第135話

 朝日が窓から差し込み、部屋全体を優しい光で包み込んでいた。微かに聞こえる鳥のさえずりとともに、俺は目を覚ます。


「ん…」


 隣を見ると、ルリが穏やかな寝顔を浮かべていた。


 彼女の金色の髪が柔らかく広がり、肌に触れるその感触は朝のぬくもりそのものだ。その向こうにはクルシュが、腕を軽く俺の胸に乗せながら寝息を立てている。


「ソルトさん…むにゃ…」


 反対側にはメイが俺の腕を抱きしめて、心地よさそうに寝ていた。さらに足元には、アオが犬のように丸まって俺の足を枕代わりにしている。


「……おはよう、みんな」


 俺がそっと呟くと、ルリがゆっくりと瞼を開けた。


「おはようございます、ご主人様。よく眠れましたか?」

「ルリのおかげで、ぐっすりだったよ。ありがとう」


 彼女の笑顔が朝日の中で輝き、俺の心を和ませる。すると、隣で寝ていたクルシュも起き上がり、豪快に伸びをした。


「はぁ~、よく寝た! ソルトの隣だと妙に安心して眠れよ」

「そうかい? それはよかった」


 昨夜は四人と共に眠りについた。ヒールやスリープといった聖属性魔法が力を発揮して、俺自身もヒールを何度も施して、体力をかけたので、意外に大丈夫なことを知った。


「ふふ、照れるソルトも悪くないな」


 クルシュは初めてのことであったはずなのに、どこか男前であり、最初の戸惑っていた様子はどこに行ってしまったのかと思い苦笑いしてしまう。


 その横ではメイとアオが互いに抱きしめあって寝ていた。


 メイは少し眠そうに目をこすりながらも目を覚まして、明るい声で挨拶をしてくる。


「おはようございます、ソルトさん! 今日もいい天気ですね!」


 アオも顔を上げ、ふわっと笑いながらしっぽを振っている。


「主様、おはようなの! 今日もアオ、頑張るの!」


 みんなが揃って起きると、部屋中が一気に明るくなった。こんな朝を迎えられるのは、本当に幸せだと改めて感じる。

 四人と妻と夫になるのかはわからないけど、彼女たちとこれからも幸せに過ごしたいとは思う。



 


 ルリが作ってくれた朝食を済ませた後、俺たちは少し庭でくつろぐことにした。この村で借りた一軒家には、小さな庭がついていて、日光浴をするには最高の場所だ。


 そこにやってきたのが、聖なるスライムのエリスだ。


「マスター、皆様、おはようございます!」


 エリスは透明な体に淡い光を宿しながら、俺を抱きしめる。


「エリス、おはよう」

「はい! 今日も皆様のお疲れを癒すお手伝いをさせていただきますね!」


 エリスが俺を抱きしめながらヒールをかける。自分でもかけていたつもりだったが、昨日の疲れが出ていたようだ。

 体からふわりと癒しの光が広がった。その光が触れるたびに、体中の疲れがじんわりと溶けていくような感覚がする。


「うわぁ、本当に気持ちいいですね、エリスちゃん! ありがとう!」


 メイが嬉しそうにエリスを撫でると、エリスはぷにぷにとした体を揺らして応える。


「メイさんのお疲れも、しっかり取りますよ!」

「アオも癒して欲しいの! エリス、大好き!」


 アオもエリスに飛びついて、その柔らかな体に顔を埋める。エリスは驚きつつも、優しく光を放ち続けてくれる。


「ご主人様、エリスの力は素晴らしいですね」


 使役するエリスがみんなから好かれている光景は嬉しく思う。


 ルリが微笑みながら、エリスも言葉に反応して嬉しそうにしている。


「ルリさんもいつも頑張っていらっしゃいますからね!」

「ありがと、エリス」


 一方、クルシュは少し離れたところで腕を組んでいたが、俺が声をかけると、照れくさそうに近づいてきた。


「クルシュ、どうしたんだ?」

「別に疲れてなんかないけど…まぁ、ちょっとだけ頼むよ」


 どうやら昨日の出来事を思い出して、照れ臭くなっていたようだ。

 エリスがクルシュにも光を送ると、彼女は思わずため息をついて座り込んだ。


「はぁ…本当に癒されるな。ありがとう、エリス」

「クルシュさんも癒せてよかったです」


 俺が四人を認めたからだろうか? エリスがいつも以上に四人に対して、親しく接する姿に俺の心も嬉しくなる。


「マスター、今日は随分と腰の疲れがたまっていらっしゃいますね!」


 エリスの光に包まれると、腰に感じていた鈍痛が一気に解けていく。


 うん。昨日は色々あったからね。


「本当に助かるよ、エリス。ありがとう」

「いえいえ! 皆様が元気でいてくださることが、私の喜びです!」


 エリスの癒しの力で、俺たちは心身ともにリフレッシュできた。庭には爽やかな風が吹き、四人とエリスの笑顔に囲まれるこの時間は、まるで夢のようだった。


「さぁ、これで準備万端だな。そろそろ次の冒険に向かう準備をしようか?」


 俺が立ち上がると、みんなも元気よく応えてくれる。


「はい。ご主人様、市場で食材を調達してきます!」

「アオは主様と一緒に行動するの!」

「私は剣の手入れをしようと思う」

「私も装備と薬草を見てきますね」


 それぞれが自分の役割をこなしながら、新しい一日を始める準備を整える。俺はそんな彼女たちを見ながら、胸の中に湧き上がる感謝の思いを噛みしめた。


「よし、みんなでまた頑張ろう。今日もよろしくな!」


 俺の言葉に、四人と一匹のエリスが力強くうなずく。


 そろそろ休暇も終えて、次のダンジョンに向かうことになるだろう。

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