第48話

《sideユーダルス・アザマーン》


 高級ホテルの一室に止まった俺様は酒を飲みながら、グラマラスな尻に目を向ける。黒い男物のパンツスーツを履いているのが惜しいが、良い体だ。


「おい、道化師! 俺様の相手をしろ」

「アハッ! 嫌だよ。君臭いもん。それよりも見てよ。ほら、スゴイ人がいっぱいだよ。ユーダルス君!」


 チッ、この女とは協力関係だから強引に手を出すわけにはいかない。

 だが、いつか俺様の女にしてやるぜ。


「お前はどうしてそんなに楽しそうなんだ?」

「何? 間者が捕まったことでも気にしているの? 君らしくないね」

「はっ! そんなことはどうでもいい」

「アハっ! やっぱり君はいいね。強者って感じがするよ」

「当たり前だ」


 ハニーに命令して、酒に酔わせた兵士から色々と情報を吐かせていた。

 領境を越える手伝いをさせていた奴が捕まったが、もうどうでもいい。


 結局は、無能で使えない奴ばかりだったというだけだ。 


「おい、酒だ!」

「はい! ただいま」


 俺様は連れてきた女に命令をして、酒を持って来させる。

 道化師が相手をしなくても、俺様にはいくらでも女がいる。


 今回も、逃した獲物を奪いにきたに過ぎん。


 ラーナほどの良い女を俺様が見逃すはずがないんだ。

 兄貴は元々病弱だった。

 だから、道化師が用意した薬を食事に混ぜるだけで、すぐに病気は悪化させた。


 結婚してすぐに未亡人になったラーナを俺様の物にしようとしたが、フレイナの奴に邪魔をされた。


 あいつも俺様の女にしてやっても良かったが、フレイナを襲っている間にラーナに逃げられたら身も蓋もないと思っている間に、本人が次の日に逃げらるとは思っていなかった俺が間抜けだった。


 だが、今度はそんなヘマはしねぇ。


「それにしても街に来てから君の方が、どうかしているんじゃないかい?」

「あぁん?」

「これだけ楽しいお祭りなのに、楽しまないでどうするのさ。私たちだけじゃないんだよ。他領からもあの子を狙って男たちが来ているんだろう?」


 そうだ。ラーナを狙っているのは俺だけじゃない。

 弱くてグズな普通の人間にラーナをくれてやるつもりはねぇ。


「まぁ、そうだな。全員ぶっ殺しても良いが、流石に王国のお偉いさんに目をつけられるのは面倒そうだ。穏便にな。くく、穏便にだ!」

「そうだよ。全ては穏便にしないとね」


 俺は注がれた酒を一気に飲み干した。


 計画は順調に進んでいるんだ。

 イレギュラーなどあり得ない。


「ふふ、本当に楽しいな〜。早く、ソルトさんに会いたいな」

「うん? 何か言ったか?」

「ううん。私はちょっと出かけてくるよ。君は祭が始まるまで引きこもって酒を飲むつもりかい?」

「ふん、ラーナに会うまでは出るつもりはねぇよ」

「そうかい。それじゃね」


 道化師が出ていくのを見送って、俺は近くにいた女を押し倒した。

 あの女を見ているとムラムラしてきて我慢ができなくなる。



《sideソルト》


 コーリアスは祭の賑わいによって、人が増えすぎて宿がない! 


 前回泊まっていたサービスが充実している高級ホテルは、お貴族様が泊まっていて空いていない。

 普通の安い宿は個室がなくて、大部屋で雑魚寝しか空いていない。


 冒険者ギルドも護衛などの任務でやってきた多くの冒険者が滞在していることで、宿と呼べる場所がどこも埋まっていた。


「うむ。ならばついて参られよ」

「えっ?」


 俺たちの状況を一緒に見ていたクルシュさんが、案内してくれたのはラーナ様のお屋敷だった。


「ラーナ様に頼んでくれるってことか? それは悪くないだろうか?」

「何を言っているのだ。ソルト殿は我々の客人だ。助っ人としてここまで世話になって何もしないなんてあり得ないだろ」


 ホテルが無くて困っているのは事実だ。

 そんな俺たちにクルシュさんがそこまで言ってくれるなら甘えようと思う。


 しばらく屋敷の中庭で待たせてもらっていると、フレイナ様が迎えにきてくれた。


「やぁ、ソルト殿。久しぶりだな。お待たせした」

「フレイナ様、お久しぶりです」

「ああ、色々と活躍は聞いている。メイのこと、そして兄のせいで迷惑をかけてすまない」


 フレイナ様に頭を下げられるが、今回は俺が勝手に動いたところも多い。


「いえ、俺としても新たな出会いが出来ましたから」

「そうだったな。お二人とも第四騎士団団長のフレイナだ。よろしく頼む」

「狼獣人のルリです」

「アオなの!」

「うむ。それではソルト殿、行こうか」

「行く? どこに行くんですか?」

「祭が終わるまでは、ラーナ様が屋敷の部屋を提供すると言われておられるんだ」

「えっ!? 屋敷に?」


 えっと、それは大丈夫なのだろうか? 確か今の屋敷は、ラーナ様が男性を苦手ということで女性しかいなかったはずだけど……。


「あの、俺が屋敷の中で寝泊まりをするのは、マズいのでは? ラーナ様は男性が苦手で」

「うん? ああ、そういうことか。それなら大丈夫だろう」

「えっ?」

「ソルト殿は紳士だ。我々は信用しているよ」


 ぐっ! その信用を裏切るわけにはいかないということか?! 


 俺も男だ! 絶対にその信用を裏切るわけにはいかない!!!


 それにアオとルリに野宿させるのは忍びない。


「わかりました。お世話になります」

「ああ。なら中へ行こう。そうだ。お風呂もあるから後で入るといい」

「ありがとうございます」

「いやいや、団員が受けた恩に比べれば、このぐらいのことはかまわないとラーナ様も言ってくれた。こちらこそ感謝をしているんだ」


 フレイナ様にそこまで感謝されてしまうと、もう何も言えないな。


 俺たちは離れになっている部屋へと通された。


 俺には一人部屋が与えられて、隣の部屋にルリとアオが通されて、やっと一息入れることができた。


「さて、風呂を借りようか?」


 俺は廊下に出て、女騎士さんに話しかけた。


「すまない。お風呂を借りたいんだが、案内を頼めるかい? ラーナ様たちと鉢合わせをしたくないからね」

「お気遣いありがとうございます。今の時間は誰も入っていないと思いますので大丈夫だと思います。こちらへ」


 俺は女騎士さんに案内してもらって、お風呂へ入った。


 さすがは貴族のお風呂だというほどに広かった。高級ホテルで体洗いをしてもらった時とは違った大理石で出来た大浴場は圧巻の一言だ。


 グリフォンを模した銅像からお湯が出ているのも凄い。


「はは、眺めていても仕方ないな。体を洗って「ご主人様! 体を洗いに参りました!」「アオも来たの!」へっ?」


 そこには裸の二人が扉を開けて入ってきていた。

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