第76話

 ラーナとフレイナ、二人と応接間で向かい合っていた。


 二人の女性と関係を持ってしまった後だ。

 俺は色々とまずい状況なのではないだろう。


「さて、ソルト」

「はい! ラーナ様!」

「ラーナで結構です」

「はい! ラーナ」

「よろしい。フレイナを抱いたのですね?」


 ラーナの言葉にフレイナが顔を赤く染める。


 これはやっぱり浮気がバレたことを責められるのだろうか? それならば甘じて受けなければいけない。


 酒の勢いもあったとはいえ、ラーナと関係を持った翌日にフレイナとなんて不誠実も良いところだ。


 もしも、死ねと言われたら……。


 その覚悟をしておこう。


「はい」

「そうですか。ありがとうございます」

「えっ?」

「どうかされましたか?」

「あっ、いえ、てっきり怒られるのかと?」

「なぜ怒る必要があるのですか? それはフレイナが望んだことであり、ソルトが受け入れたことです。確かに嫉妬は致しますが、ソルトは冒険者で一つの場所に縛られる人ではありません」


 ラーナの言葉は嬉しくもあるが、寂しくもある。


 冒険者は根無草だ。


 帰る家がない。


 だから、成功した者は安住の地を求め、市民権を獲得するために一つのところで止まって家を買って生活の基盤を作り始める。


 今の俺は若くて、そこまでは考えてはいなかった。


 だか、ルリやアオのことを思えば、いつかは旅を終えて安住の地を探したいと思っていた。


 もしも、それがこのコーリアスの地になればと思っていたんだが。


「ですが、これは我々の我儘です。ソルトが目的を達成した暁には、コーリアスに戻ってきてはくれませんか?」

「えっ? いいんですか?」

「なぜダメなのかわかりませんが、私たちはソルトを歓迎します」


 確かに一晩を共に過ごしはしたが、貴族であるラーナや、騎士団長として立場があるフレイナからすれば、俺のような男は余計なお荷物ではないかと思ってしまっていた。


「残念ながら、私は前よりも男性に恐怖は薄れてもソルト以外の男性は怖いままです」

「わっ、私もソルト以外の男は興味が持てない」


 二人の美しい女性から、そんなことを言われて嬉しくないわけがない。


「嬉しいです。俺は自分の故郷を魔物に襲われて帰る場所がなかったから、帰る場所ができたような気がして」

「ソルト、私たちがいる場所があなたの帰る家だと思ってくれて良いのです」

「ああ、いつまでも待っている。だが、出来れば若く美しい間に帰って来てれよ」

「二人は年齢を重ねてもいつまでも綺麗だと思うよ」


 三人で笑顔になって握手を交わした。


 再会を約束して、それぞれで抱き合った。


「そうでした。ソルトが旅に出る際に、同行者をつけても良いですか?」

「同行者ですか?」

「これはメイからの申し出なのですが、ソルトの手伝いをしたいと言っていて、旅に出るのなら同行させて欲しいと言われたのです」

「メイが? 俺は良いですが、騎士団の所属なのにいいのですか?」

「ああ、大きな事件は過ぎ去った。瘴気もソルトのおかげで、ある程度は浄化も済ませてくれた。今のコーリアスは安全だ」


 どうやら二人はメイを通して、繋がりを持っていたいと考えてくれたようだ。


「わかりました。必ず無事にメイをコーリアスに返すことを約束します」

「ふふ、お手付きにしても良いですが、私たちのことを忘れたら許しませんよ」

「そうだな。メイはまだ若いからな。無理やりはダメだぞ」


 二人が揶揄うような笑顔を浮かべている。

 気軽な会話が二人とできることがとても嬉しく思えた。


 部屋を出る際には、別れを告げる握手とハグをした。


 ♢


 祭りの間はあまり顔を出すことができなかった冒険者ギルドにコーリアスを離れることを告げにいく。


「やっときた〜」

「ミリアさん、すみません。何かと忙しくて」

「もう、君はどこにいても忙しそうだね。それに女性の影も消えないし」


 不貞腐れたような顔をするミリアさんは、祭りが終わったので明日には王都に帰る。


「ミリアさん」

「何よ」

「実は、王都で調べて欲しいことがあるんです」

「調べて欲しいこと?」

「はい。王家の墓についてです」

「王家の墓?」


 怪訝そうな顔をするミリアさんに、俺はシンシアが残した言葉をどう伝えようと悩んだ末にそのまま伝えることにした。


「実は、シンシアから教えてもらったんです」

「シンシアって、緻密のシンシアさん?」

「はい」

「そう、彼女もこっちに来ていたのね。ハァー何があるのかわからないけど、わかったわ」

「ありがとうございます。俺も王都に向かおうと思うので、その時に」

「王都に来るの?」

「はい」


 先ほどまで不貞腐れた顔をしていたのに、ミリアさんは俺が王都に行くと伝えると、少しだけ機嫌を直してくれたような顔をする。


「ふぅ〜わかった。A級冒険者の二人が気にしていることだから調べてみるわ」

「助かります!」

「その代わり、デート一回」

「えっ?」

「食事でも奢って、王都の高いお店だからね」

「わかりました。そのぐらいでいいなら、いくらでも」

「絶対だからね!」

「はい」


 シンシアが教えてくれた手がかりを、ミリアさんにお願いすることで情報を集めることはできるはずだ。

 俺は安心して、冒険者ギルドを後にした。


 冒険者ギルドの外に出ると、すでにラーナが用意してくれた荷馬車にルリ、アオ、メイが乗って迎えに来てくれていた。


「待たせたね」

「ご主人様には、たくさんのお知り合いがおります。お気になさらないでください」

「主人様! たくさん食べ物を買ったの」

「ソルトさん、本日よりよろしくお願いします」


 三者三様の挨拶に俺は笑顔で応じる。


「三人ともありがとう。それじゃ行こうか」

「あっ、それが」


 テントが張られた荷台に視線を向けるメイ。


 俺は荷台を覗き込むと、そこには銀色の髪に旅装束を纏ったクルシュさんが座っていた。


「どうしてクルシュさんが?」

「わっ、私はまだ恩を返せてはいない」

「えっ?」

「ソルト殿には、二度も私の命と、メイの命を救ってもらった。だが、その恩を私は返せていない。これは騎士として名折れだ! だから、貴殿に同行させてもらって、貴殿の役に立ちたいのだ!」


 真剣な瞳で俺を見つめるクルシュさんに、どうやら三人も納得しているようだ。


「俺は旅の仲間が増えるのは歓迎です。でも、大丈夫なんですか?」

「ああ、ラーナ様には、ソルト殿の護衛を申し出た際に、行ってきなさいと許しをいただいた」

「そうか、ならよろしく頼む」

「こちらこそだ」


 新たにクルシュさんを加えて、俺たちはコーリアスの街を後にする。

 

 五人と一匹の旅が始まる。


 いつかシンシアの目的が判明した際には、ここに帰ってきてゆっくりとした生活を送りたいものだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 最初に考えていたプロットは、実はここまでです。

 本にすると第二巻ぐらいまでで、20万文字に達することができました。


 本当は本編はここで終わりなのですが、思っていたよりも読まれたので、頑張って続きを書いてみようと思います。

 明日は、sideストーリーを挟んで、どうするのかあとがきに書きますね。


 どうぞ、皆様からの応援が執筆の力になります!

 ここまで読んでいただき、まだ☆や♡を入れていない方は、頑張れ〜という気持ちで押してやってください。


 今は、頭がイマイチスッキリしない日々で、皆様にご迷惑をおかけしていますが、頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!


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