第61話

 とろけるような甘いキスは脳を溶かすほどに、濃密に絡み合う。


 凄く息が荒くなってしまう。


「ハァハァハァ」

「ご主人様、いきなりの無礼をお許しください」

「どうしてこんなことを?」

「じれったい。と言ってご理解していただけますか?」


 妖艶な雰囲気を纏ったルリはキスをすると今度は、立ち上がって距離を取る。


「そこで見ていてください」

「えっ?」


 そう言ってルリは先ほどと同じようにスカートの裾を持ち上げた。


 ただ、今度はゆっくりと持ち上げて、ルリの普段見えていない肌が次第に見え始める。だがそれは見えそうで見えない位置で止められて、グッと唾を飲み込んだ。


 ♢


《sideルリ》


 この部屋に入った瞬間に、私は胸が張り裂けそうなほどに息苦しさを感じていた。


 アオを誘拐して私の元から連れ去り、大勢の人間を襲わせるために暴走させて戦わせた憎い道化師。


 そう思っていたのに……。


 道化師の言葉が私の頭に残ってしまう。

 

「あなたを絶対に許しません」

「へぇ〜君から恨まれる筋合いないと思うけど?」

「何を言って」

「だって、ソルト兄さんに会わせてあげたじゃない。今は幸せじゃないの?」

「なっ?!」


 あの言葉は、明らかに私とご主人様を合わせるために画策されていたように感じました。私だけではないでしょう。アオも殺すこともなく、傷一つなかったのです。


 一緒にいた獣人は殺されていたと聞きます。


 わからない。


 だから、ご主人様との関係を知りたい。


 もしも、ご主人様が私に嘘を言われるのであれば、それも受け入れようと思っています。今の我々にはご主人様が必要です。


 アオにとっても……。


「昨日だ」


 ご主人様は私が質問することに関して、何一つ隠すことも嘘をつくこともありませんでした。


 ちゃんと瞳を見て、答えてくださいました。


 私はこれまで多くの悪意に晒されてきたのです。


 だからこそ、嘘や悪意を感じ取れるようになりました。

 ですが、ご主人様は常に穏やかで、悪意を感じません。

 その空気は一緒にいて、心地よくて安心できるのです。


 だから今朝、初めてご主人様が嘘をついた時、すぐにわかってしまったのです。


 嘘をついたことを誤魔化すように、ご主人様は優しく抱きしめて頭を撫でてくれました。


 また嘘を言われるかもしれない。

 そんな覚悟を持って問いかけました。


 ですが、ご主人様は問いかけると、シンシアと呼ぶ幼馴染の女性について嘘偽りなく答えてくださいました。

 

 そして、彼女を愛していたこと、彼女が結婚するからということでパーティーを解散したこと、そして彼女に初めてを奪われたことまで言葉にしてはおられませんがわかってしまいます。


 そして、私の心に渦巻いたのは《嫉妬》でした。


 多くの女性たちがご主人様を求めています。

 それは仕方ないことです。


 ご主人様は、功績と、人柄と、魅力を持っておられます。


 きっと将来も凄いことをなさる方です。


 ですから、ご主人様の最初は、私でありたかった。


 これは女として醜い嫉妬……。


 きっとご主人様は初めての相手として、道化師のことを一生忘れることはない。


 だから……。


「じれったいのです。あなた様は道化師によって、初めてを奪われてしまった。ですから、もう我慢は致しません」

「何を?」


 私が今からすることは、娘であるアオに見せることはできません。

 

 立ち上がってご主人様を誘惑いたします。


「ご主人様!」

「はっ、はい?」

「そこで見ていてください」

「えっ?」


 私は先ほどは恥ずかしくてあげるのをやめてしまったスカートをゆっくりと持ち上げていきます。

 

 とても恥ずかしい行為です。


 少しずつ少しずつスカートを持ち上げると肌を晒すことになります。


「ルリ? 何をしているんだい?」

「黙って見ていてください」


 下着が見えそうで見えない位置で止めます。


 これはかつて私の夫が教えてくれた誘惑方法で、見えそうで見えない位置で止めることで、誘惑になると言われていました。


「ご主人様は私を女として見てくれますか?」

「なっ?!」

「もしも、旦那様が女として見てくださるのであれば、このスカートを持ち上げます」

「ですが、女としては見れないというのであれば、私はスカートを下ろして部屋を出ます」


 恥ずかしいです。


 本当はとてもはしたないことをしているとわかっております。

 ですが、私の覚悟をご主人様に示したいのです。


「えっと、ルリ。俺はルリのことを綺麗な女性だと思っているよ」

「本当ですか?」


 本当だとわかります! 嘘の匂いはしません。嬉しい!

 

「ああ、だから……そのスカートを上げてしまえば」

「上げてしまえば我慢しないでいてくれますか?」


 ご主人様が私の足へ視線を注いでくれています。


 ただ、女性として見られていると想うだけで……恥ずかしくて体が熱く感じます。


「でっ、でしたら、命令してください」

「命令?」

「そうです! 私にご命令を! スカートを上げろと」


 本当は恥ずかしくて、これ以上は……。


「わかった」


 ご主人様は前のめりの姿勢になって手を組みます。


 それは考えるような真剣な目をされていて、先ほどまでの戸惑いではなく、真面目な顔でじっと私の足へ視線を注がれます。


「ルリ」

「はい!」


 名前を呼ばれると心臓がドクンと跳ねました。


「俺のためにスカートを上げてくれないか?」


 その声は低く落ち着いておられました。


「はい! 喜んで!?」


 ご主人様の命令は絶対なのです!


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