第56話
《sideミリア》
まだソルトさんが率いる冒険者パーティーが、Bランクだった頃。
その事件は起きました。
王都を襲った未曾有のパニック、教会が管理している墓地で、ちゃんとした浄化が行えていなかったという結果でしたが、本当にそんなことがあり得るのが今では調査のしようもない状況です。
私は冒険者ギルドに入ってきた緊急依頼を、冒険者の方々にお伝えしました。
「ゾンビの魔物が、王都の墓地から大量に出没していると連絡がありました。各属性の方々は自分たちにできる対処方法で、ゾンビの討伐をお願いします。ご自身の命が大切ですので、無理をなさらずに生き延びてください!」
それは王都全域を襲うとんでもない事件でした。
王国騎士団が隣国との小競り合いで出撃しており、対処が遅れてしまっていたのです。
冒険者の方々も王都近辺は魔物が少なく。
騎士団がいないところを補うために地方の領地に出払っている時期でした。
王都に住まう人々は、内部で起きたゾンビパニックに未曾有の混乱を招きました。
いくら魔物対峙の専門家である冒険者であっても、圧倒的な数が不足していては対処ができません。
さらに備えて対処するのとは違って、緊急で対処するのでは用意が足りなさすぎたのです。
大勢の犠牲が出た混乱時に、一人冒険者が立ち上がりました。
それがソルトさんです。
「俺は聖属性です。ゾンビから受ける毒の影響を受けません」
ゾンビパニックで一番厄介なことは、ゾンビウイルスと呼ばれる。
噛まれた者がゾンビ化していくという死属性特有の死の感染でした。
それに対抗できる属性は聖属性しかありません。
死の感染を受けることのないソルトさんは単身で、ゾンビの中へ身を投げ入れました。
王都全域に広がるゾンビ集団をソルトさんは浄化して周り、その度にソンビたちに捕まっては押し倒され、装備が剥ぎ取られ、全身が噛まれて行く光景を見た者は王都中にいたでしょう。
「いくら聖属性であってもそれだけの傷を負えば死にます!」
「はい。誰もがソルトさんの活躍を見ながらも、ソルトさんの死を覚悟しました。実際、ゾンビの群れに全身を噛みつかれるほどの襲撃を受けられたのです」
ゾンビたちは意志があるように、ソルトさんの元へ集まって行きました。
ですが、そんな状態でソルトさんが行ったことは、青白い光を放ってゾンビを浄化させることです。
魔力ポーションを何本も飲みながら、何度も何度も聖なる光を放って浄化を繰り返されたのです。
衣類は破かれ、全身を噛みつかれながらも光を放って、その姿を見た人々が言ったのです。
「聖なる光だ! 聖なる光を放つ英雄だと」
その青白い光は次第に王都全域に広がり、最終的に王都のゾンビを全て浄化してしまいました。
「さすがはご主人様です」
「主人様凄いの!!」
二人が感心している中で、私の脳裏に浮かんだのは、冒険者たちが見て伝えてきた光景です。
ソルトさんは、全てのゾンビを浄化して気絶されました。
その時に発見されたソルトさんは、全裸で天に向かって指を突き上げていたそうです。
さらに、ソルトさんの愛棒も大層ご立派な状態で仁王立ちしていたと冒険者の方々が噂されていました。
私は見ていませんが、それはそれは立派だったと。
「まぁ! さすがはご主人様です」
「愛棒って、なんなの?」
「あなたにはまだ早いです」
「え〜知りたいの!?」
「後で教えてあげますから」
「絶対なの!!」
美しい二人の従者を手に入れたソルトさんは、きっと肉欲の限りを尽くすのでしょうね。私はソルトさんを追いかけてここにきましたが、どうやら私の出番はないようです。
王都では幼馴染であり、同じパーティーメンバーの二人が成長するとともにソルトさんの周りに近づく女性を排除していました。
私は仕事柄、話すことができていましたが、かなりの牽制を受けていたことでしょう。
だからソルトさんは「全然モテない」と愚痴をこぼしていたことがあると、男性冒険者に言われていました。
私も遠回しにアプローチとして、胸を強調してみたりしたのですが、ソルトさんは真面目で紳士なところがあって、恥ずかしそうに視線を逸らすのがとても可愛いかったのです。
そんなソルトさんが忘られなくて、コーリアスがお祭りのため、人手不足になるタイミングを見計らって、追加増員の助っ人としてきました。
ですが、ソルトさんと離れて過ごしてしまったことがチャンスを逃すことになってしまったのね。
「色々と教えていただきありがとうございます」
「いえ、今のお仲間にソルトさんが凄い人だって知って欲しかっただけです」
「それは私たちも重々承知しています」
「ふふ、ソルトさんはどこに行っても人のために動いているんですね」
「はい。あの、つかぬことをお聞きしますが」
「なんですか?」
ルリさんの真剣な瞳に身構えてしまう。
「ミリアさんは、ご主人様のことを男性としてどのようにお考えでしょうか?」
「えっ!?」
「本当に不躾な質問になってしまって申し訳ありません。実は」
それからルリさんから聞いた話は驚きながらも……。
ある意味で、ソルトさんの現状がとても面白いことになっていて、私にもチャンスがあるかもしれないと、私はソルトさんを見て微笑んでしまう。
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