第35話
街の長であるハニー様との会食ということで、俺はラーナ様との会食で着ていた、ちゃんとした服に着替えて、夕食へ向かった。
髪の毛はルリが整えてくれたので、自分でやるよりも整えられていると思う。
「こんばんは、お招きいただきありがとうございます」
「なんや、今日はいつもよりも男前やね」
「ありがとうございます。ハニー様も綺麗なだけじゃなくインパクトがありますね」
そう言って俺を出迎えたハニー様はバニー服を着用していた。
黒いボンデージに編みタイツ、ハイヒールを履いて自前の兎耳と兎尻尾がよく似合っている。
ブルーの着物が印象的だったので、不思議な気分だが、イメージ通りの衣装に素直に似合っていると思う。
ハニー様のスタイルの良さを強調していて、俺はなるべく見ないように視線を顔に合わせて挨拶をした。
「むむむ、これはウチにとっては戦闘服やねんけどな。まぁええ、そう堅くならんでええよ。気楽にいこ」
「いつもとは違うハニー様に緊張はしますよ」
「これが本来のウチやねんけどね。お客さんの前に出る時の仕様や」
そう言って編みタイツを見せつけるようにポーズをとる。
確かに魅惑的で刺激が強い。
第二騎士団団長ガイン様が言っていたのは、こちらのハニー様の姿だったと言うことだろう。男性を魅了するための姿だったのか……。
もしも、今朝のルリとアオの裸を見ていなければ、興奮して鼻血を出していたんじゃないかと思うほどだ。
「せやけど、ソルトさんには効いてないみたいやね。体よりも顔にばっかり視線を感じるわ。それはそれで嫌やないけど、ちょっと負けた気がするは悔しいな」
意識的に顔を見ていたが、どうやらハニー様の自尊心を傷つけてしまったかもしれない。女心は難しいものだ。ジロジロと不躾な視線を向けてはいけないと思っていたが、ハニー様のように見てほしいと思う人もいるのか。
「まぁええ。食事にしよ」
貸切のレストラン内は、街が見下ろせる場所に建てられていて、歓楽街の煌びやかな賑わう声が聞こえてきて、赤い提灯によって彩ろどられている街並みは美しい。
「改めてダウトの街を救ってくれてありがとうな」
「いえ、仕事をさせてもらって、報酬をいただきました」
「真面目やな。まぁそういうところがええねんけどな」
ルリほどではないが、かなりのボリュームあるバストがボンデージで谷間を作って強調されている。テーブルに肘をついてこちらを見てくるとどうしても視線を向けそうになる。
「ソルトさんにウチから申し出があるんや」
「申し出ですか?」
「そや、この街は獣人たちの中でも女を守るための街として、ウチは街作りを進めとる。獣人は他の種族よりも弱肉強食を大事にしとって、女は男の食い物にされやすい」
それぞれの種族にはそれぞれのルールや決まりがある。
俺が口出しすることではないと思うが、弱い者を守ろうとするハニー様は凄いと思う。
「ソルトさんは他の男共と違って臭くない。誠実で真面目や」
「そんなに褒めても何も出ませんよ。ハニー様の活躍でたくさん助けていただきました」
随分と高い評価をもらったようだ。
だが、俺がこの街に来たのは瘴気の浄化と、間者の調査のためだ。
ハニー様からは、間者の有無について聞かなければならない。
「そう言うてくれると話しやすいわ。ウチからの申し出は、このままこの街に残ってウチらの自警団の回復術師になってくれへんか?」
「自警団?」
「そや、この街はウチやミーアを中心にした女ばかりの自警団が存在する。隣のコーリアス領に出来た女だけの騎士団みたいなもんや」
それぞれの街や領に悩みがあって、求められることは嬉しいことだ。
「今回は助けてもらったけど、ウチらはずっと魔物や外敵に対して戦ってきた。せやけど、獣人は聖属性が他の種族よりも極端に少ない。ソルトさんが聖属性の回復術師として在住してくれたら、魔物の発生頻度を抑えられて、みんなの怪我や衛生面も守られる」
ハニー様の申し出は悪い話ではない。
