第36話
《sideハニー》
聖属性、冒険者ソルト。
この男についてウチが調べへんはずがない。
どんな人物か、ミーアに調べてもらった。
そやけど出てくるんは聖人君子みたいな話ばっかりや。
治療の知識を豊富に持っていて、助けられた冒険者が多数報告された。
魔物への対処方法も詳しく、補助についてもらった冒険者は戦いやすかった。
態度は丁寧で優しく紳士的。
これまでの人生は、五つ下の幼馴染二人を守りながら育て、その二人が巣立つことで一人になり、コーリアス領に瘴気が発生したと聞いて、冒険者の仕事を再開するか。
何かしらコーリアス領内で家令のラーナと接触はあったようやけど、密約を交わした痕跡はない。
もしも魔法的な契約を交わしていれば、痕跡が残るはずやけど。
約束をしていても口約束だけやと判断できる。
「これならウチが色仕掛けで落としてもカドはたたへんな。歓楽街で生きる者として、その気のないお客様でもその気にさせるんがプロや。食事、酒、極上のサービスと女性。ウチとそういうことになったら、責任感でここに残ってくれるかもしれへんな」
正直に言えば、責任感やなくて恋愛として残ってほしい。
ソルトさんは最高の男や。普通に好き同士になって落としたいと思うけど、今回は時間もないし、何よりもフェンリルの二人が横槍を仕掛けてきた。
色仕掛けでもせえへんと勝ち目はない。
悔しいけど、女としてのプライドはズタボロや。
せやけど、街の代表として、一人の女として何がなんでも落としたる。
「仕込みは出来とるな?」
「はい! お任せください」
今日のウチは万全の準備をして、夕食にソルトさんを出迎える。
歓楽街にくるお客様が悪さをせんように、様々な用意がされている店にノコノコやってくるソルトさんが悪いってことで、存分にやらせてもらうで。
そう思ってまっとったウチの元に凛々しい姿で現れて、胸をときめかせるやなんて、まずは一本取られたわ。
まぁええ、ええ男で来てくれたんやったら思う存分させてもらう。
「なんや、今日はいつもよりも男前やね」
「ありがとうございます。ハニー様も綺麗なだけじゃなくインパクトがありますね」
褒めてはくれるけど、視線はずっとウチの顔を見てるやん。
こっちは自慢の胸も、お尻もお色気全開で落としにイッているんやで! もうちょっと見たってもええんちゃうん!?
まぁええ、ここからは仕込み料理でなんとかしたる。
その気がない男もその気にさせる精力増強する料理ばっかり用意させてもらったで。わかっとる。ソルトさんは、酒は毒として浄化してしまうんやろ? せやけどな、食事は毒やないよ。
むしろ、元気にするための物や。
いくら回復や浄化をしようと、体にええ物は、効果を強めるだけやで。
「お酒は失敗した経験がありまして」
ふふ、それはええこと聞いたな。
今回用意したワインは、飲みやすいけどアルコール度数を高いもんや。
それに料理を食べてから飲む酒は、すでにいつもとは魔法の効果が変わってしまっているはずやで。
「失敗なぁ〜まぁええけど。飲めるんなら乾杯や」
「……はい」
なんや、心配せんでも酒に溺れた経験があるんか、ならこっちの独壇場やね。
雰囲気作りもバッチリや、精力が増強されて、いつも以上にウチのことが綺麗に見えとるやろ? ふふ、さぁ仕上げといこか。
「美味しいです」
「そやろ。そんでや、質問やねんけどな」
「はい?」
「ウチに可能性はあるんやろか?」
「可能性?」
惚けてるんやないやろね。自分に自信がないのか、ここまで鈍感やと、これまでの女たちも相当に苦労してきたやろね。
せやけど、そういう男も虜にするんが仕事の一環や。
まぁウチの場合はベッドに入る前に寝かせてまうけど、ソルトさんは最後までしてもらいましょう。
「俺からも聞きたいことがあります。もしも、飲み比べでハニー様に勝てたなら、俺の質問に答えていただけますか?」
「ふ〜ん、面白いやん。ええよ。受けたるわ」
はは、乗ってきおったな。
精力増強料理で、もう思考はバカになってんねんやろな。
さっき酒で失敗したって言ってたのに飲み比べてアホか、絶対にウチが勝つに決まってるやん。
せやけど、挑まれた勝負はやらんとな。
三本のワインを飲み干して、さすがにウチもキツい。
目の前で真っ赤な顔で目をトロンとさせた獲物がぶら下がってるから耐えられるけど、今すぐ寝たいわ。
「間者はいますか?」
ああ、冒険者やからな。
コーリアス領のラーナ様にでも調査を頼まれたか? どうせアズマーン領が、何か企んどるんやろ。ホンマにしょうもないな。
「一番使えん奴を調べてみ」
これぐらいのヒントはええやろ。
さて、仕上げや。
五本目を開けて、一気に飲み干していく。
ウチは七本まではいける。
精力増強の料理もソルトさんだけにした。
どや? いつも以上に酒が回って、体が熱うなっとるやろ。
目の前に極上の女がおるで! 手を出さんで帰るんですか?
