第57話

 三人の元に戻ると、ミリアさんがニヤニヤした顔で俺を出迎えた。


「えっと? 仲が良さそうに話をしていたけど、何を話していたんだい?」

「それは」

「ダメよ、女同士の話だからねルリさん」

「はい。申し訳ありません。ご主人様」

「いや、別にそれはいいけど、随分と短い間に仲良くなったんだな」

「主人様の昔話を聞いてたの! 聖光って呼ばれている主人様はカッコイイの!」


 アオの無邪気な発言に、納得してしまう。

 確かに昔話をされていたと思えば、俺は気恥ずかしくなってしまう。


「ミリアさん」

「王都に行けばみんなが知っていることじゃない」

「まぁそうですけど、コーリアスで言いふらさないでくださいね」

「そうね。二つ名だけが有名になって、コーリアスの冒険者でも、凄いA級冒険者だって知られているみたいだしね」

「うっ!?」


 クルシュさんとメイを助けるために、冒険者たちとイザコザがあったことで、変な形で有名になってしまった。


「まぁいいじゃない。それよりも今日はお祭りでしょ? 報告が終わったなら三人で見物に行ってきたらどう?」

「そうだな。二人とも見たい場所や、食べたい物はあるかい?」

「どこも来たことがないので、ご主人様と一緒であればどこでも構いません」

「アオは、お肉が食べたいの!!」


 ルリはコーリアスに来るのが初めてなので、どこでも構わないという。

 だから、アオの要望を聞いて、お肉が食べられる場所へ移動することになった。


「そうそうソルトさん」

「はい?」

「夜にはラーナ・コーリアス様が、お屋敷でパーティーを開くそうだから、私たちも参加します。ソルトさんも参加予定ですよね?」

「ええ、お屋敷に泊まらせてもらっているので、参加すると思います」

「なら、その時に」

「はい」


 見送ってくれるミリアさんの顔は、なぜか満足そうな顔をしていて、冒険者ギルドを後にしても引っ掛かるような気がする。


「ルリ、変なことじゃないよね?」


 なので、一応ルリに確認を取ってみた。


「はい。ご主人様の過去が知れて有意義でした」

「まぁ、恥ずかしい話だけど、自分としても活躍できた話だからいいか」

「そうですね。ご主人様はどこでも人助けをしてご立派です」

「はは、そんなことはないよ。一人では何もできないからいつも助かれてばかりだしね」


 ドラゴンゾンビと戦った時はクルシュさんとメイが。

 ルリと対峙した際にも、ハニーさん、ミーアさん、アオが頑張ってくれたからなんとかなった。


 いつも誰かが助けてくれているからこそ、俺は今も無事でいられる。


「相変わらずご自身のことを誇ることはないのですね」

「えっ? う〜ん、昨日自信を無くす出来事があったからね」

「自信を無くす出来事?」


 シンシアの顔が浮かんで、今日は気分転換のために外に出たことを思い出す。


「そんなことよりも祭りを楽しもう。せっかく休日にして気分転換に来たのに、何もしないのはもったいないからね」

「かしこまりました。それでは絶対に逸れないように、また手を握っていただけますか?」

「アオも握ってほしいの」

「うん。そうだね。人混みが多いから、離さないようにね」


 俺たちは祭りを楽しむために人混みへと紛れ込んだ。


 串肉の屋台や、スイーツ、意外にルリは果物も好きで、屋台街の甘い物屋をハシゴした。


「はは、たくさん食べたね」

「お恥ずかしいです」

「甘い物も美味しいの!」

「アオも満足したかい?」

「甘い物はあまり食べたことなかったの。主人様と出会ってから食べたの」

「そうなんだ。ルリも果物が好きなんだね?」

「甘い物が好きなのですが、山や森では果実しか甘い物がなかったので、甘い物=果物というイメージなのです」


 なるほど、だから果物を見た時に嬉しそうな顔をしていたんだね。


 俺たちは三人で祭りを楽しんだ。


 そんな中で、余興として用意された広場に獰猛な魔物が檻に入れられていた。


「あれは何なの?」

「力試しですね。魔物と人を戦わせて、勝利した者に賞金を出すのです」

「アオもやりたい!」

「ダメです。私たちの力はあまり人前で使うものではありません」

「む〜」


 見物をしていると、一人の獣人が姿を見せた。


 黒い豹のような獣人が檻の管理をしている者と話をして、中へと入っていった。


「どうやら挑戦者のようだな」

「はい。獣人で相当に腕が立ちますね」


 筋肉ムキムキで身長も二メートルは超えてそうな黒豹は、檻の中にいる巨大な蛇と相対する。


「うおおおおお!!! 我こそは、アザマーン領主、ユーダルス・アザマーンである。このような蛇など我の敵ではないわ!」


 名乗りをあげたことで、お貴族様だとわかって、観客も盛り上がる。


 このような危ないことを貴族自らが行うなど誰も思いもしなかったからだ。


 だが、ユーダルスは、武器を持たず己の肉体のみで巨大な蛇と取っ組み合いを行い締め落として見せた。


「強いですね」

「勝てるか?」

「多分、今の状態なら五分五分です。武器を持てば私が優勢ですが、相手もあれが本気ではなく得物を使うならなんとも」


 ルリを持ってしても互角と言わしめるユーダルスの姿に、嫌な胸騒ぎを感じてしまう。


 間者を紛れ込ませてラーナ様を狙っているような人物だ。


 どのような動きをするのかわからないが、個人の戦闘力でルリと同等というだけで、なかなかに厄介な相手だと思わされる。


「行こう。長居は無用だ」

「はい!」

「わかったの」


 どのように動いてくるのか、警戒が必要なようだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る