第68話
犯人が屋敷の壁を破壊して侵入したことで、内部で待ち構えていた騎士たちはクルシュさんを含めて意表を突かれてしまったようだ。
ラーナ様を巻き込んでしまっているかもしれないが、フレイナ様の姿が見えないことからも対処できたということか?
「まずは皆さんに回復魔法をかけます」
「あっ、ああ頼む」
俺はクルシュさんを含む第四騎士団に「エリアヒール」を発動した。
ヒールに比べれば集団を一気に癒すので、効果は薄くなってしまうが体力や傷の回復はできるはずだ。
「うむ。大丈夫だ」
ほんのりと頬を赤く染めたクルシュさんが自らの体を確認して立ち上がる。
「犯人は見られたのですか?」
「ああ、ラーナ様をユーダルス・アザマーンが誘拐した」
「やはり」
「ああ、霧の中で襲撃があったと連絡がきて、フレイナ様とメイが戦闘に向かって、無属性の私は室内でラーナ様の護衛をしていたのだが、まさかこのような形で襲撃を受けるとは思わなかった」
フレイナ様が外にいたなら既に追跡を開始しているのだろう。
「わかりました。俺も魔力が残り少ないので、できることをします!」
俺は探索の魔法を使って彼らの足取りを追うことにした。
「キュピ!」
俺が魔法を発動するとスライムから魔力が流れ込んできて、補助してくれているようだ。
残り少ない魔力で狭い範囲しか探索ができなかったのが、スライムのおかげで一気に範囲を広げることができた。
「わかったぞ! すでに南の門近くまで奴らは逃げているようだ」
「何!もうそこまで、急ごう」
「はい!」
クルシュさんとメイが部屋を飛び出していく。
「ご主人様、ラーナ様を必ず救い出しましょう」
「そうだな。急ごう、ルリ、アオ」
祭りのせいで人の気配が多くて探索が大変だったが、スライムがいてくれたおかげで助かった。
俺は不思議に思いながらも、肩に乗っているスライムを撫でてやる。
「キュピ!」
嬉しそうにプルプルしているのは、案外可愛いな。
「ご主人様」
「うん?」
「スライムを手懐け女性の服を溶かそうと考えるなど、さすがは変態紳士です」
「なっ?!」
物凄く勘違いされてルリに納得されてしまっている。
「そのスライム、服を溶かすの!!」
アオも警戒した目でスライムを見ている。
俺はそんなつもりはなかったと説明するのを諦めて、深々とため息を吐いた。
クルシュさんとメイに倣って、俺たちは全力で南門へ向かって走った。
♢
たどり着いた南門はすでに破られているようだが、それでもフレイナ様が足止めをしてくれていた。
だが、ユーダルス・アザマーンは獣人としての優れた身体能力を持っているため、フレイナ様の攻撃を躱して、仲間の獣人たちとラーナ様を奪わせないようにしている。
「ユーダルス!」
「おいおい、フレイナ! 俺はアザマーンの領主だぞ。騎士団長如きが呼び捨てにしていい身分じゃねぇぞ」
「うるさい! 誘拐犯が何をいう」
「はっ! 誘拐? おいおい、勘違いするなよ。これは愛の逃避行だ。アザマーンに連れて行けば、ラーナにいうことを聞かせる方法なんていくらでもあんだよ」
ラーナ様は気絶しているのか、ユーダルスが用意した馬車の中に姿が見える。
「必ず捕まえる!」
「やれるものならやってみろ」
獰猛な獣の顔を見せるユーダルスは、フレイナ様に対抗できるだけの実力を備えているようだ。
フレイナ様も攻めあぐねている。
ユーダルスの動きは素早く、戦闘時になれば魔法を当てることも難しくなる。
「ユーダルス・アザマーンだな、ラーナ様を返せ!」
「チッ! 追加要員がもうきたのか」
クルシュさん、メイを含めた第四騎士団。
そして、俺たちの姿を見て、ユーダルスは振り返り、ニヤリと笑う。
「くくく、道化師が言ったのは、お前らか?」
ユーダルスの瞳にルリと、アオが映し出されている。
「確かに良い女だ。だが、今日はラーナをいただく貴様らには渡さない」
ユーダルスはその場に立ち止まり、俺たちを睨みつける。
彼の姿は威圧的で、獣人としての力強さが滲み出ている。
だが、俺たちは引き下がるわけにはいかない。
「ユーダルス、暴力で物事を解決するのは賢明ではない。話し合いの余地はないのか?」
俺はあえて冷静な声で話しかける。
ユーダルスは一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに笑みを浮かべる。
「おいおい、紳士ぶるつもりか? そうだな、俺の要求を飲むなら話は別だ」
「どんな要求だ?」
「フレイナ、そこにいる獣人二人を俺に差し出せ」
「なっ?!」
「交換条件だ。ラーナを助けたいんだろ? なら代わりの女を差し出すのが筋ってもんだ。ラーナの安全は保証してやるぞ。ここに奴隷の首輪が三つある。こいつを三人に嵌めろ。そうすれば契約成立だ」
ユーダルスが三つの首輪をこちらに投げ寄越す。
「まずはラーナ様を降ろせ。話はそれからだ」
ユーダルスは少し考えた後、ラーナ様を馬車から地面に下ろした。
気を失っていても、美しい姿に一瞬目を奪われるが、すぐに意識をユーダルスに向ける。
「どうした? 俺は要求を飲んだぞ。今度はそっちの番だ」
ユーダルスの言葉にフレイナ様が、落ちていた奴隷の首輪を手に取る。
「私が従えば、ラーナ様は返してくれるんだろうな?」
「へへ、約束は守るぜ」
ユーダルスは、またニヤリと笑う。
フレイナ様が奴隷の首輪をつけようとしたので、俺は彼女に近づく。
「俺が付けましょう」
「すまない」
「そうだ。従っていればいい。一つでも嘘をつけば、ラーナの命はないと思え」
「分かった。だが、まずは彼女を無事に返してくれ」
フレイナ様がユーダルスの注意を引きつけている間に、俺は解除の魔法を唱える。
続けて、ルリとアオの首にも奴隷の首輪をつけた。
「ご主人様」
「主人様」
首輪をつけたフェンリル種の二人は、なぜかうっとりとした瞳を俺に向けてくる。
「くくく、バカめが! 約束など守るか! フレイナ、二人の獣人よ! 主人と騎士団を殺せ!」
ユーダルスは奴隷の首輪をつけた三人に命令して、俺たちを殺させようとする。
だが、三人はユーダルスに近づいていく途中で受けた命令に、反抗してラーナ様を抱き上げてこちら側に逃げてきた。
「なっ!? どういうことだ?!」
「お前がこちらを騙したように、こちらも仕掛けをさせてもらった」
「貴様ら、騙したな! 許さねぇ! 俺が騙すのはいいが、騙されるのは一番嫌いなんだ! 殺してやる!」
そう言ってユーダルスは懐から、カプセルを取り出して飲み込んだ。
「神の力を見せてやるよ!」
それは神話の伝説だとハニー様と、ミーアが言っていた獣人の変身の姿だった。
巨大な黒豹が姿を見せた。
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あとがき
どうも作者のイコです。
未だに不安定で、誤字脱字文章のおかしなところがあると思います。
どうか、報告いただければ嬉しく思います。
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