第83話

 ダウトの街を歩きながら、手掛かりはないか観察を続けるが見つけることはできない。


 魔物が体の中を蝕む病にかかった人々は、異なる場所で生活していた。

 一つの遊女だけではなく、各店舗の遊女が数名、この奇病に侵されている。


 共通点は全員が遊女であるということだ。

 

 それも各店舗の人気ナンバーワンではなく、中堅どころの遊女が多い。


「何かがおかしい…」


 何かがこの街で起きていることはわかるが、ピースが足りていないように思う。

 それを突き止めるためには、もっと深く調べる必要があるが何を調べればいいのかわからない。


 その夜に、もう一度ハニー様のもとを訪れた。

 ハニー様は疲れている様子だったが、温かく迎えてくれた。


 昼間に見た時のようなバニー姿ではなく、部屋着としている着物を着崩した姿は、何か思い詰めた様子に見えた。


「ソルトさん、色々と患者を診てくれたみたいね。どうだったかしら?」


 ハニー様の問いに、俺は首を横に振った。


「まだ手掛かりは掴めていません。ただ、俺がテイムしたスライムが調査してくれた結果、魔物が体内に巣食っているということはわかったのですが、どんな魔物なのか不明な今は解毒と回復で、なんとか持たせることしかできませんでした」

「魔物! それは回復術師の誰も言っていなかったわ」

「私もエリスがいなければ、わからなかったです。ただ症状は、普通の風邪やインフルエンザではないと思ったので、解毒をしたところ、その気配が掴めました」


 ただ、それは解決したことにはならない。


「症状は、ハニー様が話してくれた通り、普通の病では説明がつかないほどの衰弱と症状の進行が見られます。魔物の正体を掴めれば、聖属性で倒せると思うのですが」


 ハニー様はしばらく考え込んだ後、静かに話し始めた。


「実は、私も最近この街で奇妙な噂を耳にしてるんや」

「奇妙な噂?」

「そや、なんでも消える男って呼ばれてる不思議な男や」

「消える男?」

「あんまり人気のない遊女を指名して、気前よう金払いもええ。せやから、丁寧にもてなすんやけど、次の日に遊女が起きたら消えてるんや。金はちゃんと前金で払っているから問題はないねんけど、消えてまうんや」


 それがこの病魔を振り撒いたのと同時期であれば、怪しい人物だと言えるだろう。


「ありがとうございます、ハニー様。早速調査してみます」

「まぁ、待ち」

「えっ?」


 立ち上がった俺にハニー様が腕を掴んでそのまま胸にしなだれかかってきた。


「疲れた女が目の前におる。それを放置して仕事に行く男はモテへんで」

「あっ、大丈夫ですか?」

「とってつけたような労いの言葉はいらん。ウチが欲しいんは癒しや」

「癒し?」


 俺は何を求められているのか考える。


 だが、ダウトの街に来るまでの間に四人の女性と経験を積んだことで、一つだけ女性のことでわかったことがある。


 男性との触れ合いもまた女性への癒し効果があるということだ。


 シンシアの気持ちはわからないが、ルリは俺に変態紳士であることを求めた。


 ラーナ様は、男性が苦手だったが、俺を受け入れてくれた。

 フレイナ様は、初めてを俺に捧げてくれた。


 全員がそうだとは言えないが、心が疲れてしまった時。

 辛い時、甘えたい時、異性でなくても同性であっても触れ合うことで、癒される瞬間があるんじゃないかと思える。


 だから、俺は何も言わずにハニー様を抱きしめた。


「あっ! なんやわかってるやないか」


 ハニー様が俺に好意を抱いているのか、正直わからない。

 だけど、心が消耗している時に、誰かを求めているのは伝わってくる。


 だから、彼女を抱きしめてゆっくりとリラクゼーションと、ヒーリングの魔法をかけていく。


 体が傷ついているなら、ヒールで回復させるが、今の彼女が疲れているのは、きっとその心だ。


 だから、変態である前に紳士として、彼女の心を癒すことに努めたい。


「うっ! んんはぁ〜」


 快感というよりも、マッサージを受けて心地良くなるような感覚をハニー様に与えて彼女の体と心に安らぎを与えていく。


「ふぅ〜、不思議やわ。最近は忙しくてなんや疲れてたけど、こうしてソルトさんに抱きついてると、それだけで心が癒やされていくような気がする。不思議やね」


 魔法を使っているとは言えないな。


 彼女の心は連日の問題を解決するために、消耗して疲弊してしまっているんだ。


 なら、どんな形でも癒しを与える。


 着崩した胸元から溢れそうな爆乳も、獣人特有の兎耳や、可愛い尻尾も、今の俺にとっては目の毒にしかならない。


 どこまでも魅力的過ぎるハニー様の姿は、経験して光輝く女性を知って、誰でもいいというわけじゃないが、こうやって誤解してしまいそうなほど近づかれると勘違いしてしまう。


「なぁ、ソルトさん」

「はい?!」

「なんや、緊張してるん?」

「それは仕方ないと思います。ハニー様ほどの美人に抱きつかれて緊張しない男はいないと思います」

「上手いこというやん。せやけど、どこぞの女にDTはくれてやってんやろ?」


 初めてのことを言われるとどうしてもシンシアの顔が浮かんでくる。


 それは胸に残る傷のような感覚だ。


「なんや、その反応? ウチが思ってるんとは違うん?」

「そうですね。初めての相手は、そんな綺麗なものではなかったと思います」


 俺は聖属性の範囲魔法を放って部屋や、ハニー様を綺麗に浄化して、彼女の心の憂いを清める。


「この事件が全て解決したら、俺にご褒美をくれますか?」

「ご褒美?」

「ええ、俺から求めるのは初めてなんですが、ハニー様と過ごす一晩を」

「……ええのん?」

「えっ?」

「ウチはダウトの代表で、遊郭の長や。それに寂しがりや、やから求めてくれたら離したくないって思う。ついて行ってしまうかもしれへんよ」

「……俺はズルい男です。複数の女性と関係を持ち、自分の目的のために行動している。あなたがそれを嫌いなら」


 俺の言葉が言い終わる前にハニー様が、唇にキスをした。


「野暮は嫌いや。他の女なんてどうでもええ。ソルトさんはウチが欲しいか?」

「……欲しい。あなたは俺にとって魅力的だ」

「嬉しい!」


 そう言ってハニー様が抱きついてくれる。


「別に他の女がおってもええ、その気持ちをウチにくれたんや嬉しいねん。ウチもホンマはこの街を離れられへん。せやけど、ソルトさんのことが好きやってん」


 俺たちはもう一度キスをする。


 次に二人きりになるのは、事件を解決した後だと約束して……。


 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あとがき


どうも作者のイコです。


昨日はたくさんのお祝いコメントや、応援をありがとうございます!

また今日からよろしくお願いします(๑>◡<๑)


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