第27話

 俺は冒険者ギルドを出ても、生きた心地がしなかった。


 なんだあれは!? 右に爆乳! 左に巨乳!


 しかも左にはネコのようなしなやかな尻尾にリボンがついて、フリフリと視線を逸らしても可愛いこが俺を襲ってくる。

 視線を合わせて話をしようと思えば、上目遣いで俺を見上げてくる。


「くっ!? 可愛いじゃねぇか?!」


 右からは、爆乳を携えたウサ耳美女がキラキラと庇護欲そそる瞳で誘惑してくる。


 俺の心をどこまで掻き乱せば気が済むんだ。


 最高に可愛いに決まっているだろうが!?


「ハァハァハァ! だが、やっとだ。やっと一人になれる。ダウトに向かう数日、クルシュさんやメイが側にいたせいで、自分の愛棒を慰めてやることもできなかった」


 もう金袋はパンパンだ。


 どこかで発散しなければ、我慢の限界がやって来てしまう。


「クゥ〜!?」


 足早に街の端にある高級ホテルに向かっている途中で、路地裏から苦悶の声が聞こえてきた。


 正直に言えば、今は無視して一刻も早くホテルに帰りたい。

 

 だが、無視して後悔しないかと聞かれれば、自信がない。

 

 一目だ。一目見るだけでどうにか……。


 そう思って路地裏を覗き込むと黒い毛並みをした獣人と、青い毛並みをした子犬が傷を負って倒れていた。


「なっ?! あんた大丈夫か? すぐに回復魔法をかける!」


 俺が黒い毛並みの獣人にヒールをかけようとして、腕を掴まれる。


「俺はいい! もう助からない。俺はバカなことをした。どうかハニーに知らせてくれ。魔狼が近づいていると! そして、この子を……」

「魔狼? 魔狼って!」

「うっ」


 最後の言葉を残して事切れた。


 魔狼とは伝説の魔獣の一体だ。


 魔王軍が存在していた時代に、多くの人々を殺した恐ろしい魔物で、ブラックウルフが可愛い存在に思えるほどに強い。


 俺は子犬に回復魔法をかけて、獣人の遺体を抱き上げて冒険者ギルドに戻った。


「どうしたにゃ? やっぱり私が欲しくなったにゃ?」

「いえ、ホテルに戻る途中の街外れで」


 俺は黒い毛並みの獣人をミーナに見せるために降ろした。


「これは?!」

「なんやうるさいなぁ〜。うん? そいつは?! バン! バンやないか?」

「バン?」

「言ったやろ。私に聖水の話を持ちかけてきた男や。瘴気の話もこいつや」

「こいつが?! こいつがハニー様に魔狼が迫っていると伝言を……」

「伝言って、そうか、こいつも誰かに騙されてたんか。強い衝撃を与えられて殺されとる。誰がこんなことをしたんや」

「場所はどこにゃ?」


 俺は二人にバンと呼ばれた男を見つけた場所を伝え、冒険者ギルドで調査をすることが決まった。


「ありがとうな。色々と忙しくなりそうやから、ちょっと今日はホテルに戻ってや」

「こいつは?」


 俺はバンと一緒にいた子犬の処遇を問いかける。


「その子に構っている暇がないや。すまんけど、一日だけ面倒を見たってくれへんか? 回復魔法もソルト殿の方が得意やから頼むわ」

「わかりました」

 

 忙しそうな二人の様子に、俺は子犬を連れて帰ることにした。


 バンの殺害に、青い毛並みの子犬、さらに魔狼、見えない何者かの存在がダウトに迫っている。


 考えても仕方がないので、俺はホテルに戻って、改めて青い子犬に浄化と回復を施した。


「んんん〜クゥ〜」


 青い毛並みをした子犬は、ヒールを受けて気持ちよさそうな声を出す。

 どうやらこいつの傷は俺が思っていたよりも大丈夫そうだ。


「大丈夫か?」

「クゥ〜」


 最後に一鳴きした子犬は、そのまま意識を失ってしまった。


 汚れていた体にクリーンをかけて少し体を拭いてから、ソファーに寝かせた。


 傷が治ったのはいいが、目覚めたらお腹が空いているかもしれない。

 そうと思うと、なかなか俺は寝付くことができなかった。


「クゥ?」

「うん? 目が覚めたか?」

「ワン!」


 どうやら俺が救ったことはわかってくれたようだ。

 すぐに体をすり寄せて、子犬が駆け寄ってきてくれた。

 

