第49話

 お風呂に突撃してきた二人の布一枚纏わぬ姿に唖然としてしまう。

 狼の耳と、尻尾、それに爆乳と巨乳が揺れている。


「アンチヒールを!?」

「ご主人様! いけません」


 自らの愛棒にアンチヒールをかけようとする前に、ルリが素早く俺の腕を掴んだ。


「なっ!?」

「それはとても危険な行為です。自らの欲望を制御するなど、使えなくなる恐れがありますよ!」

 

 ルリの指摘には心当たりがある。


 初めてアンチヒールを愛棒に使った際には、しばらく反応をしなくなった時期があった。


「あっ、いや、しかし!」

「我々はご主人様に肌を見られるのは、嫌ではありません。むしろ、ご主人様にご奉仕したいのです」

「なっ!?」

「そうなの! 主人様の体を洗ってあげたいの!」


 ルリが爆乳で腕を挟み込み、アオが楽しそうにとび跳ねる度に弾んでいる。


 ぐっ! これは罠なのか? もしも、こんな状態をラーナ様やフレイナ様に見つかれば即刻追い出されるに違いない!


「いやっ!? しかし!」

「ご主人様、どうか狼狽えないでください。何も私たちはご主人様を襲いたいと思ってここに来たわけではありません。私たちはご主人様の従者なのです」

「えっ、ああそうだな」

「そして、ここは貴族のお屋敷です。貴族の方々は従者に洗ってもらうのが当たり前であり、従者が体を洗うのは務めにございます」

「主人を洗うのが従者のつとめ?」


 俺の腕を掴んでいるルリの柔らかな爆乳が、近づいてきて耳元で囁くように当たり前だと告げる。


「はい。ですから、これは主従の関係では当たり前なのです。それに酔って帰ってきた際に洗体をしてあげたではありませんか、すでに経験済みです」


 酔っていた時の記憶はないが、すでに俺はルリとアオに全てを見られている。

 二人とも裸でベッドにいた記憶がある。


「前回はホテルでしたので、服を着ておりましたが。ここは浴場です。ちゃんと服を脱がなければいけないから、裸なのは当たり前です」

「裸でいるのは当たり前?」


 頭に血が昇り出して、正常な判断ができない。


「はい。ですから、今の状況は従者が主人の体を洗うのも当たり前のことです」

「当たり前なのか?」


 あ〜わからない。

 

 この爆乳の感触と優しく囁かれる言葉の影響で、まともな思考が取れなくなってきた。風呂にも浸かっていないのにのぼせたように呆然とする。


「さぁ、まずは我々に身を任せて体を洗いましょう。すでに経験済みのことです。恥ずかしいことではないですよ〜」

「任せるの、優しく優しく洗うの」


 俺は洗い場の椅子に座らされて、アオが髪の毛を洗い、ルリが体を手につけた石鹸で洗っていく。


 美しい母娘による洗体術は、アオの力加減が絶妙な強弱になり癒しを与え、ルリの優しくもくすぐったくないように配慮された指使いが体の隅々まで俺を綺麗にしていく。


「くっ!」

「どうかされましたか、ご主人様」

「痛かったの?」


 二人が心配して俺に問いかけて来るが、違うのだ。


 俺は奥歯で頬を噛み締めて、口内を出血させながら、必死に耐えていた。


 アンチヒールで強引に気持ちを落ち着けることができないなら、物理的に痛みによって我慢するしかない。


 確かに、ルリの助言は俺にとっては甘美な響きであり、幸福な時間を迎えられるかもしれない。


 だが、それによって他の様々な物を失うような予感がするから。


「いや、大丈夫だ」 


 意識はハッキリした。痛みは偉大だ。


 俺はそっと二人に気持ちを落ち着けるヒーリングの魔法をかける。


「あっ!」

「すまない。後でゆっくりと風呂に浸かってくれ」


 幸い二人の髪は濡れていない。

 

 俺は体を洗い流して、服を着てから二人の体をタオルで包む。


「ふぅ、なんとかなったかな?」

「なっ?! 何しているんですか?!」

「えっ?」


 一難去って、また一難とはこのことか? タオルを巻いたメイが入ってきていた。


「メイ!」

「ふっ、二人をどうするつもりですか?!」

「あっ、いや、これは事情があって、別に襲おうと思っているとかじゃなくて!」

「……はぁ〜。そうは思っていません。ちょっと退いてください」


 小柄ながらもロケットのような突き出した胸が、今にもタオルから溢れ落ちそうだ。


「やっぱり寝ているんですね。魔法を使ったのですか?」

「あっ、ああ。ちょっと我慢ができなくて」

「ふ〜ん。この強力な爆乳でも靡かないとか、どんな神経しているんでしょうね」

「えっ? 何か言ったか?」


 メイが小声で呟くので、聞こえなかった。


「なんでもないです。二人が寝ていて裸ということは、ソルトさんの入浴中に乱入して洗体をしようとしていたか、洗った後に我慢ができなくなって眠らせたってところですね」

「なっ!? なんでわかるんだ?!」

「ソルトさんという人物を理解していればなんとなくわかるんです。とにかくこのまま放置して風邪を引かれるのは不味いので運ぼうとしていたんですよね?」

「ああ、そうなんだ! わかってくれるか?!」

「わかりますよ。ソルトさんのことですから」


 不意に上目遣いで見つめられるとドキッとしてしまう。


「私が二人を運んでおきますので、ソルトさんは出ていってください」


 えっ? メイの小柄な体で二人を運ぶ? 


 ルリはグラマラスな体で、身長も高い。

 アオだって細身ではあるが、ルリに負けないほどの身長をしている。


「大丈夫です。風の魔法で浮かせて運ぶので」


 そう言ってメイが二人の体を浮かせる。


「おお!」

「悠長にしていていいですか? もうすぐラーナ様たちも来ますよ」

「なっ!? そっ、それは困る! すまない。メイ」

「いえ、これは一つ貸しですからね。ちゃんと返してください」

「ああ! 絶対だ!」


 俺がお風呂の外に飛び出して、しばらくするとラーナ様が、フレイナ様とクルシュさんを連れてやってきた。


「ふふ、みんなでお風呂に入るなんて久しぶりね」

「クルシュとメイが、ずっと出ていましたからな。これは帰還の労いというやつだ」

「はっ!! お二人のお背中をメイと共に流させていただきます」


 曲がり角で間一髪、難を逃れることができた。


 もしも、あの二人とイチャイチャしているところをメイ以外に見られていたら、俺は終わっていたな。


 後で絶対にメイにはお礼をしないと……。 

 

 

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