第104話

《side ソルト》


 アザマーンの街の事件が解決して数週間が経過した。


 街は少しずつ形を取り戻し、住民たちの顔にも笑顔が戻りつつある。

 俺たちはこの間、復興の支援に尽力してきたが、いよいよ旅立ちの時が近づいていた。


 ある夕暮れ、復興作業を終えた俺たちは、作業を終えてライラに与えられた屋敷で、みんなで一息ついていた。


「ソルトさん、これで一段落つきましたね」


 メイはどこでも明るく元気に元気を分け与えてくれる。

 彼女の微笑みに、アザマーンの住民も随分と助けられただろう。


「そうだな。みんな、本当にお疲れ様。おかげで街はここまで復興できた」


 仲間たちの顔を見ると、達成感と少しの寂しさが感じられた。

 ここでの時間は充実していたが、俺たちは次の目的地に向かうことを決めた。


 その夜、俺はライラに話をするため、彼女の元を訪れた。

 彼女は領主としての責務を果たしながらも、少し疲れた顔をしている。


「ライラ、少しいいか?」

「ソルト、どうしたの?」


 部屋に招き入れてくれた彼女が優しく問いかける。

 ユーダルスの死を乗り越えて、領主としてアザマーンの民を導く存在として、しっかりと成長を遂げている。


「ライラ、実は俺たち、次の目的地に向かうことに決めたんだ」


 彼女の表情は一瞬硬くなったが、すぐに理解したように頷いた。


「そう、やっぱりあなたたちは次の冒険に出るのね。うん。わかってた。でも、やっぱり少し寂しいな」


 自分の気持ちを隠すことの多いライラが、素直に気持ちを告げてくれる。

 それは本当に寂しいと思ってくれているからなのだろう。


「ライラ、アザマーンの街は復興を終えつつある。君は素晴らしい領主として、みんなを導くこともできている。これからもこの街を守っていけるだろう」

「ありがとう。みんなが私を支えてくれているからだわ」


 ライラは立ち上がって、俺の手を握った。


「ソルト、あなたの言葉が私にとって一番の励みになったわ。父上が死んだ時あなたたちがいなければ、ここまで復興できなかった。本当に感謝してる」


 俺は彼女の手をしっかりと握り返し、そのまま俺を抱きしめる。


 求めるようにキスをして、その晩はライラと共に過ごした。


 ♢


 翌朝、出発の準備を整えた俺たちは、馬車に乗り込んでアザマーンの門へと向かった。俺たちが馬車で街の中を走れば、住民たちから感謝の言葉を掛けてもらえた。


 メイやアオは子供たちから、声援が飛び、ルリとクルシュには、男性たちから野太い声援が飛んでいる。

 俺にも、女性たちからピンク色の声援が飛んできて、大勢の人々から見送ってもらう。


 門の前にはライラ、ハニー、ミーアの三人が待ってくれていた。


「三人とも見送りありがとう」

「ソルト、あなたにはたくさん助けてもらったわ。本当にありがとう。あなたのおかげで、アザマーンは再び立ち上がることができた! 私も」

「そうやで、ホンマにここまでしてもらえるなんて思ってなかったわ」

「感謝するにゃ! これから私たちがライラを助けて頑張っていくにゃ」


 俺はハニー、ライラと抱擁をして、ミーアと握手を交わす。

 

「ライラ、君を支えられなくて申し訳ない。君のおかげで、俺たちもアザマーンの地で多くのことを学ぶことができた」


 ライラは微笑みながらも、少し寂しそうな表情を浮かべていた。


「ソルト、また会いに来てね。アザマーンはいつでもあなたを歓迎するわ」

「そうやで! ほったらかしにしたら許さんで」

「そうにゃ! ライラもハニー様も寂しがりやだから、相手してやってほしいにゃ。その時には私も頼むにゃ」


 ミーアの人懐っこさには、いつもながら癒しをもらう。


「必ずまた来るよ。それまでお互いに頑張ろう」

「ええ、私の代でもっとアザマーンを発展させてみせるわ」

「その意気だ」


 俺はライラに別れを告げ、仲間たちと共に新たな冒険に向けて歩き出した。


 ♢


《sideライラ》


 ソルトたちを乗せた馬車が遠ざかるのを見届けた後、胸にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われた。

 

 彼らが去ってしまったことの現実が、徐々に重くのしかかってくる。


 広場に戻りながら、住民たちがそれぞれの作業に戻る様子を見て、彼らの復興への意欲に少しだけ慰められる。


 しかし、それでもソルトがいないこの街が少し寂しく感じられるのは、避けられない事実だった。


「ライラ、大丈夫かにゃ?」

「べ、別に大丈夫よ。ありがとう、ミーア姉さん。でもやっぱり、彼らがいないと寂しいわね」


 ミーア姉さんが優しく肩に手を置いてくれた。


「ライラ、あなたは素晴らしい領主にゃ。彼らがいなくても、私たちと一緒にこの街を守っていけるにゃ」


 彼女たちの言葉に少し元気づけられたものの、ソルトの存在は特別だった。


 彼の強さ、優しさ、そして何よりも支えとなるその存在が、どれほど大きかったかを改めて実感する。


 夜になり、部屋に戻った私は一人の寂しさを感じる。


 静かな空間の中で、ソルトとの思い出が次々と蘇る。

 彼の励ましの言葉、共に過ごした時間、そして最後に交わしたキス。


「ソルト…あなたがいなくて、私は本当にやっていけるのかしら?」


 そう呟くと、涙が溢れてきた。彼の存在がどれほど私を支えてくれたか、その重みが今になって感じられる。



 次の日からも、領主としての仕事が待っている。


 街の復興はまだ道半ばで、私にはやるべきことが山ほどある。ソルトたちが去った今、自分が強くならなければならない。


「ライラ、今日の予定ですにゃ」

「ありがとう、すぐに行くわ」


 ソルトが見せてくれた強さを胸に、彼に誇れるような領主になるのよ!


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