第45話

《sideメイ》


 広場で繰り広げられている公開処刑。


 正直に言えば、気持ちに家族への同情はありませんでした。

 ただ、事件の犯人として捕まる家族たちに対して、他人事だと思って見ていました。


 ただ、あれだけ父の言うことを聞いていた母が父を嫌っていたこと。

 弟のことをごくつぶしだと、わかっていたこと。

 そして、私に対して何も恨み言を発しなかったことが意外でした。


 きっと本音では私のことを一番嫌っていると思っていたから……。


 だけど、母はきっと耐え続けていたのでしょうね。


 父から苦しめられる日々。働かないで家にいる弟。

 そんな男たちに耐えて生活をしている自分。

 苦しい心をルータスにつけ込まれ、流されることを選んだのでしょう。


 こうやって母の本音を聞いて、初めて私は母の子なのだと思えた気がしました。


 やり方を母は間違えたかもしれない。

 私のように第四騎士団に入る決断も行動もできない。


 そんな私が母の事情聴取だと現れ何を感じたのでしょうか? きっと、ルータスと母は処刑されます。父と弟も処刑されるかもしれませんが、もしかしたら流刑で済むでしょう。


 ただ、母を失ったあの二人が生きて行けるとは思えません。


 それほどまでにただ、虐げられて我慢しているだけの母が私たちの中心だったと、今になって知りました。


 今回の作戦をソルトさんが考えていると教えられて、優しいソルトさんが考えるとは思えなくて意外でした。


 ですが、ソルトさんは私を助けるために、私の家族を切り捨てたのでしょう。


 私に好意を持っていると言ってくれたソルトさんに残酷な決断をさせてしまいました。それをさせたのは、助けてほしいと言った私の言葉です。


 そして、私も母と同じくソルトさんに依存してしまいたい。


 そう思ってしまう浅はかな心が拭えませんでした。


「今は何も言わないで抱きしめてくれませんか?」


 ソルトさんが自分を卑下して私に嫌われようとしてくれています。

 どこまでも優しくて、その優しさがズルい人です。


「ウウウウンン……」


 彼の胸で泣いて、彼に抱きしめられて、彼に包み込まれている。


 ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ。


 んんん。


 知られるわけにはいきません。


 ソルトさんに抱きしめられているだけで、体が熱くなって求めてしまう。


 まだダメです。


 本当はこのままベッドに行きたいなんて言えません。


 家族などどうでもよくて、私はソルトさんだけがほしい。

 ううん。もしもソルトさんに他の女性が居たとしても、ずっと側にいたい。


「今はゆっくり休んでくれ。ヒーリング」


 優しいソルトさんの声が聞こえて、頭が呆然として、何も考えられなくなって意識を失ってしまう。



 気がついた私はベッドの上に寝かされていました。


「メイ? 大丈夫か?」


 目の前にいたのはソルトさんではなく、クルシュ様でした。


「クルシュ様」

「ああ、すまない。私が力及ばないでメイを救うことができなかった」


 私は体を起こして、体に残るソルトさんの温かみを思い出してしまう。

 どれくらい抱きしめられていたのかわかりません。

 ただ、幸福な感情だけが胸の中に残っています。


「クルシュ様、大丈夫です。ソルトさんが助けてくれました。それに、私の家族に犯人がいたのも事実です。これから他の仲間や、コーリアスの街に入り込んでいる間者などの調査もあります。まだまだ仕事がありますから」

「そう、だな。ご家族のことは残念だったが、メイが関与していないことが証明できてよかった。君の母が目を覚まして、君とは関与がないと言ってくれたそうだ」

「えっ?」


 意外な言葉に驚きの声が漏れてしまいました。


「ソルト殿の魔法で気持ちが落ち着いたことで、冷静に話ができるようになったようでな。メイは関係ない。自分とルータスが首謀者で父親を操っていたと自供した」


 両親は死刑。ルータスも死刑が決定して、私が寝ている間に執行されたそうです。


 弟は、犯罪奴隷として、すでに賠償金支払いを終えたそうです。

 他にもルータスの協力者として、街の者から母の証言で死刑が行われました。


「君に家族の死を見せないために、ガイン殿も気を遣ったようだ」

「ありがとうございます」


 家族が死んだと聞いても、胸を締め付けるような痛みを感じませんでした。

 ただ、母が最後に私のことを救ってくれたと言うのが意外です。


「此度の一件は、ダウトの街に文官の不足ということもあったので、ラーナ様と綿密に話し合いができる文官を配置することになった」

「それが良いと思います。武官だけでは、どうしても穴が空いてしまうので」

「そうだな。メイ、私にしてほしいことはあるか?」

「えっ?」

「私は何もメイにしてやることができなかった。上司であるガイン殿の言うことに従ってしまった」


 クルシュ様は、私を守ろうとしてくださいました。

 そして、ラーナ様に知らせに走り、本来片道四日の距離を往復六日で行って来てくださいました。


 それがどれだけ過酷なことだったのか理解しています。


「クルシュ様、十分です。私はクルシュ様、ソルトさん、ガイン様によくしていただいています。願わくば、このままクルシュ様と共にソルトさんの護衛をさせてもらえればそれだけで十分です」

「メイは、欲がないな。わかった。ラーナ様にはそのように報告をしておこう。まだ、今しばらくは休むといい。家族のこともあるから」


 スラム街で育ったクルシュ様は家族を知らないそうです。

 

 家族を知らないクルシュ様。

 家族に裏切られた私。


 果たしてどっちが幸せなのかわかりませんが、私はソルトさんの側にいられる環境に満足です。

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