第51話

 もしかしたら、俺はこの屋敷にいる方が心休まることはないのではないだろうか? 部屋に戻ってきて一人になって、そんなことを考えてしまう。


ーーコンコン


「ソルト殿、本日はラーナ様から夕食の誘いだ。大丈夫だろうか?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 与えられた部屋の扉を開くと、フレイナ様が珍しくドレスを着用していた。


 真っ赤なドレスはフレイナ様の引き締まった体を強調するタイトな物で、胸元と背中が大胆に開かれていて美しい。


「なんと、とてもお綺麗ですね」

「なっ!? そっ、ソルト殿のそういうところはいかがなものかと思うぞ!」

「フレイナ様は、普段凛々しくてされておられるので、ドレスを着ると、本当に美しくて可愛いですね。だから、素直に言葉にしただけですよ」

「ななななななな!!!」


 ふふ、フレイナ様は俺にもわかる反応をしてくれるので助かる。

 きっと褒められ慣れていないんだろうな。


 ただ、その反応が新鮮で俺にとっては心地よい。


「全く、あまりからかわないでくれ。着替えられた頃にまた声をかけにくる。私は隣の二人に声をかけてくるから」

「わかりました。お手数をおかけします」

「何、私が一番着替えに時間がかからなかったんだ」


 そう言ってルリとアオの部屋に向かったフレイナ様を見送って、俺はラーナ様とテーブルを同じくするような服装に着替えた。

 

 髪型は、お風呂に入って洗ったので、整えるだけにとどめた。


 迎えにきてもらうのは悪いので、着替え終えて部屋を出ると、何故かルリとアオはロングスカートのメイド服を着ていた。


「なぜ、メイド?」

「私たちはソルト様の従者です。この姿が正装です」

「なの!」

「そうか、よく似合っていると思うよ」

「そうだな。共に風呂に入って二人の気持ちは聞いたからな」

「共に風呂? 気持ち?」


 フレイナ様の言葉に反応して、俺がルリとアオを見ると、二人が頷いた。

 どうやらメイが運ぶ前に目を覚ましたようだ。

 ヒーリングで、どの程度眠るのかわからないが、それ以上に早い気がする。

 

「はい。皆様には大変よくしていただいております」

「みんないい人なの」

「我々としても強い女性は歓迎だ」


 知らない間に女性たちで仲良くなっていて、少しばかり疎外感を感じてしまうが、ルリとアオに友人と呼べる人間関係ができたことは素直に喜ばしい。


「今日は少しだけいつもとは違う夕食会だ」


 そう言ってフレイナ様が扉を開くと立食形式のテーブルが並べられて、飲み物や食べ物を摂るためのお皿が配置されている。


「これは?」

「現在は、祭のために他領からお貴族様も来賓されているので、急な来客があった際にでも対応できるようにしてあるんだ。本日の来賓は、ソルト様たちということで予行練習をさせてもらおうと思ってな」

「なるほど」


 俺たちが部屋の中に入ると数名の女騎士たちが着飾っているが、護衛のために腰に剣を携えている。


 アンバランスなようでドレスコードを取っているということなのだろう。


「まずはラーナ様にご挨拶を」

「ああ、そうだな」


 上座の位置で用意されている椅子におられるラーナ様の前で膝を折る。


「ラーナ様、本日はご夕食を共にさせていただきありがとうございます。また此度は、一宿一飯の恩義に感謝いたします」

「ふふ、堅いですよ。ソルトさん」


 今日はゴージャスなシルバードレスを纏ったラーナ様はいつも以上に輝きを放っておられる。隠し様のない爆乳が惜しげもなく披露されていて、肩からストールがかかっていなければ、半分以上が晒されていたことだろう。


 だが、俺は一瞬だけチラッと目に入る程度にとどめて、視線を下に落とした。

 どれだけ綺麗なんだラーナ様


「女神のような美しさを誇るラーナ様の前で緊張しております。何よりパーティーなどは冒険者同士の荒くれ集団を相手にするぐらいしか知りません。必要以上に堅くなってしまうのです」


