第80話

 目覚めると真っ白な体をしたスライムが、女体化して言語を話すようになっていた。


 なんでもエリスと名前をつけたことで、元々エンペラースライムとして、モンスターの進化の限界を迎えていて、名前を得たことで限界を突破してネームドモンスターとして、究極進化をしたらしい。


「マスター、今日はなに?」


 女体化したエリスだが、まだ言葉を発することが得意ではない。


 肌の色は真っ白で、スライムボディーなので完璧な人間かしたわけではいが、その肉体は変態たちを刺激するのに十分な魅力を持っている。


「とりあえず服を着なさい」

「服?」

「ルリ」

「はい! ご主人様!」


 メイド服に身を包んだルリが、素早くワンピースをエリスに着させてくれる。


「う〜、窮屈」

「ルリ、すまないがエリスの教育を頼めるか?」

「かしこまりました」

「ありがとう。俺はダウトの街を通り過ぎる前にガイン殿に挨拶を済ませてくる」

「はい。それではご主人様が帰られるまではエリスのことを指導しておきます」

「ああ、急がなくてもいいが頼んだ」


 俺はエリスの方を見る。

 服が苦手なのか、手を使って脱ごうとしているので、頭を撫でてやる。


「エリス、君が人間の姿で生きていくなら、常識を学ばなくちゃいけない。だから、ルリの言うことを聞いて人間の社会で生きていくことを学んでくれ。ルリの言うことは俺の言うことだと思って聞くんだぞ」

「わかった」

「ああ、それじゃ頼むな。ルリ」

「はい!」


 俺は少々心配ではあったが、アオの母親であり、これまでの旅で一番の常識人であるルリに教育を任せることにした。


 クルシュさんを伴ってガイン様に会いに行き。


 アオとメイにはこちらの街で必要な物を買い揃えるようにお願いしておいた。


「行きましょうか」

「ああ、私もガイン殿に会うのは久しぶりだから楽しみだ」


 クルシュさんは、騎士団の時よりも砕けた話し方にはなったが、それでもどこか堅さが抜けないので、彼女の性格が真面目なことが関係しているのだろう。


 仲間として過ごすならもう少し仲良くなりたいと思っているが、それは追々だな。


「ガイン様、冒険者ソルト殿及びクルシュ殿が会いに来られました」

「入れ」


 詰め所に行って隊長室に案内されて声をかけてくれたので、お礼を言って扉を開いた。


 隊長室にはメガネをかけた美しい女性と、無精髭に痩せこけたガイン殿が待ち受けていた。


「ガイン殿!」

「おう、久しぶりだな。聞いたぞ。間者だけでなく、アザマーンの陰謀を阻止してくれたそうだな。ラーナ様から礼を受けたと思うが俺からも感謝する」

「あっ、はい。それは良いのですが、随分とお疲れのようですが?」

「あっ、ああ。連日の資料整理の影響でな。ここまで仕事が溜まっていたとは知らなくてな」


 ガイン殿が苦笑いを浮かべている後で、メガネをかけた美人が立ち上がってこちらにやってきた。


「初めまして、冒険者ソルト様。私はダウトの街で文官として、財政と事務仕事を全て任されております。ニーナと申します」

「ニーナさんですか、冒険者ソルトです」


 握手をすると美しい笑みを浮かべてくれる。

 出来る女性と言う雰囲気で、とても綺麗な人だが、どこかお近づきになってはいけない人のように思える。


「ニーナさん、お久しぶりです」

「ええ、クルシュも久しぶりね」

「お二人はお知り合いなのですか?」

「はい! ニーナ様は、ガイン様の幼馴染様で、今回のダウトの文官就任に伴い、正式にガイン様の妻になられたのです」

「なっ! ご結婚されたんですか! それはお祝いもできずに申し訳ない!」

「いや、いいさ。こちらも立て込んでいて正式な婚姻の儀は少し先になると思う。その時には結婚式に来てくれ」


 ガイン殿、お世辞にも幸せな雰囲気とは言えない笑顔を浮かべておられた。


 だが、ニーナ様の方が清々しい顔をしていた。


「やっと、この人と結婚できるので、幸せですが。ここまで荒れている街を放置はできませんから、まずは仕事を片付けてからです」


 ルータスという一人の優秀な部下の影響で、かなり引っ掻き回されていたようだ。


 ある意味で間者ではあったが、ルータスは優秀な人材で、ガイン殿たちの穴を埋めていたようだ。


「色々と大変なんですね」

「それで? ソルトはまたアザマーンに行くのか?」

「はい。今度は仲間を連れてアザマーン領で調べ物をして、王都に向かおうと思います」

「そうか、また落ち着いたら酒でも飲み交わそう」


 グッタリしたガイン様と、疲れを見せないようにしているニーナ様に体力回復のエリアヒールを施して、部屋を出た。


 ヒールをかけた際に二人の顔が赤くなっていたが、元気そうな顔に戻っていたので、倒れる心配はないだろう。


「クルシュさん、二人で買い物をして帰りしょうか?」

「いいな。物資などはメイに頼んでいるが、武器の手入れなどをしたいと思っていたんだ」


 俺は早々に帰るよりも気分転換にクルシュさんと二人で、街の中を歩くことを選んだ。



《sideルリ》


 ご主人様より、大切なお役目をいただいてしまいました。


 この元スライムで、現在モンスター娘として成長したエリスの教育です。

 ご主人様を愛することで女体化を果たして、話ができるようになりましたが、基本的に教育を受けていないので、人間社会で生きていくことを知りません。


「さて、エリス。あなたに話しておきたいことがあります」

「何?」

「ご主人様は変態紳士です」

「ヘンタイシンシ?」


 意味がわからないでしょうね。


 ですが、それでいいのです。


「あなたはご主人様を愛していますか?」

「うん! マスター大好き!」

「よろしい。ですが、ご主人様はたくさんの女性に愛される素晴らしい男性です」

「たくさん?」

「そうです。強き者や魅力的な者は多くのメスに求められるのです」

「わかる」


 そうです。元々野生で生きてきた彼女は、本能で本質を理解できます。


「ですから、あなたの任務はご主人様を守り、ご主人様が気持ち良くしたいと思う女性を一緒に気持ち良くなさい!」

「一緒に気持ちよく?」

「そうです。スライムは型を持たない生き物です。あなたは願えば姿形を変えることができるはずです。その能力を使って、ご主人様が望む。変態紳士道を極めるお助けをするのです!」

「うん! わかった! ヘンタイシンシ道をマスターと共に極める!」


 ふふ、これでまた一つご主人様は素晴らしい変態紳士へ成長を遂げることでしょう。


「そして、普段はご主人様にご迷惑をおかけしないように、人の社会で生きていく方法を教えます」

「お願いします」


 本能で私を上だと理解したこの子は、従順に私の教えに従いました。


 さすがはご主人様です。このような素晴らしい人材を生み出してしまうなど考えてもおりませんでした。

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