第93話
二日ほど、俺はパーティーの仲間で休息を取って、ミーアから呼び出しを受けた。
ミーアの依頼でライラの救出と治療に関しては完全に達成できたと言うことで、報酬を受け取るために冒険者ギルドへやってきた。
どうしてもライラの存在が気になった俺は、四人に同行してもらって冒険者パーティーとしてギルドマスター室を訪れた。
「よくきてくれたにゃ」
ギルドマスター室には、ミーア以外にもライラとハニー様が待っていた。
全員分が座れる会議用の長テーブルがある部屋がギルドマスター室の隣になるので、会議室で今回の一件について話をすることになった。
ルリとの会話で、自分本位の態度を改めながらも俺のことを好いてくれている女性を大切にする。
ライラが俺のことを嫌っているならそれは仕方ない。
だが、それでも相手の話に耳を傾け、敬意を持って接するよう努める。
心では悲しくはあるが、全ての女性に好かれる男はいないのだ。
数日ぶりに会うライラはやっぱり俺を睨んでいた。
ギルドマスター室に入った瞬間、ライラは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに睨みつけるような顔に戻った。
俺は心臓が掴まれたような感じになるが、他にも人がいるのでホッと息を吐く。
「今回は報告でよかったのか?」
「そうにゃ。まずは、これが依頼に対する報酬にゃ」
ドラゴンゾンビやフィンリルを討伐した時ほどの多さはないが、それでも冒険者としては十分な資金だ。
「こんなにもらってもいいのか?」
「もちろんにゃ。ソルトたちがいなければ、ライラを無事に助けることは難しかったにゃ! それに私たちでは、あの寄生する魔物を討伐できなかったにゃ」
「そうか」
仲間たちの活躍を褒められたようで嬉しい。
それにちゃんとミーアは俺の仕事も評価してくれている。
「ほら、ライラもお礼を言うにゃ」
「うっ! わっ、わかってるわよ。ソルト、ありがとう。助かったわ」
ミーアに言わされてイヤイヤではあったが、ライラからお礼を告げられる。
「いや、俺は大したことはしていないよ」
俺の声は緊張で少し震えていたかもしれない。
「それよりも先日は、君の言葉で目が覚めたよ。あの時のこと、本当に申し訳ない。俺の軽率な行動で君を傷つけたことを、深く反省している」
今後は相手にヒールをかける際には細心の注意を払って行うつもりだ。
ライラは黙って俺の話を聞いていたが、やがて口を開いた。
「私も、言い過ぎた部分があった。それにそこまで気にしなくてもいい。私は元々口が悪いから」
顔を赤くして、視線を背けながらこちらを気遣ってくれるライラは、悪い人ではないのだろう。
俺は少し安堵した。
完全に嫌われているわけではないようだ。
許しを得られたことで、少なくとも理解は得られたように思う。
「ありがとう」
俺がお礼を伝えると、不意打ちでライラは微笑みを浮かべた。
「おう!」
少年のような中性的なライラの態度にドキッとさせられるが、すぐに恥ずかしくなったのか、顔を背けてしまった。
微笑んでくれただけでも、俺にとっての新たなスタートだ。
「ふふ、ライラ。よく言えたにゃ。ソルトさん、ライラのことを許してあげてほしいにゃ。この子も色々と苦労をしていて、騎士団を作ってここまで助けを求めにやってきたにゃ。まさか魔物に付け込まれると思っていなかったにゃ。少し迷惑をかけてしまったけど、改めて親戚としてお礼を言うにゃ」
ミーアが頭を下げて、ライラもそれに習って頭を下げる。
「話がまとまったようやね。さて、ソルト。ここからが本番やねん」
ミーアとライラの謝罪を受け入れ、今度はハニーが話を始める。
ハニーに会うのは、あの日の晩以来だから、少し恥ずかしい気もするが、ハニーはこちらを見て嬉しそうに笑うだけだ。
「本番?」
「そうや、ここからはアザマーン乗っ取り作戦の話をしたい」
「アザマーン乗っ取り作戦?」
「そや、今のユーダルス・アザマーン様の体制は、ウチらも許容できるもんやない。だからもっと弱者にも目を向けて助けられる領地にしていきたいんや。そのためにソルトたちには、ライラが率いるズーガー騎士団の助っ人をしてもらいたい」
ハニーからの申し出に対して、俺は戸惑いを覚えた。
ライラとの関係がそれほど良好に思えないからだ。
俺がライラたちの助けをしても本当に良いのか、悩んでしまう。
「ハニー、確かに申し出は嬉しく思うが、ライラは俺を好ましくは思っていないだろう」
「うん? ライラがソルトを好ましく思っていない?」
不思議そうな顔をするハニーが、ライラを見る。
「ライラ、あなたソルトのこと好きよね?」
「なっ! ベッ、別に私はソルトを好きじゃないし!」
「えっ? でも、さっきまで」
「うるさいうるさいうるさい! 好きじゃないったら好きじゃないから!」
そう言ってライラが会議室を飛び出して行った。
俺はライラの態度に気持ちが沈み込んでいく。
「くくくあはははははは」
「うわ〜ライラ面白いにゃ」
俺の気持ちとは裏腹に、ミーアとハニーが笑い出した。
「どうして笑うんだ?」
「それはな。う〜ん、面白いからライラの口から言わしたいな」
「そうにゃ。これは本人に言わせた方がいいにゃ」
俺は頭に???を浮かべて、仲間たちを見れば、ルリとメイも笑っていて、クルシュとアオは俺と同じ顔をしていた。
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