第34話
刺激が強すぎて頭に血が上ったのだが、出血で多少は落ち着くことができた。
ただ、今度は血が足りない状態なので、食事を摂りたい。
「申し訳ありません。ご主人様」
「大丈夫なの? ご主人様」
美人親子に顔を覗かれているが、とりあえず二人には服を着てもらった。
ただ、あまり窮屈な服は苦しいと言うことで、胸元が開いたワンピースを着用しているので、目のやり場に困ってしまう。
ありがたいことに獣人の街なだけあって、耳や尻尾に対応した服をホテル側が用意してくれたので、すぐに二人用の服は調達できた。
着替えも含めて動きやすい服などを、ホテル側に数着ほど持ってきてもらって、二人に確認を取りながら選んでもらった。
その際に着せ替えて見せてくれるのはいいが、どれも似合っていて、とても可愛い。
ラーナ様のボタン爆発が記憶には新しいので、ルリにはボタンが付いていないワンピースやダボっとしたゆとりのある服を選ばせてもらった。
巨乳でありながらも全体的にほっそりとしているアオには、できるだけ動きやすい服装を選んだ。
ファッションショーをしながらどれが良いのか選べと言うので、二人のイメージに合わせた服を選んだことで喜んでくれたならよかった。
二人と主従契約を結んでしまったことは、嬉しいやら、困ったやら、色々と思うことはあるが、まずは今後のことを考えるのが一番だろう。
一緒に行動することになると思うと、我慢できる自信がない。
俺は好きな人と初めてを迎えたいと思っているが、理性は保てるのか? いや、普通に二人のどちらかを好きになって付き合うならいいと思う。
ただ情けない話だが、まだシンシアのことを引きずっている俺としては気持ちを切り替えきれていない。
「ああ、大丈夫だよ。ルリさん。アオさん」
「ご主人様!」
「はっ、はい!」
「む〜なの」
「えっ?」
「私たちのことはルリ、アオと呼び捨てにしてくださいませ」
「あっ、いや、でも」
「ご主人様にアオって呼んで欲しいの」
二人に可愛く詰められてしまうと、反論する気力も奪われてしまう。
「わかったよ。ルリ、アオ。これからよろしく頼む」
「はい! ご主人様」
「嬉しいの」
ファッションショーの次は朝食をとって、動きやすい格好に着替えてから、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
歓楽街には綺麗な人が多いダウトの街でも、二人の姿は十分に目立つほどの存在感を放っていた。
獣人の男性だけでなく、観光に来ている男たちも二人を見て固まってしまう。
冒険者ギルドに辿り着くまでにどれだけの視線を集めたのかわからない。
俺は足早に受付に向かって要件を伝える。
「ソルト様ですね。ギルドマスターが来られたら、マスター室に来てほしいと言われていました」
「ああ。ありがとう」
冒険者ギルドの受付さんからも、すっかり顔を覚えられてしまった。
俺はそのまま二階へ上がって、ミーアさんが待っているギルドマスター室へと入った。
「おはようにゃ! ソルト」
「おはよう。ミーア」
「にゃはは、すっかり二人を従えているようにゃ」
「俺も目が覚めたら何が何やらだよ」
ミーアに出迎えられてソファーに座るが、二人に挟まれるように座っていると、ミーアさんに笑われてしまった。
「あの後のことはまぁ、色々と大変だったにゃ。魔狼がいなくなって、ギルドメンバーには事件が解決したと伝えたにゃ。ソルトが瘴気を浄化してくれたことを説明して、魔狼が倒した魔物の魔石をメンバーに分配することで報酬にさせてもらったにゃ」
ルリとアオは、真面目な話をするときは俺に全てを従う姿勢で黙っている。
後始末や人の手配など、ミーアにはかなりお世話になったな。
ギルドメンバーにも、生活があるからタダ働きをしてもらうわけにもいかない。魔石で補えるとありがたいけど。
領主のハニー様から報酬が出るので、迷惑料として上乗せ出来たならよかった。
「色々と配慮してもらって助かる」
「何を言っているにゃ。ソルトは、こちらの依頼に合わせて瘴気を除去してくれていたにゃ。これはソルトの報酬にゃ。こちらこそ感謝しているにゃ。ありがとうにゃ」
テーブルに置かれたのは金貨がたくさん入った袋だった。
魔狼の討伐料も入っていると言うことで、ドラゴンゾンビを上回る金額だった。
ルリとアオのことで何かと気を使って、裏で手を回してくれたミーアには何かお礼をしないとな。
今回の戦いでは、ミーアとハニー様には随分とお世話になった。
ダウトの街の瘴気を完全に取り除けたのが何よりだ。
ただ、気になるのはルリを暴走させて、アオを誘拐し、バツという獣人を殺害したと思われる道化師の女だ。
「犯人については」
「残念ながら、行方はわかっていないにゃ。ただ、冒険者ギルドのネットワークを使って各地の冒険者ギルドには危険人物として、今回の犯人として指名手配しているにゃ」
ギルドマスターとしてミーアの優秀さには頭が下がる。
色々と後処理を全てしてもらったことに感謝してもしきれないな。
「それで今後はどうするにゃ?」
「二人の冒険者登録を改めて頼む。パーティーメンバーとして登録してほしい」
「なるほどにゃ。二人を保護することを決めたのにゃ」
「ああ、約束したからな」
「全く、お人好しもいいところにゃ。とりあえずは普通の獣人として二人を登録するにゃ。パーティーを組むなら名前を決めて欲しいにゃ」
俺は二人の顔を見て、名前を決めていた。
「聖狼フェンリルで頼む」
「フェンリルを宣伝していることになるけど、いいのかにゃ?」
「ああ、堂々としていればいい。すでにあのピエロにバレているなら、俺たちが活躍して手出しができないようになればいい」
「全く、ソルトはどこまでも良い男にゃ。わかったにゃ。それじゃ聖狼フェンリルでパーティー名を登録しておくにゃ。そうにゃ。ハニー姉が今晩はソルトと二人で食事をしたいと言っていたにゃ」
ハニー様が? 俺も瘴気の事件が解決したから、コーリアスに戻るつもりだ。そろそろラーナ様に仕向けられている間者のことも調べなければいけない。
「わかった。二人ともホテルまで送るから、そこで待っていてくれるかい?」
「かしこまりました」
「寂しいけど仕方ないの」
「今日は親子水入らずで話をすればいい。ホテルには食事を届けるように言っておく。ただ、あのピエロには気をつけるように」
「「はい! ご主人様」」
「すっかり、二人の主人にゃ」
その呼び方を変えた方がいいかと思ったが、二人がどうしても、嫌だと言うので、それは仕方ない。
俺はハニー様の元を訪れて上手く探りを入れられるだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます