第87話

 冒険者としての仕事をして、仲間と食事をする。

 

 それは俺にとって当たり前の光景で、目の前に美しい女性たちが座っていても、気にしないと思っていたが、ルリが優しく俺に微笑みかける。

 アオが楽しそうに肉を食べ、クルシュさんとメイが楽しそうに談笑しながら、食事をとる。


 エリスは小さくなって、俺から与えられる食事を溶かしていく光景に、仲間っていいなって思えてくる。


「ご主人様、どうかされましたか?」

「ううん。なんだか幸せだなって思ってね」

「幸せですか?」

「ああ、みんなと過ごす時間が、凄く俺にとってはかけがいのない時間だと思っていたんだ」

「ふふ、大袈裟ですね」


 ルリは近くで、色々と世話を焼いてくれる。


 反対隣に座ったメイも対抗するように俺に話しかける。


「ソルトさん、夜はハニー様に報告に向かうんですよね?」

「ああ、そのつもりだ。こちらの仕事はみんなに任せることになる」

「ふふん、任せてください。情報を掴むのは私の専売特許です」


 ロケットのように突き出した胸を、さらに突き出して胸を張るメイは小柄で可愛い。ついつい頭を撫でたくなってしまう。


「ぬふ〜」

「あ〜、アオもアオも!」


 メイを撫でているアオもやってきて、賑やかな食卓を仲間たちと囲うのは楽しいな。


 ♢


 静かな夜などダウトの街には訪れない。


 賑やかな歓楽街には獣人たちが呼び込みをして、男たちが惚気た顔で店へと入っていく。


 消える男の情報はあれから掴めていない。

 だが、あの方としてシンシアが関わっているなら、いつかは必ず尻尾を掴んでやる。


 俺はハニー様が待つといっていた酒家に入る。


 二階の個室に案内されて、着物を着崩して月光を浴びながらも酒を飲むハニー様が待っていた。


 彼女の白く柔らかな毛並みが淡い光を反射し、幻想的な一枚の絵に見えた。


「ハニー様、遅くなって申し訳ありません」


 挨拶をしならが声をかければ、彼女の顔と頬はほんのりと赤みを帯びていた。

 それがまた妖艶で、彼女の魅力を引き立てているように感じる。


「報告、聞かせてや」


 彼女に優しい声で尋ねられ、事件が解決したことは知っているのか、表情に焦りと疲れが出ていたのが和らいでいる。


 彼女の力になれたことが何よりも嬉しい。


「消える男がやっぱり犯人でした。奴は病魔スライムを使って遊女たちに病気を植え付けていたんです。さらに、時を止める魔導具を持っていて、聖属性の俺以外の人間は時を止められていました」

「それはまた厄介な! 聖属性は対抗できるんか?」

「動きは鈍くなるようですが、対抗できました」

「相変わらず出鱈目な頼もしさやな」


 ハニー様は少し考え込むように目を細めた。


「それで、解決はしてんやろ?」

「病魔に関して聖属性の回復は全て行ってできることはしました。病魔のスライムも全て取り除いたので、気づけた者はなんとか」


 実際に、俺がダウトの街に戻る前に亡くなった者もいると聞いた。

 そんな者たちのことを思って、ハニー様は憂いに満ちた顔をされているのかもしれない。


「消える男には逃げられてしまいましたが、ダウトの街から出ていくと思います」


 奴に対して、認識が乏しく難しいことも告げている。


 あいつが本気になれば、出会うことすら難しいだろう。

 今回はエリスがいなければ解決は難しかったと思う。


「それでもウチの街に蔓延った病魔を排除してくれてありがとう」


 ハニー様は街の代表として、俺に頭を下げた。

 その姿勢は立派で、俺も笑顔になってしまう。


 事件の報告が終わり、緊張感が少しずつ和らいできた。


 俺は酒は胃の中で分解できる程度に止めるためにゆっくりと飲むことにした。


 ハニー様は月光に照らされるその美しい姿を見ながら、ふと笑顔を浮かべた。


「本当に、よく頑張ってくれたわ。感謝しとる」


 彼女の声は穏やかで、心から安堵しているのが伝わってくる。


「いえ、そんな。俺が役に立てることでよかったです」


 ハニー様の雰囲気に照れてしまう。


「でも、お礼はちゃんと言わあかん」


 そういってハニー様は俺の胸に頭を預けた。


「ふふ、そんなに固くならんでええよ。緊張してるんわうちの方や」


 彼女は笑いながら、俺の手をそっと握った。

 その手を豊満な胸へと押し当てる。


 ハニー様の心臓が早鐘を打つように鼓動していた。

 弾力はとても柔らかで、脳内に一気に血液が流れ込んでいくのがわかる。


「ハニー様…」


 俺はその胸の温もりに驚きながらも、彼女の求める答えについて思考を巡らせ始めていた。


「ウチな遊廓を取り仕切っとる長をしとる。せやけど、男を知らんって言うたら信じてくれる?」


 ペタンと垂れたウサギの耳に、上目遣いでこちらを見つめるハニー様は、生娘であることを告白して、俺の反応を楽しんでいるように感じる。


 ただ、彼女は優しく微笑み、その瞳には深い信頼が伝わってきた


「はい、信じます」

「うん。ソルトさんには嘘はないな」


 潤んだ瞳をしたハニー様の唇が俺の唇と重ねられる。


 月明かりの下で交わされた二人の口付け。


 隣の部屋に用意された畳の上に敷かれた布団。


 彼女は俺との約束を果たそうとしている。


 だからこそ、ここで俺が選ぶべき選択は彼女をお姫様抱っこで抱き上げた。


「きゃっ! 強引やね」

「優しいだけの男は飽きられるでしょ?」

「ふふ、そうやで獣人は強い男が好きやねん。ソルトは他の男と違って臭くない。それに男らしいなんて最高やん」


 そういって俺の首に腕を巻き付けて、俺に身を委ねた。

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