第102話

《side ソルト》


 朝の光が部屋に差し込み、穏やかな一日の始まりを告げていた。

 

 昨晩の戦いの余韻を感じながら、俺はゆっくりと目を覚ました。

 隣にはライラが眠っており、その穏やかな寝顔を見ていると、心が安らぐ。


 静かにベッドから起き上がると、ライラも目を覚ましたようだった。

 彼女は少し眠そうな顔をしながら、微笑んで俺に声をかけた。


「おはよう、ソルト。ゆっくり休めた?」

「ああ、ありがとう。ライラも大丈夫か?」

「ええ、おかげさまで」


 ライラは少し緊張した様子で、ベッドサイドのテーブルに置かれていた手紙を手に取った。


「ソルト、これをあなたに渡したいの。父上が最後に残した手紙よ」


 彼女が差し出した手紙は、ユーダルスが俺に当てた物だった。

 それを受け取ると、俺はライラが見ているこの場で手紙を開くことにした。



**ソルトちゃんへ**


 あ〜悔しいわね。あなたとライラちゃんの間に子供が出来て、その子を可愛がることを夢に見るようになっていたんだけどなぁ〜。


 だけど、この手紙がソルトちゃんに渡っているということは、私はもうこの世にはいないってこと。もしも、死んでなかったら、処分していたからね。


 まずは、私が過去に犯した多くの過ちについて謝罪します。

 そして、道化師であるシンシアちゃんの目的を話すと言ったけど、私は知らないの。あなたをアザマーンへ来てもらうための嘘よ。


 本当にごめんなさい。


 ライラちゃんは私の娘だけど、本当に良い子なの。

 私の死をもって多くの罪を重ねてしまったことに対して禊とさせて頂戴。


 ただ、今回の事件で私は一つの真実にたどり着いたわ。


 時空属性を操る道化師のシンシアちゃんは、何かの目的をもって行動している。

 それは王国との敵対かもしれない。


 王国の秩序を乱し、混沌を生み出すことにあるように思うの。


 アザマーンにいたのは実験をしていたんだと思うの。


 きっと危険なことなのよね。

 私は死んでしまったけど、これは自業自得。

 

 自分が欲しい物を手に入れるために、好き勝手行った代償。

 民にはどれだけの賠償ができるのか、わからないけれど、ライラちゃんにそのための準備は伝えてあるわ。


 ソルトちゃんにお願いがあるの、ライラちゃんの支えになり、シンシアちゃんが計画していることを阻止して欲しいの。


 きっと王国に大きな事件を仕掛けると思うわ。


 ソルトちゃん。


 あなたはこの世界に愛された選ばれた存在だって思うの。


 ライラちゃんと共に、シンシアちゃんを止めてあげて。


 この王国を守り私の過ちを正して、勝手なお願いをごめんなさい。


 最後に、ライラちゃんをよろしくお願いします。

 彼女は強い心を持っているけど、まだまだ知らないことが多いの。

 あなたなら、彼女を支えて共に未来を切り開いてくれると信じているわ。


 ユーダルスより



 手紙を読み終えると、俺は深いため息をついた。

 シンシアの目的はわからず、ただ王国を敵にして何かをしようとしていることはわかった。


「ライラ、ありがとう。この手紙は非常に重要だ」

「よかった。父上がソルトの役に立って。父上は私にとって良い領主でも父でもなかった。だけど、嫌いじゃなかったから。父上が残した多くの仕事をやり遂げるつもり」


 ライラの目には決意が宿っていた。


 俺はライラの支えをしながら王都へ向かうことを決めた。



《side シンシア》


 逃げる男の死の報せは、すぐに私の元へと届いた。


 その知らせによると、彼は忠実な駒であり、計画の一部として重要な役割を果たしていた。しかし、駒は所詮駒であり、計画はまだ続く。


 私は窓辺に立ち、王都の方向を見つめた。


「ふふ、アーシャは相変わらずね」


 アザマーンでの出来事は失敗だった。


 だけど、ソルトの活躍は目を見張るものがあって、彼の力はますます強くなっている。


 私が期待していた通りなことに嬉しくなる。


「さすがはソルト…期待を裏切らないわね」


 王国で彼との再会は避けられない運命のようなものよ。


 だけど、それはまだ先の話。


 今は王都で新たな手を打つ必要がある。


 私の目的はこの王国を……。


 そのための準備として、王都での暗躍が必要不可欠よね。


 私は時空属性の力を使い、瞬時に王都への道を開く。

 空間が歪み、目の前に王都の光景が広がる。

 華やかな街並みと、人々の喧騒が耳に届く。


「ここからが本番ね」


 王都には多くの権力者が集まり、それぞれが己の欲望と野心を持っている。


 私は王都の街並みを歩きながら、次の一手を考える。


 王国の中枢にいる者たちへの接触、その心を揺さぶり、計画を進めるための駒として使うことが必要ね。


「ソルト、あなたがどれほどの力を持っていようと、私の計画は止められないわ」


 ふと立ち止まり、空を見上げる。


 ソルトがどれほどの力で立ち向かってくるのか楽しみでもある。


「待っているわ、ソルト。あなたとの顔を見れるのを」


 微笑みを浮かべながら、私は王都の暗闇へと消えていく。


 計画の次の段階が始まり、さらなる混乱と絶望をもたらすために、私は動き出す。


 豪華な王都の街並みが恐怖に歪むのが楽しみね。

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