第69話

 ユーダルスがカプセルを飲み込むと、その体がみるみるうちに巨大な黒豹へと変貌した。


 黒い毛並みが光り、鋭い爪が地面に食い込み、その瞳は赤く輝いている。

 圧倒的な威圧感が周囲に漂い、ユーダルスが新たな力を授けられたことが見た目で理解できる。


「神の力を見せてやるよ!」


 ユーダルスの声は低く、獰猛な獣の咆哮に変わる。

 もしも、ルリやアオとの戦闘がなければ、俺は怯んでいたと思う。


 だが、二人に比べれば、禍々しくはあるが恐怖するほどの怖さはない。


「フレイナ様、ラーナ様をお願いします」

「どうするつもりだ?!」


 地面に寝かされているラーナ様を、アオが素早く救い出して、ルリがユーダルスの攻撃を凌いでくれる。


「ルリ、アオ、俺たちで奴を森に誘導するぞ!」

「了解なの、主人様!」

「承知しました!」

「ソルト殿! 私も手伝おう」

「私もです!」


 クルシュさんとメイも武器を構える。

 他の騎士団はラーナ様の護衛が、この後の処理が必要になるだろう。


 俺はフレイナ様に目配せして、後を頼んだ。


「行くぞ!」

「「「「「はい!!!!」」」」


 黒豹に変身したユーダルスを森へ誘導するため動き始めた。


 フレイナ様と騎士団が街の中へ逃がさないために防波堤となる正面から攻撃を行い、俺たちは左右から挟み込む形で攻撃を仕掛ける。


 ユーダルスの巨体が力強く動くたびに、大地が揺れる。


 だが、怯むことなく俺たちは門の外へとユーダルスを追いやった。

 ユーダルスの仲間たちは、変貌したユーダルスを見て逃げ出したようだ。


「くそっ、なんて力だ!」


 ルリとアオに変身してもらえれば対応できるかもしれないが、この場でそれをするのは悪手だ。


「光よ!」


 俺は薄暗くなり始めた夜空を利用して、光によってユーダルスの視界を奪う。


「はっ!!」

「ふん!」


 前衛を務めるルリとクルシュさんが武器を振るってユーダルスを街の近くにある森へと吹き飛ばした。


「ぐっ!? ガルルルルウルルル!!!」


 理性を失った黒豹は、獰猛な唸り声をあげてこちらを睨みつける。


 俺は意識を集中させてユーダルスの動きを封じる魔法を試みるが、動きは速くて、なかなか捉えることができない。


「ワオーン!」


 俺が攻めあぐねているとアオが街から見えなくなったところで変身して、ユーダルスを吹き飛ばす。


「今だ!」

  

 俺は全力でユーダルスの足元に魔法を放つ。


「セイントバインド」


 聖なる十字架がユーダルスに突き刺さる。

 本来は、体の中に蔓延る病魔や悪鬼を祓う魔法だが、薬の効果で化け物になったユーダルスの体を本来の姿に戻すための魔法だ。


 地面が揺れ、ユーダルスの足元が崩れていく。

 その隙に、ルリとアオが一気に攻撃を仕掛ける。


「これで終わりだ!」


 ルリのハルバートがユーダルスの体を切り裂き、アオの炎がユーダルスの巨大化した体を焼いていく。


「グアーン!!!」


 それでも怒り狂うユーダルスが暴れ回る。

 俺の魔法が完了するまでにはまだ時間が必要だ。


「はっ!?」

「いきます!」


 クルシュさんの剣が突き刺さり、メイの風刃がユーダルスを傷つける。


「もう一押しです!! ご主人様は必ずお守りします!」


 ルリの掛け声に、全員が頷き合って力を合わせる。


 俺は最後の力を振り絞り、最大の魔法を放つ。


「オールクリーン!」


 ユーダルスを聖属性の魔力が包み込む。


 膨れ上がっていたユーダルスの体が崩れ落ちて剥がれた獣毛をスライムが食べた。


 巨大な黒豹が地面に倒れ、その姿は次第に人間の形に戻っていく。


「ご主人様、やりましたね」

「やったの!」

「ありがとう、ルリ、アオ。皆のおかげだ」


 変身していたアオが真っ裸で抱きついてきたので、ローブをかけてやる。

 変身する度に服が破れるならちょっと考えないといけないな。


「ソルト殿、見事な連携だった。ユーダルスを倒すことができたのはソルト殿たちのおかげだ」


 クルシュさんやメイも喜んでくれて、俺たちは街へ戻る。


 ユーダルス・アザマーンは命を取ったわけではないので、回復魔法をかけて運んでいく。

 デカい図体をしているので、仕方なく肉体強化を使わないといけないので、辛い。


 街にたどり着くとラーナ様が目覚めていて、俺たちを出迎えてくれた。


「ソルトさん、今晩屋敷で」


 短い言葉を残してラーナ様は賞賛と、街の安全を保つために指示をしていく。


 ♢


 その夜、俺はラーナ様に呼ばれた通り屋敷のラーナ様の部屋を訪れた。


 彼女の部屋には応接間があり、ラーナ様自ら出迎えてくれる。


「えっと、他の方はおられないのですか?」

「はい。今日は私だけです。お嫌でしたか?」

「あっ、いえ嫌じゃないです。でも、大丈夫ですか?」


 ラーナ様は男性を苦手にしているので困ってしまう。


 それに薄いネグリジェにガウンを羽織るラーナ様は、こちらを魅了するほど美しかった。その爆乳が柔らかな薄い寝間着越しに揺れるのが目に入る。


「ふふ、今日は視線を感じます」

「あっ! 申し訳ありません」

「いえ、ずっとソルトさんからは視線を感じませんでしたから、むしろ新鮮です」


 それは俺が見たこともない妖艶な微笑みを見せるラーナ様だった。

 男性を魅了するのに、これほど美しい女性がいるのかと戸惑ってしまう。


「ソルトさんは、私の胸に興味があるのですね」

「えっ! あっいや、そういうわけじゃ……」


 言い訳をしようとする俺に対して、ラーナ様は優しく微笑み、そっと手を伸ばして俺の頬に触れる。


「ふふ、今日はソルトさんにお礼と二人きりのお祝いをしようと思ったんです」


 ラーナ様に導かれるように席について、向かい合ってワイングラスで乾杯する。


「改めて、コーリアスを、そして私を救っていただきありがとうございます」

「いえ、俺は自分の出来ることをしただけです」

「それでもです。ソルトさん」


 名前を呼んでテーブルで肘をついて前屈みになるラーナ様の胸元に谷間が!!!


「私はこのような気持ちになることが初めてなのです」

「このような気持ち?」

「はい。ソルトさん、私はお慕いしています」

「……」

「最初にお会いした時、ソルトさんは私の胸を見ることなく、じっと瞳を見つめてくださいました。それは私にとって新鮮で、そんな方は祖父や父のような家族だけでした」


 これまで爆乳を持つことで色々と悩んでこられたのだろうな。


「常に、ソルトさんはこちらに配慮する紳士でいてくださり、私はソルトさんの活躍を聞くたびに胸を高鳴らせていました」


 大きな胸に手を添える。


 見てしまいそうになるが、必死で視線をラーナ様の瞳に向ける。


「そして、此度の一件で命を救われ、いいえ。前日にソルトさんを見て安心することができた時から私はソルトさんへの気持ちを打ち明けたいと思っていました」


 ラーナ様が立ち上がり、俺の前で膝をついた。


「私を女性として見てくれますか?」


 美しいラーナ様の問いかけに俺はどうやって答えれば良いのか……。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 今回もどうかよろしくお願いします!

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