第82話

 前に来た時よりもダウトの街には、さまざまな人々が行き交っていた。


 豪華な衣装をまとった遊女たち、賭博に興じる客たち、その中には病に苦しむ人々も混じっているのだろう。


「冒険者ギルドのミーアにも話を聞きに行こう」

「そうですね」


 俺たちは冒険者ギルドに向かって、中に入れば殺伐とした雰囲気が漂っていた。


「すみません。ソルトです。ギルドマスターのミーアさんに会いたいのですが」


 受付さんに話しかければ、こちらも忙しいのか随分と疲れた顔をしている受付さんが対応してくれた。


「申し訳ありません。現在、依頼が立て込んでいてギルドマスターも駆り出されているのです」

「そうでしたか、それではソルトが来たと伝言をお願いします」

「かしこまりました」


 本格的に冒険者として、原因の解明を急いだほうが良いかもしれな。

 今回の病気が冒険者ギルド内でも起きているなら、人手不足はそこから来ているのかもしれない。


「とりあえずホテルを確保して聞き込みだな。今日は休みをとって、明日から本格的に調査をしよう」

「「「はい!」」」


 アオ以外の三人が返事をしてくれて、アオは不思議そうに外を眺めていた。


「何かあったのか?」

「ううん。前に来た時よりもお空がどんよりしてて、空気も臭いなって思ったの」

「空気が臭い?」

「うん」


 アオやルリはフェンリル種として、普通の人間よりも鼻が効く。

 ルリを見れば、アオの意見に同意するようにうなづいた。


「そうか、出来るだけ、俺が浄化を使って綺麗にしてみるよ」

「嬉しいの!」 


 アオが喜んでくれたので、俺たちはホテルに移動して、三つの部屋を取った。

 それぞれの部屋からも臭い匂いがするというので、浄化とクリーンをかければ、多少はマシになったという。


 俺はエリスを肩に乗せたまま、一人で夜のダウトの街に向かった。


 煌びやかに見えていた遊郭街も、裏に潜む病魔の影で、どんよりと重い空気に思えた。


 ハニー様に協力してくれると聞いていた遊郭に辿り着く。


「月光堂、ここだな」


 俺が中に入ると番頭をしている熊獣人の女性がジロリとこちらを睨んだ。


「なんだい?」

「ハニー様に依頼されてやってきた。ソルトだ」

「ああ、あんたがそうかい。こっちだよ」


 番頭が小間使いを呼んで案内された場所にいけば、三人の遊女がそれぞれの部屋で寝かされていた。


「突然発症して、あっという間に衰弱してしまったんです」


 案内してくれた駒使いは、世話役をやっている様子だが、病が移っている様子はない。


「どこでその病にかかったのか、何か心当たりはありますか?」

「それが、特定の場所や時間というのはないそうです。ただ、ここ数週間で急に増え始めて」


 その情報に、何か共通点があるはずだが、まだその手掛かりは掴めない。

 

 その時、突然一人の男が駆け寄ってきた。


「おい、あんた! あの病を治せるのか?」


 彼の目は充血し、不安と怒りが混じっていた。


「落ち着いてください。私は病の原因を探っているところです」


 冷静に答えると、男は拳を握り締めた。


「妹が…妹がその病にかかって、もう死にそうなんだ! 助けてくれ!」


 その言葉に急を要する案件であることは理解できた。


「どこにいるんですか? すぐに診に行きましょう」


 男は泣きそうな顔で頷き、案内してくれた。


 彼の妹が寝ている部屋に入ると、そこには衰弱した若い女性が横たわっていた。

 体中に発疹が広がり、息も絶え絶えだった。


「これは…」


 この病の症状は、ただの病気ではない。何か異常な力が働いているように感じた。


「助けて…お兄ちゃん…」


 まだ年端も行かぬ遊女は、微かな声で兄を呼ぶ。

 その姿に、助けたいと思った。


「今から回復魔法を施してみます。回復魔法では、一時的効果しか得られないという話ですが、原因を突き止めるまでは」

「頼む! 妹! 妹を助けてくれ!」


 男は涙を流して感謝の言葉を口にした。


 まずは、何からすればいい。皮膚に広がる発疹。発熱に衰弱する体。

 何かの毒やウイルスの影響を受けている可能性がある。


 ウイルスなど、この世界の人間に言っても理解されないが、もしかしたら解毒が効果を表してくれるかもしれない。


「アンチドーテ」


 解毒作用のある聖属性の魔法を放って、彼女の体を襲う病の進行を抑える。

 それまで苦しんでいた顔色が見る見る落ち着いてきたので、さらに「ヒール」回復魔法をかけて修復を試みる。

 

 発疹は進行を止めて、病気の進行を止めることはできたようだ。

 だが、根本的な解決にはなっていない。


「エリス、何か手掛かりはないか?」


 俺は肩に乗っていたエリスを、患者の側に降ろして問いかける。


「魔物? が中にいると思う」

「魔物?」

「うん。気配がする」

「わかった。もっと調べる必要があるな」


 病気の進行を抑えることはできるかもしれない。

 だが、根本的な原因を取り除かなければ、全てを解決することはできない。


「妹さんの容態は安定していますが、いつ進行を開始するのか分かりません。今は絶対に安静に」

「ありがとう! ありがとう!」


 男性に別れを告げて、残った三人にも同じ方法で治療を行った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。

 本日は2話投稿しております。


 どうぞよろしくお願いします(๑>◡<๑)

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