第81話

 ガイン様たちに別れを告げた俺たちは、アザマーン領のダウトの街へ入っていく。


 門を隔てただけであるが、明らかに雰囲気が変わって異彩を放つ場所だ。

 華やかで賑やかな通り、煌びやかな灯りに包まれた遊廓が派手に光を放っていた。


「私は初めて来るが、派手だな」

「私も初めてです」


 クルシュさんとメイがダウトの街の雰囲気に驚いた様子を見せている。

 俺が前にここにやってきてから一ヶ月ほどの時間が経っている。


 あのときはアザマーン領から入り込んだ間者の調査のためだったが、今回は、シンシアの目的を探るためにやってきた。


 個人的な目的だ。


「ダウトの街は相変わらず賑やかだな」

「そうですね。ハニー様はお元気でしょうか?」

「目がチカチカするの!」


 ルリはハニーと随分と仲良くなったものだ。

 アオと出会ったのもこの街なので、二人にとっては懐かしい場所かもしれない。


 ルリに、エリスの教育を任せたおかげなのか、エリスは、体型を変化させている。


 グラマラススライムボディーから、現在は俺の肩に乗れるほど小さな妖精サイズに変化していた。

 お人形のようで可愛く、またサイズに合わせて比重も軽くなるのか、重さを感じない。


 街の風景は、色とりどりの衣装を纏った女性たちが行き交い、賑やかな声が飛び交っている。


「前よりも、賑やかに感じるな。何かあったかな?」

「うむ。向こうで人が集っているようだ」

「ハニー様もおられるかもしれません」


 クルシュさんが気づいた場所に向かっていけば、人が集まっていた。


 ルリの発言もあり、ハニー様のことを考える。

 彼女は兎の獣人で、ダウトの街と遊廓を仕切る人物だ。

 この街の事情に詳しいだけでなく、俺にとっては間者のヒントをくれた重要な協力者だ。


 人が集っているところに近づいていくと、ハニー様が中央におられた。


「うん? ソルトさん! ルリ、よう来たな〜。久しぶりやん」


 リアルバニーガールの衣装で、酔っ払いの男を三人ほど倒して、ピンヒールで踏みつけていた。


 そんなハニー様の姿に、クルシュさんとメイは唖然とする。

 アオとルリは慣れた光景で、あまり驚いた様子はない。


「久しぶりです。ハニー様」

「うん? また女が増えとるやないか? もしかしてソルトさん、結婚したんか?」

「いえ、結婚してません」

「なんや、それならええけど」


 それまで豪快に酔っ払いたちを蹴散らして踏みつけていたハニー様が、モジモジとした態度で、こちらに近づいてくる。


 先ほどまでは優雅な雰囲気をしていたのに、どこか可愛らしい乙女チックな態度にラーナたち同様に、キラキラとした輝くような美しさを感じる。


「すんすん、ふ〜ん、結婚はしてないけど、DTは卒業したみたいやね」

「なっ!?」

「ソルトさんはわからんやろうけど、獣人にはお見通しや!」


 不意打ちで脱DTしたことがバレて焦ってしまう。

 

「まぁええわ。DTちゃうかて、ええ匂いなんは変わらんようやからな」


 俺は自分で自分の匂いを嗅いでみてもよくわからない。

 

 ハニー様にはやっぱり叶わないな。

 彼女は、俺の様子に微笑んで案内してくれた。


「こっちや、ついといで。お話は奥でしよ」


 ハニー様に従い、遊廓の奥へと進んでいく。


 華やかな装飾が施された廊下を通り抜けると、静かな部屋に通された。

 部屋には香の匂いが漂い、落ち着いた雰囲気が広がっている。


「先ほどのはよかったんですか?」

「先ほど? ああ、酔っ払いのことかいな。あんなん日常茶飯事や。ダウトの名物みたいなもんやで」


 ハニー様の余裕な様子に、こちらの方が笑ってしまう。

 クルシュやメイも荒事には慣れているので、ハニー様の行動に納得したようだ。


「それよりもや、ソルトさんが来てくれたんわ、ホンマによかったわ」

「どういうことです?」

「最近な、この街で奇妙な病が流行ってるんや。回復術師が治療をしても、体力は回復できんねんけど、完全には治されへん。つまりは原因が分からないまま苦しんむ遊女が増えとる」


 ハニー様が町民のことを思って苦しそうな顔をされているので、聖属性の回復術師として久しぶりに仕事をすることになるかもしれない。


「具体的にはどんな症状なんですか?」

「最初は発熱や倦怠感、次第に皮膚に奇妙な発疹が現れ、進行すると体の様々な部分に痛みが生じるんや。それに…心身ともに衰弱していくや」


 その説明に、俺は背筋が寒くなるのを感じた。

 この病はただの風邪やインフルエンザではない。

 もっと深刻な何かが潜んでいるように思う。


「なぜ、そんな状態になったのか、何か手掛かりはありますか?」


 ハニー様は困ったように首を振った。


「まだ何も分かってないねん。回復術師たちも手を焼いてもうて。だから、ソルトさんの力を借りたいんや」

「原因がわからないのでは、施しようがないので、まずは調べてみます」


 俺が力強く答えると、ハニー様はほっとしたように微笑んでくれた。


「ありがとう、ソルトさん。今回も期待させてもらうわ。この病からどうか救ってやってほしい」


 ハニー様は前にあった時よりも随分と疲れているのか、化粧を濃くしておられた。


 相当に疲れが溜まっているのだろう。


 現状は回復術師が体力を回復させているということで、俺たちは原因となるものはないか街を歩きながら、病の手掛かりを探すことにした。


 灯りが揺れる街並み、賑やかな声に紛れて、潜む闇が深くなっているように感じた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 実は、本日6月15日、作者の誕生日です!

 気合い入って本日は2話投稿していきます!(´・ω・`)


 誕生日プレゼントに☆、もしくは♡のプレゼントをお待ちしております!


 気楽に推してくれると嬉しいです(๑>◡<๑)



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