第96話

《sideソルト》


 ライラたちガーズー女性騎士団と俺たち冒険者チームは、アザマーン領の首都を目指して共に旅をすることになった。


 目的は、ユーダルス・アザマーンと直接対決をするためだ。


 ただ、俺の知るユーダルスは、コーリアス領で別れた印象が強い。

 ライラが思っているような不正を働いていたのかもしれませんが、アザマーン領へ戻った後もユーダルスの行いは変わっていないのだろうか?


「準備はいいか? 皆、出発するぞ!」


 ライラの号令に応じて、仲間たちが動き出す。


 俺たちもルリ、メイ、クルシュ、アオも荷馬車に乗り込んで準備を整える。


 ガーズー騎士団も同様に、ライラを中心に動いている。


「ソルト、私たちは先行して偵察を行う。問題があれば知らせるから、安心して進んでくれ」


 ライラが指揮を取るガーズー騎士団は俺に対して感謝の言葉を全員で述べてくれており、この場にいる男性は俺だけだが、あまり気にすることなく仲間入りができた。


 ライラの頼もしい姿に、ガーズー騎士団の信頼が厚いことも窺える。


「了解、ライラ。みんな、安全第一で頼む」


 こうして、俺たちの混成部隊はアザマーン領の首都へと向かって旅立った。


 ハニーや、ミーアはすぐに動くことはできないので、準備を整えて後追いしてくれることになっている。



 夜が訪れ、俺たちは野営をするためにテントを張って焚き火を囲む。


 いくつか夜の見張りを立てているので、夕食を順番に取っていく。


「今日は順調だったな。ライラさん、偵察の結果はどうだったんだ?」

「今のところ、大きな問題はない。だが、瘴気に犯された魔物が出た際には世話になると思う。普通の魔物であれば我々でも対処ができるからゆっくりついてきてくれれば問題ない。ただ、首都に近づくにつれて警備が厳重になっているのは確かだろう。油断は禁物だ」


 ライラの報告を聞きながら、俺は彼女の冷静な判断力に何もいうことはない。


「そうか。ありがとう、引き続き警戒を怠らずに行こう」

「ええ、そうね」


 作戦を伝え、周りに人がいる間はライラは俺と目線を合わせることなく、必要なことだけを告げていく。


 やはり、協力者としては認識されているが、好かれてはいないのだろうな。


「ソルトさん! ご飯にしましょう」


 ライラの元を離れた俺にメイの元気な声が響く。

 自分たちで焚き火を作り、仲間たちで夕食を食べる時間は俺に取って癒しの時間だ。


 だが、どうしてもライラとの関係がこのままでは良いとは思えない。


 夕食を終えて、順番に寝静まる時間。


 一人で見張りをしているとライラがやってきた。


「少し良いか?」

「ええ」


 ライラの方からやってくるとは思っていなかったが、二人きりで話す機会が得られたことは喜ばしいことだ。

 彼女は焚き火のそばに座り、何か考え込んでいるようだった。


「……私は父上を嫌いではなかった」

「……そうか」

「確かに粗暴で女性好きな一面を持ち合わせている人ではあったが、裏を返せば獣人らしく野心があり、向上心のある男として、誇らしくあった」


 ライラが焚き火を見つめたまま、親子の関係について静かに話し始めた。


「お父さんが好きなんだな」

「好きじゃない! 好きじゃないが、尊敬はしている」


 ライラの態度に、少しむず痒い恥ずかしさを感じる。


「ユーダルス氏に会って、この旅が終わったら、君はどうするつもりなんだ?」

「もちろん私は、アザマーン領のために尽くすつもりだ。それにガーズー騎士団のためにも、これからの獣人女性を守るために戦い続けるつもりだ」

「そうか」


 彼女の決意は強くて、俺としても応援したくなる。


「君の決意は尊敬に値するよ。俺も君と同じように、仲間たちのために全力を尽くすつもりだ」

「ありがとう、ソルト。あなたと一緒に戦えることを嬉しく思う」


 ライラが照れくさそうに微笑む。

 その姿に、俺はますます彼女のことを知りたくなった。



 いよいよアザマーンの領の首都が見えてきた。


 俺たちは最後の戦いに備えて、最終調整を行うために作戦会議を行う。


「これが最後の戦いだ。皆、全力で行くぞ!」

「うん、ソルト! よろしく頼む!」


 城門の警備はそこまで厳重ではなく、兵士もいない状態だった。


「どうなっているんだ?」

「偵察はなんと?」

「アザマーンの街が静かで、まるで誰もいないようだと!」

「罠なのか?」


 俺は不意にアザマーンの城郭都市の向こうに、瘴気の痕跡を感じた。


「ライラ、どうやら俺たちの出番があるようだ」

「どういうこと?」

「瘴気が揺らめいている。ルリ、クルシュ、メイ、アオ。協力してくれるか?」

「ご主人様、もちろんです」

「ああ! 行こう!」

「はいです! やってやりましょう」

「いくの! 楽しみなの!」


 それぞれが力強く俺に従ってくれる。


「わっ、私も!」

「ん?」

「私も参加させてもらいたい」

「しかし、君は、ガーズー騎士団の指揮があるんじゃないか?」

「そっちは副官に任せる。現状の街の調査をしてもらうつもりだ。ただ、あなたたちの方が父上に近づけそうな気がするのだ」

「……わかった。準備を終えたら教えてくれ」

「ありがとう」


 俺たちはアザマーンに入るために、準備に取り掛かる。

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