第28話

 朝、目を覚ましてからは、アオの身の回りの事をしてあげていた。

 風呂に入れて、服を着替えさせて、ご飯を食べる。


 どこの地域であっても高級ホテルというのは、サービスが素晴らしい。

 俺の要望に対して金を払えば応じてくれる。


 全てを整えられて、目の前に座っている青髪の少女はめちゃくちゃ可愛い!!


 両目が隠れるほど髪の毛が長く、洗体で隅々まで綺麗になったことで、フワフワで心地よい毛並みをしていた。


「主人! 主人なの!」


 目が覚めた時から、俺を主人と呼んで、ずっと側を離れようとしない。

 お風呂はなんとか風呂場の前で待っているということで納得してもらった。


「よ〜しよしよしよし!」


 可愛いのでついつい頭を撫でて、顎をさすってしまう。


「ハフウウウ」


 本物の犬のように心地よい肌触りと、気持ちよさそうな反応を返す。

 お肌もモチモチスベスベだ。


「はぁっ! んんっ!」


 最近の光景としては凄く新鮮だ。


 揺れない!! 心が乱されない!! 幼女はいい!! 


 未成熟な体に興奮を覚えることはない。

 最近は魅力的な女性ばかりに囲まれて、金袋をパンパンにする日々だった。


 だが、久しぶりの賢者タイムを味わい、心穏やかな時間を過ごせている。


 アーシャの幼い頃を思い出すな。昔のあいつは、アオのように俺の後をついてきて、全然離れようとしなかった。

 まだ穢れを知らない幼くて可愛い子犬のようだった。


 ポンポンとアーシャの頭をなでると喜んでいた。


 つい幼馴染と同じ対応をしてしまう。


「ハフハフハフハフ」


 俺が頭を撫でると凄く嬉しそうな顔をする。


「アオ、今日は冒険者ギルドに行って、君のお母さんを探そうと思う」

「お母さんなの?」

「ああ、君にアオという名前をつけてくれたお母さんだ」

「ううう」


 俺がお母さんを探す事を告げると、何かを我慢するようにギュッと手を握って俯いてしまった。


「どうかしたのか? 何かあるなら俺になんでも話してほしい。力になるぞ」

「主人なの!」

「うん?」

「お母さんを助けてほしいの!!!」

「助ける?」


 俺が治せる病気なら、ある程度は対応できる。

 だが、不治の病の場合は、診てみないと判断ができない。


 もしも、借金とかなら今の俺は立て続けに大物を討伐することに成功して、資金には余裕があるから問題なく助けられるだろう。


「そうなの! お母さんを助けてほしいの! 全部あげるの!? ううん。アオはもう主人の物なの、だから一生を捧げるの!」

「いやっ! ちょっと待て! アオが俺の物ってどういう意味だ?」

「うん? 主人は、アオの命を救ってくれたの!」


 昨日は確かに大怪我をしていて、命の恩人と言えなくもないな。


「それに暖かな寝床と、美味しいご飯、お風呂も入れてくれて、服までくれたの」


 あ〜そうだね。全て金を払っただけなんだけど、聞いていると俺、スゲー悪いことをしているような気分になってきたのはなぜだ? 


 幼気な幼女の心のスキマに付け込んだゲス野郎に聞こえるのは俺だけだろうか?


「お母さんが言ってたの! アオたちは自然の中で生きているの! だけど、気に入った人が出来て、その人がアオのためにたくさんの事をしてくれたら主人って呼びなさいって! 言ってたの!」


 アオの年齢はわからないが、子供が親のいう事を信じてしまうのはよくあることだ。だが、信用できるのかどうかを判断することは本当に難しい。


 たまたま居合わせたのが、悪意を持つ者だったなら、この純粋な子が酷い目にあっていたかもしれない。


 俺は手を伸ばしてアオの頭を撫でてやる。


「ハフウウウ」


 気持ちよさそうにフワフワの毛並みを触らせてくれる。

 狼のような耳も触ると、くすぐったそうにするので、その表情も可愛い。


 出来れば、アオもアオのお母さんも救ってやりたい。


「アオ、俺ができる事はやろう。お母さんを助けられるなら助ける」

「ありがとうなの!? 主人に一生を捧げるの!」

「いや、ただ、軽はずみにそういうことを言うのはやめなさい」

「軽はずみ?」

「そうだ。アオは可愛いから、そんな事を言えば男は喜んで、アオに悪い事をするかもしれない。自分のことは自分で守る、強さを学んでほしい」


 俺としては子供にどこまで強くいうのか考えなければならないと思うが、無邪気に甘えてくれるアオを見ているとどうしても忠告したくなってしまう。


「軽はずみじゃないの!!」

「うん?」

「主人だけなの! アオは主人にしかしないの?!」

「うっ?!」


 上目遣いにキラキラした瞳を向けてくるのは可愛い。

 子供の純粋な瞳は、こちらの教えたいことを伝える力を削ぎ落とすほどの威力を含んでいるような気がするな。


「ハァ〜、わかった。アオが誰にでもついていかないならいいよ」


 頭を撫でてやると気持ちよさそうな表情になる。


「とにかく、ハニー様とミーアに相談しよう。俺一人では彼女の母親を探すのも大変そうだからな」


 準備を整えた俺はアオを連れて、冒険者ギルドに向かうことにした。


「アオ、お出かけするぞ」

「どこに行くの?」

「冒険者ギルドだ。アオは行ったことあるか?」

「ないの!」

「そうか、まぁ子供が入るようなところじゃないからな」


 昨日の出来事からどれだけ変わったのかわからないが、冒険者ギルドの中に入ると、大勢の人が慌ただしく走り回っていた。


 アオを抱き上げて受付に行くと、獣人の受付さんが座っていてミーアへの取り次ぎを頼んだ。


「ソルト様ですね。お待ちしておりました。そのまま二階にあるギルドマスター室へどうぞ」


 どうやら俺が来たら通すように言われていたようだ。

 そのまま二階へ上がってギルドマスター室の扉をノックする。


「誰にゃ?」

「ソルトだ」

「入ってほしいにゃ!」


 俺はミーアに許可をもらって部屋へと入室する。


 すでにハニー様もソファーに座っていた。


「おはようさん。ソルトさん。うん? なんやその幼女は?」

「おはようございます。昨日連れて帰った子犬ですよ。なぜか、朝起きたら獣人になっていて、お二人ならわかるかと思って連れてきました。アオ、ご挨拶をして」

「あい! アオなの! おはようございますなの!」


 抱き上げていたアオを下ろして、アオがぺこりと挨拶をする。


 だが、アオの挨拶に二人が返事をしないので、見ると驚いた顔をして固まっていた。


「子犬が人になるってどういうことやねん!!!!!」

「そんな話、神話でしか聞いたことないにゃ!!!!」


 うん。どうやら俺の方が常識がおかしいらしい。


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あとがき


どうも作者のイコです。


本日より、お仕事、学校、みんな頑張りましょう!

私も頑張ります!(๑>◡<๑)


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