第89話
昨日、捕えられた暴走獣人たちについて、ミーアから話をしたいということで、呼び出しを受けた。
場所は冒険者ギルドの訓練所だった。
広場には三十人近くの獣人が眠っていた。
そして、昨日は気づいていなかったが、全員が女性だった。
「えっと、これは」
「隠しても意味がないにゃ。それにソルトに助けてほしいにゃ」
「まずは事情を話してもらえますか?」
「わかったにゃ」
倒れて意識を失っている女性たちを前にして、ミーアが説明を始めてくれた。
「まずは、アザマーン領主、ユーダルスには一人娘がいるにゃ」
「らしいな」
ユーダルスがアザマーンに来た際には、娘にあってほしいと言っていたので、覚えている。
「知っていたにゃ?」
「前にユーダルスから聞いたんだ」
「そうかにゃ。なら、話は早いにゃ。その娘はユーダルスに反発していたにゃ」
「そうだったのか」
「そうにゃ。父親の強引なやり方に嫌気がさして、自分だけの騎士団を作り上げて、反旗を翻すために、ハニー様に協力を要請していたにゃ」
ユーダルスがコーリアス領へラーナ様を誘拐しに行っている間を娘のアリアが自分が作り上げた騎士団員30名をつれてハニーに助力を求めた。
話し合いが決着する前に、ユーダルスが帰還することを知って、一時的に街を離れていたという。
だが、ミーアたちの元へ入ってきたのは、領主娘が作り出した騎士団員全員が錯乱してゾンビのような状態で帰ってきたという。
それで密かに捕獲をしようとしていたが、上手くいかなくて我々に助力を求めた。
その結果、俺たちは本日中に全員を捕まえることに成功して、現在に至るというわけだ。
「それで?」
「それでにゃ、目を覚まさないにゃ。何かしらの幻覚作用か呪いで、今の状態になっていると思うにゃ。獣人には聖属性魔法が使える者がいないにゃ。それに、使える人間がいてもソルトほどに強力な聖属性を支えて、協力してくれる人はいないにゃ」
ハニーの事情をきいて、俺は彼女たち一人一人の診察を行うことにした。
全員が年齢十代で、一番上で十九歳か、二十歳と言ったところだ。
若い彼女たちの中に、黒猫の美しい女の子を見つけた。
「この子が?」
「そうにゃ。ユーダルスの娘で、次期アザマーン領主ライラ様にゃ」
美しい黒猫は愛らしいと思える。
ミーアとは種族は違うのだろうが、どこか猫科の獣人ということで似ているような印象も受ける。
「彼女を救いたいってことでいいのか?」
「そうにゃ。この子は未来のアザマーンを作ってくれる子にゃ」
「未来を?」
「ユーダルスは、祭りの帰りにここに寄ってハニー様と話をしたにゃ。私もそこにいたにゃ」
ミーアはあのユーダルスにあったのか。
「ソルトがユーダルスを変えてくれたにゃ」
「……」
「感謝してるにゃ。前のユーダルスは頭がおかしかったと自分で言っていたにゃ。だけど、それをソルトが救ってくれたと言っていたにゃ。きっとこれからのアザマーンは絶対に良くなっていくにゃ」
ミーアは未来を見ているのだろう。
そして、アザマーンの次の領主に未来を託そうとしているんだ。
「頼むにゃ! 回復術師に体を治してもらうことはできたにゃ。だけど、目を覚まさないのにゃ。それにどうしてあんな状態になったのかもわからないにゃ。それをソルトに助けてほしいにゃ!」
助けてほしい……か。
俺はどこに行っても助っ人として、求められるのは嬉しいことだ。
「わかった。診察させてもらう」
「感謝するにゃ!」
「エリス!」
俺はエリスとその仲間たちであるスライムたちに協力してもらって診察を開始する。
呪い、毒、魔術、なんであろうと聖属性は正しき道に戻す魔法だ。
「俺を信じてくれるか?」
「もちろんにゃ。ソルトはDTじゃなくてもいい匂いにゃ」
「今、それをいうなよ」
「助けてくれたら、私の初めてをあげるにゃ」
「えっ!」
「今度は嘘じゃないにゃ。この子は私にとって姪で、可愛い子なのにゃ。それぐらいに大切な人なのにゃ」
いつもは誘惑するようにおちゃらけて俺を誘うミーアが真剣な顔をして俺に助けを求める。
それはズルイと思うぞ。
泣きそうなミーアの顔を見て、助けない奴は男じゃねぇ。
「全てを任せてくれ」
俺は空間を遮断する聖属性魔法を発動する。
外部から操作されている恐れも考えて、結界で魔術を遮断する。
さらに、エリスたちにそれぞれの体に入り込んでもらって、調査をすれば、体に毒や魔術的な因子、呪いの類がないのかも調査ができる。
全員の肌を見るために三十人全員を裸にして、体の皮膚から、体内まで全て診察をしていく。
一人に手がかりがわかれば、他の者たちも全て解除できるかも知れない。
「マスター」
それは一人の少女の心臓に撃ち込まれた目玉だった。
「なんだこいつは?」
「見つかったのかにゃ!」
「多分な」
不意に、ハニーの事件でスライムが病魔として使われていたことを思い出す。
また、体内に魔物を寄生させる方法だった。
この心臓に打たれた目玉は呪いだ。
彼女を触媒にして、彼女たち三十人を操っていた。
現在は、結界を張ったことで操作が行えないのだろう。
閉じられた目を、エリスを通して見つけることができた。
「今から魔物を切り離す。どうなるのかわからないから、ここに居てくれるか?」
「もちろんにゃ!」
俺はエリスに少女の心臓を守らせながら、魔物を切り離していく。
彼女が触媒であっても、必ず救ってみせる。
「出るぞ!」
完全に目玉と彼女を切り離すことに成功した。
「なんにゃ! この魔物にゃ!!」
巨大な目玉の魔物がその瞼を開いて、こちらを見ている。
「こいつが原因だ」
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