもよろしいですか?」


 ルリの声が控えめに扉の向こうから響いた。続いて、クルシュ、メイ、アオの声も続き、戸口で彼女たちが一列に並んでいるのがわかった。


「どうぞ、入ってくれ」


 扉が静かに開き、彼女たちは入ってきた。


 ルリ、クルシュ、メイ、アオ、それぞれがネグリジェ姿で、光沢のある生地が柔らかく身体を包んでいる。


 目を引いたのは、その首元だ。昼間渡したばかりのチョーカーが、全員の首に美しく輝いている。


「おお、みんなチョーカー、もうつけてくれたんだな」


 俺が笑顔で言うと、彼女たちは顔を少し赤らめながらうなずいた。ルリがそっと口を開く。


「ご主人様…このチョーカーの意味を、知っていますか?」

「意味?」


 俺は少し首をかしげた。確かに贈り物としてぴったりだと思って選んだが、意味…と言われると困ってしまう。


「その…この村では、特別な意味がある贈り物なんです」


 メイが小声で説明する。その表情には、いつもの無邪気さではなく、どこか照れと緊張が混ざっているようだった。


「この村で、チョーカーを女性に贈るということは…」

「それは、プロポーズを意味するのです、ご主人様」


 ルリが真剣な眼差しで告げた瞬間、胸が大きく跳ね上がった。プロポーズ? 思わず視線を彼女たちの顔へ移すと、四人とも微かに頬を染め、真剣に俺を見つめていた。


「えっ!? そんな…俺、全然知らなかった!」


 言い訳めいた言葉が口をついて出たが、四人の視線は、そんな俺の動揺を受け流し、愛情のこもった温かいまなざしを向け続けていた。クルシュが、いつになく照れくさそうに口を開く。


「ソルト、知らなかったんだな…でも、あんたの気持ちは、ちゃんと伝わったよ」

「えっ、気持ちって…?」

「こうやって、特別な贈り物をくれたのだから、その気はあるのだろ?」


 クルシュの言葉に、思い返すと確かに、四人それぞれに感謝の言葉を添えた。


 そして、それがまさかプロポーズの形になるとは想像もしていなかったが、彼女たちは誤解していない。

 目の前にいる彼女たちが、俺の贈り物を大切に受け取ってくれたのだ。


「ご主人様が、こうして私たちに声をかけ、贈り物をくれるだけで、本当に心から嬉しいんです」


 ルリが優しく微笑んで、俺の手をそっと握りしめる。その手の温かさが、静かに伝わってきた。


「本当に、私たちはご主人様に出会えてよかったです。支えてくださり、力をくれる方がいるだけで、私たちはどれだけ救われたことか…」


 メイもそっと寄り添い、柔らかい眼差しで見つめてくれる。その視線の中にある想いは、言葉以上に強く、心に響く。


「ソルトさん…このチョーカー、ずっと大切にします! 凄く嬉しいです」


 アオがにっこりと笑いながら、少し恥ずかしそうに首のチョーカーをそっと撫でた。その仕草が、心に温かな灯火をともすようだった。


「主様、私もなの…本当に感謝してるの。そして、主様の贈り物を心から誇りに思うの」


 クルシュも静かに言葉を続ける。彼女の凛とした表情には、強さだけではなく、深い愛情が宿っているのがわかった。


「みんな…」


 言葉が詰まり、思わず四人の顔を見渡す。彼女たちは一人ひとりが俺を支えてくれ、導いてくれた大切な存在だ。彼女たちがいてくれたからこそ、今の俺があるのだ。


「…実は、俺がこのチョーカーを選んだ理由も、みんなに伝えたいんだ」


 四人がそっと耳を傾けるのを見て、胸の内を静かに告げる。


「俺は、みんなに支えられてばかりだ。いつも戦いの中で、みんながいてくれたから、俺は強くなれた。ルリ、料理や身の回りの世話をしてくれて、俺がどれだけ助かっているか。クルシュ、戦場で頼れる仲間がいるのは、本当に心強いことだ。メイ、その明るさで、どれだけ俺が勇気づけられたか。アオ、無邪気な笑顔と忠誠心に、俺がどれだけ癒されているか…」


 彼女たちの視線は真剣で、俺の言葉に耳を傾けてくれているのがわかる。


「だから、どうしても感謝を伝えたくて、何か贈りたいと思った。プロポーズの意味があるなんて知らなかったけど…だけど、今ならわかる。みんながこうして一緒にいることが、どれだけ幸せかって」

「ソルトさんが…こんなふうに言ってくれるなんて…」


 メイの瞳がうるんでいる。彼女の表情は喜びに満ちていて、その気持ちが俺にも伝わってきた。


「ご主人様がいらっしゃるから、私たちはこうしてここに集まっているのです」


 ルリの優しい言葉が、胸に響く。彼女たちは俺がいるからこそ、こうして一緒にいることを喜んでくれているのだ。


「ソルト、あんたがいてくれるから、私たちはここで戦えるんだ。だから、これからも頼むよ」


 クルシュが頼もしげに笑い、俺の肩に手を置く。その手の重みは、まるで彼女の心が俺に寄り添ってくれているように感じられた。


「主様が、私たちの絆なの…」


 アオも、にっこりと微笑んで頷く。彼女の瞳には、揺るぎない信頼と愛情が映し出されている。


「みんな…ありがとう。俺も、みんなと一緒にいることが何よりの宝物だ」


 俺は静かに、四人の顔を見つめて心からの言葉を伝えた。彼女たちは微笑みながらも、何か特別な感情を抱いているようだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 11月後半になっていくにつれて、カクヨムコンテスト向けて作品作りをしていこうと思っています。


 そのため、更新を少し減らすことになると思いますが、更新は続けていきますので。これからもどうぞお付き合いいただければ幸いです。


 今後も他作品も含めて応援を心からお待ちしております。

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