「ソルトさん。気分が悪そうやな。どうやらウチの勝ちみたいや。よかったら、奥にベッドがあるさかい。休んでいったらどうですか?」
ウチはテーブルに寝転んだソルトさんに声をかけた。
「ハニー様」
「うん?」
「いつも街の長としてお疲れ様です」
「なんや労ってくれるんか? ええよ。それが仕事やし。ウチも楽しんでやってる」
「はい。ですから、俺からヒールをさせていただきます。日頃の疲れを少しでもとっていただきたくて」
「うん? ありがとう」
ウチはソルトさんのヒールを受けるんは初めてや、瘴気の浄化だけでなく、回復術も得意やって調べはついとる。
「ほなら、ちょっと頼もかな?」
「はい! 失礼して」
椅子に座っているソルトさんに背中を向けて屈み込んだ。
手を当てやすいようにするためや、これが終わったらベッドへ……。
「はあああああううううううう!!!」
なっ!? 何が起きてるんや!
背中にソルトさんの手が当たったと思ったら、全身に血が駆け巡る!?
熱い! あかん、ワインを五本も飲んどるから、この熱さはヤバイヤツや!
「そっ、ソルトさん!」
「まだ動かないで」
いきなりバッグハグして、全身にヒールかけるんはやめて!
あかん、あかんねん! ちゃうんねん。やめてほしいだけやねん。
後ろから抱きしめられてヒールされるとか、役得すぎるやろ!?
気持ち良すぎてあかんのや!!!!
♢
朝に目覚めると、ウチは知らない天井を見上げていた。
「ここはどこや?」
呆然とする頭で記憶を辿れば、ソルトさんと一夜を過ごすために用意した部屋の天井やと言うことに気がついた。
「やられた! ウチが襲うはずが、完全に持ってかれた! ソルトさんの失敗って酒に酔って相手を気持ちよくすることかいな!? 早く言えや! そんなん誰が予測できるっちゅうねん!?」
ウチは、散々部屋で怒鳴って、深々とため息を吐いた。
「せやけど、この体に残った感覚どないしてくれんねん。めっちゃ体が満足してもうてるやん! こんなん覚えさせられたら、忘れられへんやん」
ハァ〜仕方ない。
今度は正攻法で、女にしてもらうように頼むしかないな。
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あとがき
どうも作者のイコです。
ドラノベコンテストが皆様のおかげで総合2位になることができました。
本当にありがとうございます。
そして、この話であとがきを抜いても完全に10万字を突破することができました!?
応募要項にも満たしたので、無事に応募完了です。
六月十五日までは毎日投稿を続けていきますが、1話か、2話になるのかは、その日の状況次第になると思います。
出来れば、これからも応援いただければ励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。
明日は、12時ぐらいに一本は投稿しようと思っています。
朝の投稿はないかもしれませんが、お待ちいただければ幸いです。
どうぞ、今後もよろしくお願いします^ ^
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