第64話
ルリの申し出を受けたわけだが、俺は変態紳士になるためにどうすればいいのだろうか? こんなことを相談する相手などいるはずもなく、コーリアス領は祭りの二日目を迎えていた。
来賓を迎えて盛大にお祝いをするのは二日ほどで、あとは商人や民衆のために行われる。もしもラーナ様を狙う者が計画を実行するとしたら、来賓がやってきて人が多い今日ということになる。
もちろん初日も警戒はしていたが、何事もなく終わりを迎えることができた。
シンシアが何か裏で糸を引いているのかと思ったが、シンシアは俺に助言を伝えに来たように思える。
昔から、シンシアは大切なことをすぐに教えてくれる子ではなかった。
助言をしてくれるが、それは遠回しな言い方で、事件が終わった後に、このことを言っていたのかと悩まされたことがあった。
・変態紳士として振る舞う自分。
・ラーナ様を狙う敵の動向。
・シンシアが何を考えているのか。
ルリの去った部屋の中で服を着ながら、俺はそんなことを考えていた。
ーーコンコン
「ソルト殿、ちょっといいだろうか?」
「はい。どうぞ」
クルシュさんの声がして、扉を開く。
二日ほど顔を合わせていないだけだが、久しぶりに感じるのは、その間に起きた出来事が濃厚だったからだろう。
「失礼します」
「おはようございます」
「ああ、おはようございます」
そう言って入ってきたクルシュさんを見て、いつも以上に綺麗に見えてしまう。
入ってくる前にルリとのことが悟られないようにクリーンをかけたが、それでも気恥ずかしさを覚えてしまうからだろうか?
前に会った時に見たクルシュさんは、誰よりも整った容姿をした人ではあったが男勝りな口調で、接しやすい相手だった。
それなのに、今まで以上にクルシュさんのことを女性として意識をしてしまう。
「どうかしたのか? 顔をジッと見て」
「あっ、すみません。今日は一段とクルシュさんが綺麗に見えたので、何かいつもと違うことをしたのかなって」
「なっ! いっ、いきなりだな。でも、まぁなんだコーリアスに帰ってきてからは、忙しくはあるが風呂に入ったり、来賓ように化粧を少ししているからではないだろうか?」
顔を赤くして褒めたことを肯定するように、自分が綺麗になったポイントを教えてくれる。
「そうだったんですね。細かい箇所には気付けていなかったですが、とてもお綺麗ですよ」
「もっ、もういいだろ。からかうのはやめてくれ」
「からかってはいません! クルシュさんはいつも綺麗ですが、今日は一段とお綺麗です」
「あ〜わかった! わかったから!(どうしてソルト殿に言われると恥ずかしいんだ?)」
「どうかしましたか?」
クルシュさんにしては珍しく小声だったので、聞き取りができなかった。
「なんでもない! それよりも、ラーナ様がソルト殿に会いたいそうなんだ。ランチを一緒にできるだろうか?」
「もちろんです」
クルシュさんに待ってもらって、俺はランチに参加できるような衣装に着替えから、アオとルリにラーナ様とランチを共にすることを伝えた。
「かしこまりました。我々は適当に済ませますので」
「ああ、済まない」
俺は財布をルリに渡して、アオとの昼食を取るように促した。
廊下を歩きながら、クルシュさんが問いかけてくる。
「随分と親しくなったのだな」
「そうですね。昨日は一緒に祭を回ったり、過ごす時間が増えて二人のことを理解できるようになりましたか」
「……そうか」
少しだけ寂しそうな顔を見せたクルシュさん。
こういう時に紳士ならばどんな対応を取るのが普通なのか、考えたが浮かんではこなかった。
ただ、身長が低いクルシュさんの横に並んで見下ろすと、均整の取れた体とは裏腹に綺麗な巨乳が見下ろすことができて、役得感を味わえる。
「こちらへ」
「はい」
クルシュさんと共に食堂に入れば、ラーナ様とフレイナ様は先に座っていた。
「失礼します」
「ようこそソルトさん。昨日はお世話になりました」
そう言ってラーナ様が頭を下げてくれる。
だが、俺は食堂に入って二人を見た瞬間から、世界が違って見えた。
四方に見張りとして立っている女騎士たちも、ラーナ様やフレイナ様も、クルシュ様同様に輝いて見えるのだ。
「昨日?」
「ふふ、まずは席に座ってください。クルシュも」
「はい」「はっ!」
俺は促されるままに席についた。
微笑むラーナ様の表情はとても穏やかで美しい。
クルシュさんが整った美人というなら、ラーナ様はやわらかでおっとりとした美人。そして、正面に座っているフレイナ様は凛々しくて美しい。
三人の美しさは今までも感じていたのに、俺の瞳がおかしくなってしまったのだろうか?
「改めて、昨日はありがとうございました」
「えっと、お礼を言われるようなことをしたつもりはないのですが?」
「ふふ、フレイナが言った通りですね」
「フレイナ様?」
俺は視線をフレイナ様に向ける。
「昨日は、ソルト殿にラーナ様の視界に入るようにお願いしただろ? それに魔法を使ってくれていただろ?」
「そのおかげで私は気持ちが落ち着いて話ができました。そして、嫌な思いをすることなく過ごすことができたのです」
俺がシンシアを追いかける前に行った魔法で、なんとかなったようだ。
その後に残った賓客たちも、ユーダルス・アザマーンが突然寝てしまったことで警戒を強めたようでラーナ様に必要以上に触れようとする者はいなかったそうだ。
「貴殿にはラーナ様を守っていただき感謝する」
「私からもありがとうございます」
フレイナ様とラーナ様からお礼を言われて、クルシュさんと三人で頭を下げてくれるが、俺の視線はラーナ様の爆乳へ向けられてしまう。
朝から胸元が開いた服を着るのはやめて欲しい。
「お二人ともお顔をあげてください。私は当然のことをしただけです。何よりも私は第四騎士団の助っ人として、この場にいるのです。力を貸すのは当たり前ですよ」
二人が顔を上げるのに合わせて視線も、それぞれの瞳を見ることした。
多分だが、紳士たる者、無闇に女性の体に視線を向けることはダメだと、今でもそれは変わらず思えた。
「ありがとうございます。ふふ、ソルト様はどこまでも紳士なのですね」
ラーナ様の言葉は嬉しくはあるが、俺は昨日までよりも三人が輝いて見えることが気になってしまうランチだった。
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