第103話
《sideソルト》
アザマーンの街の事件が解決をして数日が経過した。
街は多くの別れと悲しみを乗り越えて、再建が始まっている。
俺たちもすぐに王都に向かうのではなく、復興の支援に協力することにした。
ライラを新しい領主として、獣人たちに迎えられ、忙しく動き回っている。
俺たちも彼女をサポートするために力を尽くしていた。
街はまだ瓦礫の山だが、住民たちは少しずつ希望を取り戻している。
人の力とは凄いものだ。
彼らの笑顔を見るたびに、俺は何か協力できればと思う。
♢
ある朝、復興の作業が始まる頃、見慣れた顔ぶれが現れた。
「ソルト、お疲れ様にゃ!」
広場にやってきたのは、ダウトの街を治める者たちだった。
ハニーやミーアが大勢の物資と人手を持ってやってきてくれた。
彼女たちはアザマーンの復興を手伝うためにわざわざ駆けつけてくれたのだ。
「ハニー様、ミーア姉、ありがとう。助かるよ」
ライラが出迎えて、俺たちも彼女たちを出迎える。
「当然にゃ。アザマーンの街を元通りにするために、私たちも力を貸すにゃ」
「そうやで、今後はあんたがみんなを導く手伝いをさせてもらうつもりや」
二人はライラを強く抱きしめた。
ライラにとって二人は姉のような存在で、ハニーは力強く言い、ミーアもにっこりと笑って頷いた。
ライラの支えとしてこれ以上に嬉しい援軍はないな。
♢
復興作業を始めて、二週間ほど経つころには、瓦礫はなくなり家々も随分と形を元通りに戻すほどになっていた。
俺の仲間たちもそれぞれの役割を果たしていた。
ルリはフェンリルの力を使って重機の代わりに大きな瓦礫を運び。
クルシュさんは壊れた建物の修復を指揮している。
メイとアオと共に子供たちの面倒を見ながら、炊き出しをして、住民たちの元気を取り戻す手伝いをしていた。
「みんな、頑張ってるな」
俺は仲間たちの働きを見ながら、回復術師として、怪我人を見ていた。
回復魔法については、ライラに使った時よりもさらに強くなっているような気がする。
少しの魔力でヒールを使えば、ほとんどの傷を治すことができるようになったのだ。ヒールをかけたあとは、男性も女性も、老人などもメチャクチャ元気になっていたけど気のせいだろう。
女性の中には元気になりすぎて襲われそうになったけど、アオとメリが排除してくれた。
「ソルト、お疲れ様」
ライラが俺に与えられた天幕にやってきた。
彼女は新たな領主として誰よりも働いており、その姿には以前よりも一層の頼もしさが感じられた。
「お疲れ様、随分と疲れているようだね」
「ええ、だけど充実しているわ。やらなくちゃいけないことがあると、余計なことを考えなくてもいいから」
ライラはユーダルスのことを大切に思っていたんだな。
彼女の心を支えてあげたい。
そういう気持ちが、アザマーンに留まる時間を長くさせている一つでもある。
ハニーとミーアもやってきて、それぞれの特技を生かして支援している。
彼女たちは住民たちと親しく話しながら、復興作業の進捗を確認している。
二人は狩りが得意な冒険者として、魔物を狩って食料問題と同時に危険度を下げていた。
二人が来てくれたことでライラの負担は随分と減ったことだろう。
「ねぇ、ソルト」
「うん?」
「あなたは旅立ってしまうのよね?」
彼女の問いかけにどんな意図が込められているのか、わかってしまう。
「べっ、別にあなたにずっといてほしいとか思ってないんだからね」
俺が答える前に恥ずかしそうに否定をするが、その顔は真っ赤に染まっていた。
「ありがとう、ライラ。だけど、俺は真実を解き明かさなければいけないんだ。シンシアがどうしてこんなことをしたのか? そして、これからもこんなことを続けるのか?」
ライラは俺の言葉を黙って聞いてくれている。
彼女の瞳は、住民たちに向けられている。
「あなたと私の道は繋げることができない。だけど、私はあなたと結ばれたことを誇りに思っているわ」
「えっ?」
「獣人は強い男が好き。そして、ソルトは事件を解決してしまうほどに強い男よ。だから、ソルト。ライラ・アザマーンはソルトを大好きよ!」
太陽のような明るい笑顔で、ライラが告白をしてくれる。
「だけど、あなたを捕まえて自由を奪うことはしない。ソルト、あなたはあなたの自由に生きて。そして、また私の元にも会いに来てほしい」
最後は甘えるように告げる彼女が可愛くて、俺たちはキスをする。
♢
俺は再び街中を歩き回りながら、仲間たちの様子を確認した。ルリは力強く瓦礫を運び、クルシュさんは修復作業を指揮していた。彼女たちの頑張りには本当に感謝している。
「ルリ、無理しないでね。休憩も大事だ」
「ご主人様、大丈夫です! 私がんばるのです!」
ルリの元気な声に励まされ、俺も元気をもらう。クルシュさんの元へ行くと、彼女も忙しそうに動いていた。
「クルシュさん、どう? 順調?」
「うん、順調だよ。あなたのおかげで作業がスムーズに進んでる。ありがとう、ソルト」
彼女の言葉に俺は頷き、次にメイとアオの元へ向かった。メイは子供たちと一緒に遊びながら、彼らの心を癒していた。
「ソルトさん、子供たちが元気になってきたよ!」
「そうか、メイ。ありがとう。君のおかげだ」
アオも子供たちと一緒に遊びながら、笑顔を振りまいていた。
「ソルトさん、アオもがんばるの!」
「アオ、ありがとう。君たちのおかげでみんな元気になってる」
夕暮れが近づき、俺は全ての確認を終えて、旅立ちの決意をした。
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