ラーナ様から女騎士団の専属になって欲しいという申し出に近いものだ。
もしも、ラーナ様の助っ人話を受けていなかったら、受けてもいいと思えるほどの内容だった。
もしもラーナ様に会う前なら、快く受けていたと思う。
だが、俺はすでにラーナ様からの依頼を受けている状態だ。
ハニー様の申し出は受けることができない。
「ありがたいお言葉ですが、俺はまだまだ瘴気が溢れている場所を回らなくちゃいけないと思っています。アオやルリのような女性をこれ以上出さないためにも」
「やっぱりか〜、薄々は感じとってんな。こんな小さい街で終わる人やないって……。なぁ、聞かせてくれへん?」
「なんです?」
食事が運ばれてきて、会話が一時的中断される。
両方のグラスにワインが注がれていく。
「あっ、お酒は……」
「ええやんええやん。瘴気が無くなった祝いや。それに明日にはコーリアス領に戻るんやろ? 最後の晩ぐらいは付き合ってや」
「……わかりました。ですが、程々にお願いします」
「なんや、そんなに弱いんか?」
「いえ、弱いわけでは無いですが、ちょっと失敗したことがありまして」
クルシュさんとメイに変なことをしていたことを忘れるわけにはいかない。
「失敗なぁ〜まぁええけど。飲めるんなら乾杯や」
「……はい」
俺たちは互いにグラスを持ち上げてワインを飲んだ。
口当たりが柔らかで飲みやすいワインはとてもおいしかった。
「ふふ、美味しいやろ。ウチらが頑張って作ったブドウや。毎日頑張って手入れをして、女たちが足で踏んで絞り出した最高品やで」
「凄く飲みやすいくて美味しいです」
「そやろ。そんでや、質問やねんけどな」
「はい?」
「ウチに可能性はあるんやろか?」
「可能性?」
俺は何を聞かれているのかわからなかった。
「ソルトさんもお人が悪いなぁ〜、そこまで女に言わせるんか?」
女に言わせるんだ? えっと、俺はなんの可能性を聞かれているんだ? 考えろ俺?! これまでのハニー様の行動や言動で推測するんだ。
ダメだ! 全く思いつかない!?
「くぅ〜!!!」
俺は一気にワインを飲み干した。
「なんや強いやん。ふふ、雰囲気作るのに酒の力を借りるんは、初めてなら仕方ないことや。それもええよ」
「俺からも聞きたいことがあります。もしも、飲み比べでハニー様に勝てたなら、俺の質問に答えていただけますか?」
「ふ〜ん、面白いやん。ええよ。受けたるわ」
お互いの前にワインが置かれていく。
「まずは三本。これぐらい飲まなウチは酔われへんよ」
「望むところです」
互いにワインを三本飲み干した。
しかし、浄化を使っているはずなのに効果が鈍い。
「ええ飲みっぷりやね。それで? どんな質問が聞きたいん?」
「ハニー様はまだまだ平気そうですよ」
「そらな。ホストが酔い潰れるわけにはいかんのや」
四本目を飲み干して、少しだけハニー様の顔が赤くなる。
「ええ根性してるやん」
「ふぇ〜、これぐらいならまだね」
うっ、飲みやすいと思ってグビグビ飲んでいたが、明らかにガイン様と飲んだ酒よりも度数が高い。自分の判断が甘かった、上手く魔法が使えていない。
「ええで、今ならなんでも答えたるわ」
「それならコーリアスに侵入している間者はいますか?」
直球で聞いてしまった。
俺は完全に酔っている。
自分でも自覚しているがどうすることもできない。
「間者? そう言うことか、はっ。ユーダルスのボケが考えそうなことやで! それならな、一番使えんやつを調べてみることやな」
「一番使えんやつ?」
「そや、ユーダルスは自分よりも無能が大好きでな。そういうやつを煽てて使うんが上手いんや」
俺は頭がバカになって、浄化が完全に効果を失いつつある。
「さぁ五本目やトドメと行こか。もしも、意識を失ったら」
「失ったら?」
「そんときはお楽しみが待ってるだけや」
妖艶な笑みを浮かべたハニー様は今までで一番美しく見えた。
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