第60話
シンシアが去って、パーティーもお開きになったので、俺たちは自室へ戻って、パーティー用の服から屋敷内でも恥ずかしくない程度の部屋着へと着替えた。
だが、俺の心はざわつき胸が締め付けられるほどに苦しく感じている。
シンシアの話をするために、ルリが俺の部屋にやってきていた。
その表情は無であり、いつも優しく笑う彼女とは違う。
ロングスカートのメイド服を着ていても、その心は信愛を失ったのかもしれない。
「改めてお聞かせ願えますでしょうか? ご主人様は道化師とどういうご関係なのですか?」
出来れば、シンシアとのことは隠しておきたかった。
だが、シンシアが隠れる気がないなら、俺自身が嘘をついても意味はないだろう。
俺は観念してルリに話をすることにした。
ルリには話を聞く権利がある。シンシアはアオを誘拐した犯人であり、何日も追いかけて取り逃がした忌むべき相手だ。シンシアに対して怒っているだろう。
そして、その怒りは今、俺に向けられている。
知らなかったと言っても、ルリやアオを傷つけ、バンという獣人を殺したであろうシンシアの行いの責任は俺にもある。
彼女を守って育ててきたと思ってきたのだから。
「……シンシアは、俺にとっては幼馴染であり、守るべき妹だった」
「幼馴染に妹ですか?」
「ああ、俺たちが生まれた村は王都の中でも、山間の小さな村だった。だが、五年ほど前に魔物の襲撃を受けて滅びを迎えたんだ」
「……」
襲撃を受けた直後は逃げることに必死だった。それからは生きることに必死になり、歳若くても可愛い二人を守るため、俺は力をつける必要があった。
だから冒険者になり戦う力を求めた。
何より、他にできる仕事がなかった。
一年目は一人で必死に戦いを学んだ。
二年目は二人も冒険者になるというので、二人を守りながら戦った。
三年目は二人が力をつけて、次第にBランクとして活躍ができるようになった。
四年目はAランクへ昇格を果たして、俺たちは順調だった。
五年目に二人から解散を告げられるまでは……。
「なるほど、同じ村で生また幼馴染で、ずっと時空魔法を持つことを隠してきた少女ということですか」
冒険者をしていた時には、シンシアが時空魔法を使うことはなかった。
緻密な初期魔法を使う程度で、ずっと風の属性だと思っていた。
「希少性で言えば神話に生きたと言われるフェンリル種と大差がないですね。道化師もまた、時空属性という希少性の高い人物ということなのですね」
ルリはどこか納得した顔をしていた。
俺にはわからない希少性という価値、親近感を持ったのだろうか?
「ですが、どうして道化師になられたのですか?」
「それについてはわからない。一ヶ月前にシンシアから結婚するから冒険者パーティーを解散してほしいと言われたんだ」
アーシャの王都騎士団へのスカウト、シンシアの結婚。
どちらも相談されることなく、結果だけを告げられた。
俺は自分の存在が必要なくなったんだと思っていた。
だけど、シンシアは俺の前に現れて初めてを奪って行った。
昨日の夜にベッドの上で起きたことは一生忘れらないだろう。
「では、いつソルト様は道化師の存在について知ったのですか?」
やはりルリには疑われているのだろうな。
俺がシンシアの協力者として、アオを誘拐した犯人だと思っているのかもしれない。
もしも、そうなら誤解を解きたいと思うが、言い訳を重ねるほどに嘘をついているように自分でも感じてしまう。
「昨日だ」
「えっ?」
「昨日だと言ったんだ」
「昨日ですか?」
「ああ、ルリが朝方に尋ねてきただろ? その時にシンシアは帰って行った」
端的に正直に伝えはするが、信じるのかどうかはルリ次第だ。
信じられないというのであれば、この関係は終わりを迎える。
「信じます」
「えっ?」
「私は確かにご主人様以外の気配を感じました。ですが、お部屋にご主人様以外の姿はなく、痕跡らしき物もなかった。匂いもしなかったのはご主人様の魔法だと理解できます。それに結界が貼られた屋敷に侵入できたということは、時空魔法を使って侵入したと納得ができるのです。ご主人様の言葉は嘘ではないと思います」
あっさりと俺の言葉を信じてくれたルリに意外な感じがする。
「ルリは俺を疑っていたんじゃないのか?」
「いいえ、ご主人様を疑ってはいません。ただ、どういう知り合いなのか、そして、目的がわかれば知りたいと思っただけです。ですが、ご主人様の口ぶりでは目的はご理解されていないようです。それに道化師は単独行動を望んでいるように見えました。ご主人様にも内緒で動いていた節があります。謎が多いのに考えても仕方がないと思いました」
ルリなりの推測を持って、判断をしてくれている。
「ただ一つだけ疑問があります」
「なんだ?」
「昨日は何をするために、ご主人様の元へ現れたのですか?」
「えっ!?」
俺は一瞬で昨日の光景を思い出して、顔が熱くなるのを感じる。
「まさか!?」
「いや、昨日はえっと……」
上手く頭が回らなくて言葉が出てこない。
「なるほど、彼女もまたご主人様を想う者だということですか。そういうことなのですね。彼女の心にご主人様が……」
「あっいや、それは」
「ご主人様にずっとしたい質問があったのです。アオもおりませんので、プライベートな質問ですが、よろしいでしょうか?」
「あっ、ああ。この際だ。なんでも話す」
「ありがとうございます」
お礼を告げたルリは立ち上がって、メイド服のスカートをゆっくりと持ち上げ始めた。
隠れていた肌があらわになり、俺はそれを見ても良いのか悩みながら目を逸らすことができなくて、ルリの顔を見ることで視界に入れながらも視線を向けないように心がける。
「やはりですね」
「なんのことだ?」
「ご主人様は、とても紳士だと思います」
「それは違う!」
「どう違うというのですか?」
俺はシンシアから受けた衝撃で気づいてしまった。
これまで抑圧して、我慢してきただけなんだと、そして、今もルリの見えている膝より上を見たいという欲求が強い。
だが、見てはいけないという鬩ぎ合いの中で、葛藤している。
「俺は……」
「俺は?」
ルリの瞳は入ってきた時から変わらない冷たい瞳をしていた。
「変態なのかもしれない!」
そうだ。俺はラーナ様の豊満な胸も、フレイナ様のスリットも、クルシュさんの見た目も、メイのロケットおっぱいも、ミリアさんの二子山も、ルリの爆乳も、ハニー様もバニー姿も、ミーアさんの獣人姿も、全てを目に焼き付けようとしていた。
俺は紳士なんかじゃない!
「ふふ」
「えっ?」
俺が顔を背けていると、ルリから失笑が聞こえてきた。
「ルリ?」
「やっぱりご主人様はとてもお可愛いことで」
そう言ってルリはスカートから手を離して近づいてきた。
そっとルリの手が俺の頬に触れる。
「ご主人様」
「なんだ?」
「もっと変態におなりなってください。私たちはご主人様が変態紳士になってくださるのを望みます」
先ほどまでの無表情ではなく、妖艶な笑みを浮かべたルリはそのまま俺にキスをした。
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