第42話
翌日、メイが捕まっている第二騎士団詰め所にやってきた。
アオとルリにはお留守番ばかりになって申し訳ないが、ローブを着て外出は自由にしてもらって良いと伝えている。
ランチを共にする約束をしているので、たくさん食べられる場所に連れて行ってあげたい。
「おはようございます、ルータスさん」
「おはようございます。ソルトさん」
「昨日話していた面会をお願いしたいのですが?」
「かしこまりました。今朝、団長からソルトさんがやって来たら面会させるように伝わってますよ」
「ありがとうございます」
人が良さそうな笑みを浮かべるルータスさんは、話しかけやすい。
「いえいえ、お仲間が心配でしょう」
「そうなんです。はは、ルータスさんのことも仲間だと思っていますよ」
「私ですか?」
「ええ。色々と教えていただき、感謝しています」
「はは、そう言っていただけると嬉しいです。なんだか照れてしまいますね」
「あっ、昨日のお礼ではありませんが、お祭りの際に、アザマーン領の領主様がこちらにいらして、何か企んでいるという噂があるんですが知ってますか?」
「ほう〜そうなんですか? 知りませんでした」
神妙な顔をするルータスさんに、俺は昨日ガイン様に聞いた話だとお前置きをして、耳元でコッソリと伝える。
「なんでも、ラーナ様を狙った犯行だという噂です。俺は冒険者なので、関係ありませんが、怖い話ですね」
「いや、本当に! 騎士団の一員として由々しき事態です! 我々も警戒を強めておきます!」
「ルータスさんと話せてよかったです」
「こちらこそ、有意義なお話をありがとうございます。どうぞこちらへ」
ルータスさんに通されて入った個室にメイが待っていた。
牢屋にいって話をするわけではなく、個室で面会するようなシステムのようだ。
立会人はいないが、それぞれの後に入り口があって、兵士が立っているので逃げようとすれば、彼らを倒さなければいけない。
「ソルトさん!」
「メイ、帰ってくるのが遅くなってしまってすまない」
メイは装備が外されて、軽装でロケットおっぱいが無防備な状態だった。
「良いのです。私の方こそこのようなことになってしまって申し訳ありません」
いつもは人をからかって、元気で、明るいメイが、憔悴して元気を失ってしまっている。
俺は牢屋全体とメイにクリーンをかけて、リフレッシュの魔法で気持ちを少しだけ改善する。
「これは!」
「聖属性魔法で、この部屋とメイを綺麗にさせてもらった。それにリフレッシュで、気持ちの負荷がかかっていたストレスを少しだけ取り除いて元気を出してほしくてな」
「ふふ、確かに綺麗になって、心が軽くなったような気がします。もう、いきなり魔法を使うなんてびっくりするじゃないですか」
もう、と怒る素振りを見せたメイの顔はいつものあざとく可愛い笑顔だった。
「事情を教えてくれるかい? どうしてメイが捕まることになったんだ?」
「それは……。家族の告発があったからです」
「告発?」
♢
《sideメイ》
あの尋問の日……。
「以上が、現在の状況です。単刀直入に申します。あなた方に間者の容疑がかけられています。父はほぼ黒です。お母さん、ホーア。正直に話していただければ、私が話をつけられます。お二人は関係者ですか?」
私は母と弟に温情などかけるつもりはありません。
加担しているなら、第二騎士団に突き出して解決するつもりでした。
「ふふ、ふふふふっふっふふふふふふふふふふふふあはははっははははっはっはは」
そんな私の前で母は狂ったように笑い出しました。
「あなたに、女のあなたに何が出来るの? 女なんて所詮は男に道具として扱われるの」
母は昔から、自分を道具のように見做して生きていた。
今は、女性も強く働く時代だと言っても、父に縋り、父の周りの男性に媚を売るような人だった。
「……お母さん。私は第四騎士団に所属しています」
「所詮は女ばかりの中にいるだけじゃない。あの人を返しなさい!」
話にならないと頭を抱えたくなりました。
「全て、姉さんが悪いんだろ?」
「えっ?」
私が頭を抱えていると、弟が言葉を発して驚きを感じます。
「姉さんが、家族を捨てて第四騎士団に入ったから、おかしくなったんだ。全部姉さんのせいだ。こんな田舎の街に来たのも、父さんが家に帰ってこなくなったのも、母さんがこんな風になったのも」
意味がわからなかったです。
それでも息を吐いて、冷静に話を聞くつもりでした。
「それはあなたたちが間者に加担していたと言うことでいいのかしら?」
「メイ! 私たちは弱いの! 救われるのが当然じゃない!」
「そうだ! 俺たちは救われるべきなんだ!」
いきなりテーブルを挟んでいた母が飛びかかってきました。
弟も薄笑いを浮かべているだけで、クルシュ様が飛び込んで止めてくれるまで、私は母に服を捕まれていました。
その後は呆然としている間に、母と弟の尋問を第二騎士団が行い、二人が私が首謀者であると告発を行ったのです。
身に覚えがない罪を、私になすりつけたのです。
これが私の家族……。
こんな両親から生まれ、家族として接しようとしてきた相手。
きっと、私を知らない人たちは思うことでしょう。
私も家族なんだから仲間で間違いないと……。
クルシュ様や、ラーナ様が味方をしてくれても大多数の人たちの声を無視するわけにはいかない。
私は間者ではないと、証明ができないから……。
間者である証拠はありません。
だけど、疑わしき者は罰する。
考えなくても、多数の人たちにとっては関係ない話。
「ソルトさんが面会?」
「そうだ。出ろ」
牢兵に連れられて個室に入った私が出迎えたのは、いつもの紳士的な態度を取るソルトさんでした。
「帰ってくるのが遅くなってすまない」
何を言っているのですか? ソルトさんが謝ることなど何もありません。
私の方こそ家族の迷惑に巻き込んでしまって申し訳ありません。
このような調査中に、最悪のタイミングで告発を受けるなんて……。
きっと、私はろくな取り調べもないまま処刑されることでしょう。
間者は処刑。
それが当たり前の常識です。
「告発……そう言うことか、わかった」
「えっ?」
「メイ、俺を信じて待っていてくれるか?」
「どうして?」
「うん?」
「どうして私にそこまでしてくださるんですか?! 私はもう死ぬことを覚悟したんです。クルシュ様とゾンビに挑んだ時も、家族に裏切られて間者として、疑われた時も、もうダメだって! 諦めて死ぬことを覚悟したんですよ!」
自分でも我儘をいう子供のような態度をとっていることはわかっている。
だけど……。
そんな笑顔で、優しくされたら希望を持ってしまうじゃないですか!?
家族に裏切られたのに……。
どうして、あなたは私のピンチに現れてくれるんですか?!
「そうだな。もしも、メイが死にたいと思っているなら悪いな。俺に好かれたことを後悔してくれ」
「好かれたことを後悔?」
「ああ、知らないところで知らない奴が死んでも、俺は何も思わないし、助けられなかったと後悔することはない。だけどな、メイと出会って、良い奴だって知って、好きになったなら、助けたいって思うのが俺なんだ。簡単には死なせてやらない。幸せだって笑えるまで」
この人はもう、本当にもう。
私は……。
「よろしくお願いします! 助けてください」
「任せろ!」
大きな手が私の頭を撫でてくれる。
「メイの髪に触れられる特権を行使させてもらうぞ」
「はい!」
もう、ダメですね。私はこの気持ちを否定できません。
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