 傷が癒えたおかげなのか、普通に歩いているな。


「腹が減っているだろ。スープとソーセージがあるぞ。それに水もあるから飲むがいい」


 俺は簡単に用意できるもので消化の良い物と、子犬が好みそうな食材を用意した。

 最初は戸惑っていたが、子犬はすぐに水を飲んで、大丈夫だとわかると食事を始めた。


 腹が相当に減っていたのだろう。


 美味しそうに食べ始めた。

 全てを食べ終えるとまた眠くなったのか、子犬がウトウトとしているので、ヒーリングをかけてやって寝かしつける。


「今はゆっくりお休み」


 流石に働いてばかりいたので、俺も疲れて寝てしまうことにした。


 愛棒を慰めてやる機会がまた遠のいてしまったが、子犬がいると思うとその気になれなかった。


 ♢


 俺は夢を見た。


 幼い頃の夢だろうか? 犬の耳をつけた小学生ぐらいの可愛い女の子が俺の上に跨って発情している顔を向けていた。


 ここが獣人領で、金袋をパンパンに腫らしているせいだろう。


 変な夢だと飛び起きると、夢の中で……。


「パンツを洗おう」


 動こうとして、自分の体に重りが乗っていることに気づいた。

 俺の腹に昨日助けたはずの、子犬が乗っていた。

 

 どうやら相当に溜まっていたことと、子犬が上に乗って温もりを感じたことで、変な夢を見てしまったようだ。


「すまないが、少しどいてくれ」


 俺は目を覚まして下着を変える。


 幸い、朝の早い時間だったので、下着を汚しただけで済んだ。


「ハァ、情けない。アーシャたちと旅をしている時にはこれほど溜まることなく、適度に処理できていたんだけどな」


 下着を替えて、子犬をベッドの端に寄せて眠りについた。


 しばらく目を閉じて寝ていると、重さを感じる。


 目を開くと、なぜか俺のベッドの上に幼女が寝ていた。


「はっ?」


 青い髪に犬耳をつけた幼女が、クリクリの瞳で俺を見つめていた。


「主人!」

「はっ? 主人?」


 そう言って幼女が俺の頭を抱きしめる。

 ぺったんこの胸は、子供らしい甘い香りがした。


 よくわからないが、幼女が俺の隣で寝ている。

 メチャクチャ怪しい。

 だけど、ここが獣人が住む領内で、昨日助けたはずの子犬がいない。


 それらを考慮すれば、自ずと答えが出てしまう。


 獣人は、普通の人よりも魔法が苦手な者が多い。

 代わりに獣化と呼ばれる、能力を授かって生まれてくる子が存在する。


 そういう子は、人、獣、その間の三種に姿を変えることができるというのだ。


 だから、助けた時は子犬だったが、一晩過ごすと、幼女になることもなくはない。


「君の名前は?」

「アオ!」

「アオ?」

「そう、お母さんがつけてくれたの!」


 無邪気に微笑む幼女、警戒はしている。

 だが、まずは身なりを整えることから始めることにした。


 クリーンで消毒をして、体の匂いを消してしまう。


 その上で、体を洗って風呂に入れた。


 さすがは、高級ホテル。


 洗体師が待機していたので、アオを洗ってもらった。


 全てを終えてから、家に返せばいい。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 本日でGWも最終日ですね。

 今日まで、たくさんの方々に読んでいただき本当にありがとうございました。


 ドラノベランキング4位

 週間総合ランキング9位

 週間異世界ランキング4位


 皆さんのおかげでここまで上がることができました。

 応援いただきありがとうございます!!!


 明日からは、皆さんも仕事や学校が始まると思いますので、更新も一話に落とそうと思います。


 一話更新になりますが、今後も読んでいただけると嬉しく思います!


 来週で10万文字は達成できそうなので、なんとかドラノベの応募要項を達成できそうです。


 今年は八作品目の新作もなんとか目標を達成できそうです!

 これもたくさんの方々が読んでくれることが励みになっております。


 いつも応援ありがとうございます!

 今後も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

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