第133話

 神殿での戦いが終わり、俺たちは村で一息つくことになった。


 旅の疲れを癒し、日常から離れた時間が過ごせるこんな機会はめったにない。


 俺は四人から湯船やマッサージで温かい気遣いを受けるたびに、改めて感謝の気持ちが湧いてきた。


 彼女たちはいつも俺のそばにいて、助けてくれる。


 そんな存在に感謝の気持ちだけじゃ物足りないと思った俺は、村の市場で四人への贈り物を探すことにした。


「すみません、この村で女性に贈るのにふさわしい物は何かないでしょうか?」


 俺がある店の店主に尋ねると、彼はニヤリと笑って奥から品物を出してきた。


「ほう、それならこれなんておすすめですよ、旦那さん。女性への贈り物としては村で評判のセットなんですよ」


 彼が取り出したのは、チョーカーだった。


 シンプルながらも上品なデザインで色違いがたくさんあったので、四人のことを思い浮かべながら、ルリには優しい青色、クルシュには白、メイには薄紫、アオには若葉色と、それぞれに合う色が用意されていた。


「なるほど、色もそれぞれ選べるんですね。じゃあ、この色で四つもらえますか?」


 俺が喜んで頼むと、店主はまた笑顔を浮かべてうなずいた。


「ふふふ…旦那さん、きっと彼女たちも大喜びでしょうね。女性へ特別な贈り物としてぴったりの逸品です」

「特別な贈り物?」

「そうです。日頃の感謝を想い。またこれからもよろしくってね」


 俺は少し驚いて聞き返したが、店主の言葉に納得してしまう。四人に送りたい思いとしてぴったりのプレゼントだ。


 俺は四人分のチョーカーを購入して、日頃の感謝を彼女たちに伝えられると思うと、早く贈りたくて仕方なかった。


 借りている家に戻る途中で、ルリの姿を見つけた。


「ルリ、買い物かい?」

「ご主人様、はい。今日は何か食べたい物はありますか?」

「ルリが作ってくれる物は全て美味しいから、任せるけど、うーんお肉なら嬉しいな」

「はい。わかりました」

「あっ、それとこれ、受け取ってくれるかな?」

「えっ?」


 せっかく会えたので、真っ先にルリにプレゼントを渡すことにした。


 彼女はいつも笑顔で俺を支えてくれている、温かい心の持ち主であり、みんなの母親的な役目もしている。料理や日々の世話も彼女がいなければどうなっていたことか。改めて感謝を伝えたい。


「これ、いつもありがとう。ルリには本当に助けられているよ。このチョーカー、きっと似合うと思って選んだんだ」


 俺がそう言ってチョーカーを手渡すと、ルリは驚いた表情を浮かべた。


「…ご主人様、これを…私に?」

「ああ、ルリに一番最初に渡せてよかったよ。いつもお世話になってるからね。これからもそばにいてほしい」


 ルリは顔を赤らめ、少し震えるような声で礼を言い、抱きついてきた。


「えっ?!」

「ありがとうございます。一生大切に致します!」

「うっ、うん。大袈裟だよ」

「そんなことはありません。本当に嬉しいのです」


 ルリは凄く上機嫌になって、腕を組みながら買い物を済ませた。


 次は、クルシュと二人きりになったので、彼女に渡すことにした。


 彼女は強くて頼りがいのある仲間で、戦いの中で支え合う存在だ。彼女の強さにはいつも勇気づけられている。


「クルシュ、ちょっと話があるんだけどいいかな?」

「ん? どうしたんだ、ソルト?」


 クルシュが座っているところに声をかけると、彼女にプレゼントを渡した。


「いつもありがとう。守ってくれて。これからも俺の隣で一緒に戦ってくれると嬉しい」


 クルシュは一瞬驚き、顔を赤くしてしばらく黙っていたが、やがて照れたようにうなずいた。


「ソルトにそこまで思われいたとは私も凄く嬉しい…。これからはより一層ソルトを守るよ」


 クルシュにしては大胆に俺を抱きしめた。


 ルリに続いて、クルシュも凄く喜んでくれたので、店主の見立ては間違っていなかったようだ。


 続いてアオの姿を見つけたので、俺はアオに声をかける。


「アオ、少しいいか?」

「主様、どうしたの?

「アオにプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかい?」

「プレゼント? 嬉しいの!」

「これなんだけど」

「うわーチョーカーなの! 付けて欲しいの!」

「ああ」


 俺はアオの首に、チョーカーを付けてあげる。フェンリルである彼女がつけるとどうしても、首輪のように見えるのは俺だけだろうか? ルリは見えなかったのに。


「嬉しいの!」

「アオとずっと仲良くしていたいから、これからもよろしくな」

「はいなの! 一生、主人様の側にいるの!」

「はは、アオはいつもかわいいな」


 俺はアオの頭を撫でながら、しばらく戯れた。


 最後にメイに渡す番だ。


 彼女は明るくて、俺たちを和ませてくれるムードメーカー的な存在だ。彼女がいてくれるからこそ、旅路に温もりがある。


「メイ、こっちに来てくれるか?」

「何ですか、ソルトさん?」


 俺は薄紫チョーカーを手にして、メイに感謝の言葉を伝えた。


「メイがいてくれると、いつも元気をもらえるよ。だから、これを受け取ってくれ」


 メイは驚きで目を見開き、頬を染めながらチョーカーを受け取った。


「…本当に、私でいいんですか? ソルトさん、そんなふうに思ってくれてたんですね…」


 少し照れた様子のメイを見て、俺もつい笑ってしまった。


 四人にそれぞれ贈り物を渡した後、彼女たちがどんな表情をしていたかを思い出すと、なんだか胸が温かくなった。


 彼女たちにはいつも助けてもらってばかりで、こうして感謝を伝えられてよかったと思う。


 だが俺は、この贈り物にどんな意味が込められているかをまだ知らなかった。

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