王家の墓
第101話
《side アーシャ》
私は冒険者を引退して、王国の女性だけの騎士団にスカウトを受けた。
誰かに認めてもらうって嬉しい。
だから、すぐに騎士団に入ることを決めて、訓練と任務の日々を送っていた。
元々、あまり考えるのは得意ではない性格の私は、周りからも明るく振る舞う存在として見られていた。
だけど、仲間と別れてから、心の中では幼馴染の二人のことを考え続けていた。
幼馴染のシンシアとソル兄。
二人は私にとってかけがえのない存在だった。
だけど、ソル兄がシンシアを好きなことはわかっていたから、シンシアが結婚すると言われてショックを受けている姿に、あの時は笑ったけど。
今は、私が支えてあげたらよかったかなって思う。
何よりも、シンシアの結婚は嘘で、騎士団に入ったことで知ったのは、シンシアが道化師として国際手配を受け、行方知れずとなっていたことだ。
ソル兄に連絡を取りたいと思ったけど、ソル兄はコーリアスからも姿を消した後だった。
シンシアが道化師となり、王家の墓を狙っているという噂を聞いたとき、胸が張り裂けるような思いをした。
私の知っているシンシアは、そんなことをするような人ではなかったはずだ。
噂は真実の一部を含んでいるかもしれない。
私はその真相を確かめるために、彼女を見つけて話をする決意を固めた。
♢
王都を歩き回ってシンシアを探したけど、そんなに簡単に見つかるはずがない。
夜が更け、王都の城壁近くにある小さな広場で休んだ。
昼間は市場として賑わうこの場所も、夜になると人影はほとんどなく、静寂が支配している。
突然、暗闇の中からシンシアが現れた。
「アーシャ…久しぶりね。あなたが私を探しているのを見ていたわ」
彼女の声に驚きながらも、懐かしい感情が胸に広がった。
「シンシア…どうしてここに?」
シンシアは静かに微笑み、私の前に立った。
彼女の姿は道化師としての装いをしていたが、その目には昔と変わらぬ温かさが宿っていた。
「アーシャ、私にはやらなければならないことがあるの。ソルトのために」
「ソル兄のために…?」
「そうよ。私は時空属性を持つ希少な存在として、世界中から狙われている。そのため、ソルトを手助けし、彼が出世するように暗躍しているの」
彼女の言葉に、私は戸惑いと驚きを感じた。シンシアが何をしようとしているのか、全く理解できなかった。
「シンシア、でもあなたは道化師として手配されているのよ。こんなことを続けていたら、あなたの身が危ないぞ」
「わかってるわ。でもね、アーシャ。私はもう引き返せないの。これが私の選んだ道だから」
シンシアの目には強い決意が宿っていた。
昔からそうだ。シンシアは決めたら曲げない。
その瞳を見つめると、私もまた心を揺さぶられた。
「シンシア、私はあなたを止めるつもりはない。でも、もしソル兄のために悪いことをするなら、私は全力であなたを止める」
そう言いながら、私は剣を抜いた。
女騎士になってから、剣聖として成長した今の私には、この剣が全てを語る。
「アーシャ…本気なのね」
シンシアは微笑んだ。
シンシアは昔から強かった。
魔術を極めて、時空属性の力も使えるって言うなら今までよりも遥に強い。
「あなたが本当にソル兄のために動いているのなら、私も協力する。でも、もしそれが間違った道なら、私はあなたを止める」
シンシアは深く息を吸い込み、目を閉じた。
次の瞬間、彼女の周りに魔力の波動が広がり、時空の歪みが生まれる。
「アーシャ、私も本気で行くわ」
彼女の声と共に、周囲の空間が歪み始めた。私の剣が輝きを放ち、二人の間に緊張が走る。
「行くぞ、シンシア!」
私は剣を振りかざし、彼女に向かって突進した。
シンシアもまた、魔術の詠唱を始め、時空の力で反撃の態勢を整える。
剣と魔術が交錯する中、私たちの戦いは激しさを増していく。
シンシアの時空魔法が次々と発動し、私の剣の動きを封じようとするが、私はそれを切り裂いて前進を続ける。
「アーシャ、本当に強くなったわね。でも、私は負けない!」
シンシアの声が響き、さらに強力な魔法が放たれる。私はそれを受け止め、剣で弾き返す。
「シンシア、あなたが何をしようとしているのか、全部教えてくれ!」
戦いの中で、私は問いかける。シンシアの瞳には一瞬の揺らぎが見えたが、すぐに決意が戻る。
「アーシャ、私は…」
シンシアが言葉を続ける前に、周囲に異変が起きた。突如、別の王国の兵士たちが広場に現れ、私たちの戦いを邪魔しようとしてきた。
「止まれ! その道化師を捕らえろ!」
彼らの声に、私たちは一瞬動きを止めた。しかし、すぐに理解した。この場で戦いを続けるわけにはいかない。
「シンシア、逃げて!」
私は叫び、シンシアもすぐに状況を察知した。
「アーシャ、ありがとう。でも、邪魔しないで。ソルトは強い。彼が自分で道を切り開く」
シンシアは時空魔法を発動し、空間の裂け目を作り出した。その中に飛び込む前、彼女は一瞬振り返り、私を見つめた。
「さようなら、アーシャ。また会う日まで」
その言葉を残し、シンシアは裂け目の中へと消えていった。兵士たちは私に向かってくるが、私は剣を構えて応戦した。
「シンシア、必ず追いかけるわ!」
私の叫びが夜の静寂に響き渡る。剣を振るいながら、私はシンシアとソルトの未来を守るために戦い続けることを誓った。
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