第40話
とてつもなく歩きにくい。
「なぁ、二人とも暑くはないかい?」
両方の腕を抱きしめられて歩くのは、物凄く歩きにくい。
しかも、二人とも認識阻害のローブを着ているから、暑い。
「はい。大丈夫です。ご主人様」
「大丈夫なの! 幸せなの!」
このやりとりは三回目だが、三度も大丈夫だと言われてしまえば何も言えなくなる。二人にここまで好かれたのは嬉しいが、ミーアさんにも告白をされて、俺は今、人生のモテ期の絶頂期を迎えたのではないかと本気で考えてしまう。
「ご主人様、私たちのことは心配しないでくださいませ。これまでの人生のことを思えば、今はとても幸せなのです」
「そうなの! 主人様がいて、美味しいご飯と寝る場所があるだけで幸せなの」
二人の幸福を感じられる気持ちが、あまりにささやかなものだからこそ、俺は少しでも幸せにしてあげたいと思ってしまう。
だからこそ、この歩き方が幸せだというなら甘んじて受け入れよう。
「なら、俺はもっと二人のことを知りたい。二人が好きな物や、好きなこと。どんなことを楽しく思って、どんなことをすれば面白いと感じるのか、俺に教えてくれ」
「ふふ、ありがとうございます。これからゆっくりと話をしていきましょう。アオも言いましたが、私たちにとっては、ご主人様がいてくれることが一番の幸せなのです」
「そうなの! 主人様と一緒にいたいの」
「ありがとう」
さて、クルシュさんとメイにはなんて説明しようかな? 俺は今回の事件の説明をするために、第二騎士団の詰め所へと向かった。
二人には外で待っていてもらう。
「すみません。ガイン様はおられますでしょうか?」
「うん? あなたは?」
「Aランク冒険者のソルトです」
「ああ! 先日は失礼しました」
そう言って頭を下げてくれたのは、メイのお父さんの代わりに受け答えをしてくれた門番さんだった。
「いえいえ、こちらも余計なことをしてしまったと反省しています」
「最近はお見かけしていませんでしたが、どうされていたんですか?」
「実は、冒険者の仕事でアザマーン領の方に行っていたんです」
「なるほど! それで彼女が捕まった際もお姿を見せていなかったのですね」
「彼女が捕まった?」
メイの父親が詰め所に連れていかれたのはわかるが、彼女とは誰を指しているんだ?
「はい。お連れ様だったので。第二騎士団で元門番をしていた兵士の娘さんですよ。確かメイって言ったかな?」
「えっ!?」
門番さんの言葉に、俺は驚いた声を出してしまう。
「やっぱりご存じではありませんでしたか。まぁ話しても大丈夫でしょう。街の者は知っていますので。元門番であるあいつが、実はアザマーン領へ情報を流していたと白状したんです。つまり、間者だったんですよ」
間者という言葉に、ハニー様に教えてもらった使えない者という人物に、メイの父親をハメてみた。
だが、果たして間者が務まるような人物なのか疑問が湧いてしまう。
「まぁ、実際はあいつ自身にそこまでの技量はなくて、娘の方が犯人だということになったんですけどね」
「メイの方が犯人?」
「はい。第四騎士団に入ったのも、不甲斐ない親父のためだったんじゃないかって話です。家族想いなのは偉いが、やっちゃいけないこともありますよね?」
門のところでやりとりをしただけで、メイの父親がどのような人物なのかは、正直理解はできていない。
それに、メイとの関係性も親子だけにしかわからない何かがあるのだろう。
だけど、俺が知っているメイは、そんなことをするような人物じゃない。
「それで? 捕まったメイはどこにいるんですか?」
「はい。もう少しでコーリアス領へ運ばれますが、まだ牢屋にいますよ。家族も一緒です」
「家族?」
「ええ、どうやら家族ぐるみだったようで」
メイの家族については何も知らない。
「いつまで牢屋に?」
「三日ほどだと思います」
「色々と教えていただきありがとうございます。すみません。お名前を聞きしててもいいですか?」
これほど色々と話をしたのに、自己紹介をしてもらっていなかった。
「私ですか? ルータスと言います」
穏やかで優しい笑みを浮かべたルータスさんは、人が良さそうな人だ。
「ルータスさんですね、ありがとうございます。もしかしたら、三日以内にメイに面会を求めるかもしれません。その時はお願いできますか?」
「もちろんです。Aランク冒険者のソルト様の申し出なら、団長も許可を出されると思いますので」
ルータスさんには色々と情報を教えてもらったので、お礼に俺は軽く情報料を提供しておく。
「こんなにいただけませんよ!」
これは俺なりの気持ちと、ちょっとした実験を含んでいた。
「いやいや、情報をありがとうございます。また何かあればよろしくお願いします。それに何かと物入りでしょ?」
「えっ? まぁ生活をしていれば」
「お金はいくらあっても惜しくはありませんから」
実際に、お金は惜しくない。
冒険者をしていれば、役人とのやりとりは領境や街に入る際にいくらでもある。
「へへ、ありがとうございます!」
最初以外は、ほとんど抵抗なく、お金を受け取ったルータスさんに頭を下げる。
「それでは」
「こちらこそです!」
俺はルータスさんに別れを告げて、詰め所を後にした。
「待たせてすまない」
詰め所の外で待っていた、アオとルリに声をかける。
二人には屋台で何か食べるようにお金を渡していたが、どうやら何も買わないで待っていたようだ。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「主人様、おかえりなの」
「先に食べていてくれてよかったのに」
「いえ、食事はまだ大丈夫だと思ったのです」
「そうか?」
「大丈夫なの!」
「わかった。二人がそういうならホテルに行こう。今日の宿をとっておかないとな」
俺はクルシュさんにも会いたかった。
そのため、この街に来て初日に泊まったホテルに向かった。
「クルシュ様は、すでにチェックアウトされております。ソルト様ですか?」
「ああ。ソルトだ」
俺はフロントでクルシュさんのことを聞いて、冒険者証を提示した。
「言伝を預かっております」
「ああ」
クルシュさんからの手紙が預けられていたので、ホテルの部屋へ移動して荷物を置いてから俺は手紙を開いた。
そこには、ルータスさんから聞いた話と同じ内容が書かれていた。
メイの父親と家族に間者の容疑がかかり、メイもその犯行に加担していたという。
だが、クルシュさんはそれを認められないということで、メイの処遇をラーナ様に直談判するために一度コーリアスに戻って情報を集めてくるという。
そのためダウトの街を離れることを謝罪するように書かれていた。
「ふぅ、俺がいつ戻るのかわからないから急いだんだろうな。クルシュさんの文字に焦りが感じられる」
俺は手紙をテーブルに置いて、改めてガイン様に話を聞く必要があると思う。
ーーコンコン
「はい?」
「第二騎士団団長ガイン様からの遣いです」
丁度、会いに行こうと思っていた相手から遣いが来るということは、そういうことなんだろう。
「はい」
俺が扉を開くと鎧を纏った兵士が立っていた。
「ソルト様ですね。ガイン様がお呼びです。同行願えますか?」
「わかった。少し準備するので、待ってもらえるか?」
「かしこまりました」
捕まるわけではないので、俺はルリとアオに出てくることを告げて、食事はホテルの者に部屋へ持って来させることを告げてホテルを出た。
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