 愛棒を自制するのに必死なので、いつもより大袈裟にしております。


「お上手ですね。お褒めいただきありがとうございます。今日は予行練習です。どうぞお気楽に食事を楽しんでください」

「はい。ありがとうございます」

「ええ、皆も今日は私にとっては予行練習です。来賓になったつもりで食事を楽しみ、談笑をしましょう」


 ラーナ様の言葉で立食パーティーが始まる。


 ラーナ様、女騎士団、そして我々だけの予行練習ということだが、皆が着飾っている中で、俺だけ男性というのはどうにも居心地が悪い。


「ご主人様、何か取ってきましょうか?」

「いや、一緒に行こう」

「よろしいのに」

「アオもたくさん食べたいだろ?」

「はいなの! ご飯をいっぱい食べたいの!」

「もう、この子は教育が必要ね」


 俺たちはラーナ様が他の者たちと話をしている間に食事を飲み物を口にする。


「ソルト殿、楽しんでおられるか?」

「ソルトさん、今日の私はいかがですか?」


 そう言って声をかけてくれたのは、クルシュさんと、メイだった。


 二人ともシンプルだが、クルシュさんはブルーのドレス。メイが薄いグリーンのドレスを着用して現れた。

 

「ええ、楽しませてもらっています。何よりも目移りするほどに、皆さんが綺麗で困ります。お二人もとても可愛いですよ」

「かっ、かわ!」

「ふふ、ありがとうございます。ソルトさんもカッコいいですよ」


 クルシュさんはフレイナ様と同じく、可愛いと言われることに慣れていないようだ。

 普段は綺麗や凛々しいと言われるのだろうな。


 メイは、可愛いと言われることに慣れているのか、余裕な感じだったな。


「ありがとう。メイ」

「ソルトさん。良ければ乾杯しましょう」

「あっ、いやお酒は」

「一杯だけです。それにコーリアス領のワインは美味しいと評判なんですよ。私たちはフレイナ様は飲めないので、本当にいっぱいだけです」

「む〜そういうことなら」


 ルリにワインを注いでもらって、メイとクルシュさんと乾杯をする。


「ソルトさん、ありがとうございました」

「ソルト殿、ゆっくり食事を楽しんでくれ」


 二人が去っていくと、今度はフレイナ様とラーナ様がやってきた。


「おっ、飲んでいるなソルト殿」

「あっ、いや、これは」

「はは、良い良い。ソルト殿が酒豪なのは皆に伝えてある」

「あ〜」


 それでクルシュさんとメイが勧めてきたのか、まぁ、ガイン様やハニー様ほど飲まなければ問題はないだろう。


「私とも飲もう」

「フレイナ、いくら予行練習でも団長なんだから程々にね」

「うっ! はい。ラーナ様」

「随分と仲が良いですね。お二人は」

「ふふ、私たち二人は昔馴染みなのです」


 二人の昔話を聞きながら、ワインを飲むが、ラーナ様はフレイナ様に負けないほどの酒豪でペースが早い。

 二人に着いて飲んでいるうちに、ワインを三本も空けてしまっていた。


 これ以上飲むと、また何かやらかしてしまう。


「そろそろお暇いたしますね」

「そうでしたね。長旅で帰還されたばかりでした」

「そうだな。今日はゆっくりと休めるといい。明日から祭の日々が一週間ほど続くのでよろしく頼む」

「はい。お先に失礼します」


 お二人よりも先に食事を終えて退出する。


「二人はちゃんと食事が出来たかい?」

「はい。大丈夫です」

「いっぱい食べたの!」

「それならよかった。今日はゆっくりと休んでくれ」

「はい。おやすみなさいませ」

「おやすみなの」


 俺はラフな服に着替えて、そのままベッドに倒れ込む……。



 夜中に目が開いて、俺の上に誰か……。



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