第85話

 犯人を逃したものの、手に入れたスライムの容器を手に、俺たちはハニー様のもとへ急いだ。


 消える男の正体や目的を突き止める手がかりを掴むため、病魔のスライムを詳しく調査する必要があった。


「ソルト、これは一体なんや…」


 ハニー様は容器の中で動くスライムを見て、眉をひそめた。


「これは病魔のスライムです。このスライムが感染源となり、遊女たちに病を広めていたんです」

「なるほど…このスライムを調べれば、病の原因を突き止められるということやな」

「その通りです。早速、調査に取り掛かります」


 俺はハニー様の窓の無い密閉された部屋を借りて、エリスと共に病魔のスライムについて調査を始める。


 エンペラースライムであるエリスにとっては仲間を無惨に扱われたような物だ。

 仲間意識があるのかわからないが、エリスが居なければ魔物の存在に気づくこともできなかった。


「エリス、聖属性魔法の結界を張る。ハニー様にもこの部屋には誰も近づけさせないように行ってあるが、十分に警戒してくれ」

「はい! マスター」


 俺はエリスを助手にして、病魔のスライムを解き放った。

 

 容器を開けると、スライムが淡い紫と黒の腫瘍を作り出すように蠢いている。


 異様な黒い液体を抽出していた。


「この黒い液体が病の元凶です…」


 エリスの呟きに、俺は聖属性魔法を放った。


「キュア! キアリー! アンチドーテ」


 解毒作用もあるキアリー、キュア、アンチドーテを一つ一つ試してみれば、効果が発揮して浄化されていく。


「うむ。どうやらどうにかできそうだな」

「はい!」


 同じく黒いスライムは真っ白なスライムへと変貌を遂げる。

 それはエリスの時と同じだが、エンペラースライムでは無い普通のスライムなので、女体化はしないだろう。


 黒い液体を調べていくことで、一つの事実が判明した


「これは…スライムに吸収させることで、闇属性に死属性を混ぜた病原体を作り上げているんだな」


 解毒だけでも、回復だけでも、浄化だけでも全てを消去することはできない。


「闇属性と死属性が病の原因になっているのですね」


 エリスは死属性特化して吸収させられていた。

 だが、この小型スライムたちは体に取り込ませることで、内部から蝕むように病原体として作られたんだ。


「病魔のスライムたちも救ってやろう」

「そんなことができるのですか?」

「原因がわかればなんとかなる。エリスにも協力してもらうぞ」

「はい!」


 エリスは嬉しそうな顔をして、病魔のスライムだった小さなスライムをその手のひらに乗せていた。


「スライムを気にかけているのか?」

「私は彼女らの女王のような存在です。彼女達が、幸せになれるなら力を貸してあげたいのです」

「わかった。助けられる者たちは必ず救おう」

「ありがとうございます」


 エリスと約束をして、俺は病魔のスライムに侵された者たちを治療するために動き出した。


 症状の重い者から順番に、病魔のスライムを体から切り離す解毒の魔法をかけて、エリスが体内に入って病魔のスライムを引きずりだす。


 引き摺り出された病魔のスライムを浄化して、病魔のスライムを取り除かれた者に回復の聖属性魔法をかけると症状が改善した。


「ふぅ、どうにかなりそうだな」

「はい!」


 エリスと共に20名ほどの患者を治療して、最後にあの兄妹の元へ向かった。


 ♢


 病魔に侵された妹を必死に救おうとする兄。


 彼女の治療が一番の難関だった。

 症状は特に重く、病魔のスライムが深く体内に侵入していたからだ。


「エリス、準備はいいか?」

「はい、マスター!」


 俺たちは兄妹のもとへ向かい、治療を開始した。


「大丈夫だよ、きっと治るからね」


 俺は妹に優しく声をかけながら、聖属性の結界を張った。


 苦しみから衣類はハダケ、小ぶりならがも可愛い胸が解き放たれる。

 兄に部屋から出るように言って、俺はエリスが体内に入るための準備に取り掛かる。


「キュア!」


 前回に来た時よりも、病魔のスライムが強く妹に結びついていた。


「うぅ…ガハッ!」


 妹は苦しそうに呻いたが、エリスの手によって少しずつスライムが取り除かれていく。俺はその都度、浄化の魔法と解毒の魔法をかけ、エリスの補助をする。


 エリスから送られてくる念話で状況を把握して、妹が傷つかないように後遺症の心配をしながら手術を進めていく。


「もう少しだ、頑張れ!」


 妹とエリスに声をかけながら、必死に力を尽くした。


 エリスの手の中で、病魔のスライムは次第にその力を失い、清らかな光に変わっていった。


「…終わったか?」


 エリスが最後のスライムを浄化したとき、妹は静かに息をついた。


 彼らの顔には少しずつ血色が戻り、安らかな表情を浮かべていた。


「ヒール!」

「んんんんんん」


 苦悶の表情を浮かべながらも、妹は悶えて意識を完全に手放した。


「ありがとう、エリス」


 小さいエリスの頭をそっと撫でれば、彼女も疲れ切った様子だったが、満足げに微笑んでいた。


「これで、一先ず解決だな」


 俺は安堵の息をついた。


「いっ、妹は!」


 俺はハダケた衣類を元に戻してから、兄を部屋の中へ招き入れた。


「もう大丈夫だ」

「ありがとう! ありがとうございます! 先生!」

「先生?」

「はい! あなたのおかげで妹は助かりました! 治療費は絶対に俺が冒険者になって返します! ありがとうございます」


 泣きながら何度もお礼を告げる兄に苦笑いを浮かべながら、治療費のことは気にしなくていいと告げて、遊郭を後にした。


 結局、病魔のスライム22体もいてその全てがエンペラースライムのエリスに付き従うというので、仲間として受け入れた。


 疲れ切った俺はハニー様の報告を次の日にして、ホテルの宿へと帰った。


 四人に、俺がしていたことを説明して、消える男に警戒してほしいということを告げて、俺はホテルの部屋で眠りについた。


 だが、その日の晩に不思議な光景を目にすることになった。


「うん?」


 白いスライムたちによって、俺は風呂に入れられてスライムボディーなエリスによって洗体を行われる。

 

 それは普段の温かなお風呂とは違って弾力があり、ウォーターベッドに寝ているような心地よさがある。


 さらに、全身をスライムたちが綺麗に泡立てて、洗ってくれた上に、そのフカフカでプルプルなボディーを使って綺麗にしていくのだ。


 疲れすぎて、身を任せたがあれは夢だったのか現実だったのか、今でもわからない。


 ただ、最高でした!



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