第63話
目を覚ました俺が見たのは美しいシーツで裸体を隠したルリの姿だった。
自分が一線を超えてしまったことを再確認する。
それは嫌なことではないが、もう後戻りはできないことを思い知る。
俺はルリを受け入れる決心ができている。
いや、ルリを求めたことで決心がついた。
シンシアが言っていた暗示が解けた意味を理解した。
ルリが俺を求め、また俺もルリを求めた。
それは自然なことであり、何も恥じることはない。
今後はルリを大切にして、アオを娘だと思って生きていこう。
アオを拾った時は子犬だった。
それが女の子になって、大人の女性へと成長していった。
それが経った1日だけのことだと思っていても、彼女の成長を見守ったのだ。
父性を持って接することもできるはずだ。
「おはよう。ルリ」
「おはようございます。ご主人様」
「おいで」
「はい」
腕を広げて彼女を呼べば、ルリは嬉しそうに俺の胸に飛び込んでくる。
俺は回した掌で、彼女の頭を撫でながら今後の話をしようと思う。
「ルリ。俺と結婚してくれるかい?」
「結婚ですか?」
「ああ、このようなことは行為をする前に言うべきことだったかもしれないが、ルリを愛している。今後も君と側にいたい」
これは俺の心からの本心だ。
俺の周りには魅力的な女性がたくさんいる。
だが、今後はルリ一人を愛し、気持ちを育んでいこう。
それが紳士たる俺の結論だ。
変態に関しては、まだまだ勉強中ではあるが、今後はルリと共にそれを追求していこうと思う。
「申し訳ありません」
だが、ルリから返ってきた言葉は拒絶だった。
あんなにも昨日は求めてくれたのに、断られた?
「それはどうして?」
愕然とする心はざわついて、口の中が乾いていく。
「私は結婚という形ではなく、主従の関係でいたいのです」
結婚は嫌だけど、主従の関係ではいたい? どうしてダメなのか理解できない。
「どういうことだい?」
主従でいたいということは、俺が嫌というわけではないと思う。
まさか結婚を断られると思いもしなかったので……。
事情を聞きたくて仕方ない。
「ご主人様は私の心に触れられたので、知っていると思いますが、私には旦那様がおりました」
「ああ、アオの父親だね」
「はい。彼はとても良い方でした」
「……」
旦那さんに義理を立てているから結婚できないということか?
「私が怪我をしているところを助けてくれて、そして、私は彼を好きになって女性に変化しました」
「変化した?」
「はい。我々は恋をすると成長が早くなり、その方を思って姿を変えます」
「だから、俺とは結婚できないと?」
「……アオは、ご主人様と出会ったことで、人型になり、女性になりました。そして、ご主人様のことをお慕いしております」
それは……娘が俺を好きだから身を引くという意味だろうか? だが、俺はルリのことが好きで、アオのことも……可愛い娘だって……。
天真爛漫に笑うアオ。
俺を守ろうとルリと戦うアオ。
ルリと共にコスプレして現れたアオ。
どれもその笑顔は俺に向けられていた。
そんな彼女に対して、父性だけを向け続けられるだろうか? 確かに暗示から解き放たれる前の俺であれば、我慢して自分を自制することが出来たと思う。
だが、ルリが求めたように、アオが俺を好いてくれているなら、俺は……受け入れてしまうかもしれない。
「それにご主人様は一人だけしか愛せないような小さい器ではありません」
「えっ?」
「ご主人様の周りには大勢の女性たちが、ご主人様を求め集まってきます。そして、この王国では一夫一妻ではなく、一夫多妻を許しております」
戦場に出る男性は、各地で子種を残して子孫を残すことが許されていて、村や町に残る女性は、夫が死んだ場合や離縁した際には別の男性と結ばれることが許されている。
王国のルールではあるが、そこはどうして平等ではないのだろうと不思議な時がある。だが、貴族に男性が多いように男性に有利な政策はたくさんあるのだろう。
「しかし、俺はルリを愛しているよ」
「ありがとうございます。私もご主人様を愛しています」
ルリの爆乳が柔らかく俺の胸に当たって、キスをしてくれる。
気持ちよくて、ルリの温もりを感じられる。
「ご主人様は、これから多くの偉業をなされることでしょう。私もそのお手伝いをお側でしたいと思います。その際に、私一人だけではご主人様をお支えするのは心許ないと思います」
「それはどういう?」
「先ほども申しあげました。変態紳士におなりなさいませ」
俺は頭を抱える。
ルリの変態紳士が理解できない。
「すまない。言葉だけだと何を求められているのかわからない。俺はルリに何を求められているんだ?」
「変態とは、ご主人様を求める女性を受け入れてくださいませ。もちろん、ご主人様が望まない女性は私が代わりに排除しましょう。ですが、常に紳士として相対する女性は愛してあげてほしいのです」
「それは、俺に複数の女性を愛せるほどの変態になって、その女性全てに紳士として振る舞い大切にしろってことかな?」
「その通りです。ご主人様ならば、それができると私は思います。
あまりにも回りくどい言い方に理解ができなかった。
しかも、求められていることがかなり難度が高いと思うのだが、正直に言えばルリとの一夜を迎えるまで初めてで、恋愛初心者でしかない俺に女性の気持ちを理解するなんて無理すぎる。
「いや、無理だろ?」
「いえ、絶対にできます。私がサポート致します。ご主人様は、英雄になります。そして、英雄色を好むと言います。常に英雄の側には女性がいるものです」
ルリの気持ちが全く理解できない。
だが、彼女が俺を支えて英雄にしたいという思いは伝わってきた。
そんな器ではないと思うが、ルリが望むなら、それを行うために頑張るしかないな。
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