第26話 

 ダウトの街近くの瘴気が発生した場所は解決できたと思うのだが、その確認を領主自らしてくれるとは思いもしなかった。


 元冒険者という肩書きは伊達ではない。


 ミーアの鑑定も、ハニー様の確認も迅速で、俺はここ最近ではドラゴンゾンビに次ぐ報酬をゲットできた。


 ダウトの最高級ホテルに一週間泊まっても、余裕でお釣りがくる程度の稼ぎになった。

 このまま風俗街に突撃できる資金はある。


 だが、俺だって初めては好きな女としたい。


「待たせてごめんにゃ」

「改めて話を聞かせてもらえるやろか?」


 二人にかけたヒーリングの効果は切れていると思う。

 ハニー様は穏やかな笑みを浮かべて俺の前に座った。


 テーブルに置かれるように座った彼女の爆乳が、どうしても気になってしまう。

 彼女のような身分のある女性に手を出すと後々絶対に面倒なことになる。


 出来ればお願いしたい気持ちはある!

 それは必死に抑えて遠慮しなければならない。


「まずは、こちらの話を聞いて頂き、報酬の確認してもらってありがとう」

「ええよ、ちょっとウチも自分の街がどんな現状か確認したかったとこやしな」

「そうなのか? まぁ、俺ができる範囲では浄化をしたつもりだ」

「そうやね。死属性になってしまった者も全部倒されとったわ」


 憂いを帯びた顔は可愛いながらも大人びた雰囲気を出していた。


 くっ! これは絶対に俺に試練を与えているんだ。


 ここで、屈してしまえば、俺はベラベラとラーナ様のことを話してしまうだろう。


 それは絶対にあってはならない。


「専門だからな。聖属性に関することだったからよかった」


 俺に出来るのは浄化と回復ぐらいだが、今回の仕事に対応ができてよかった。


 今の試練を乗り越えれば、ホテルでゆっくり一人の時間を楽しめる。


 クールになれ! 俺はクールな男だ。


「だが、なぜ瘴気がこれほどまでに溢れ出したんだ? 瘴気は戦争後や魔族が関与しなければそこまで発生が活性化することはないはずだ。ここまで大量に溢れさせるには、作為的な何かか瘴気に犯された魔物でも発生したのか?」


 そうだ。今は原因を解明することが大事なんだ。


「……ソルト殿やからええやろ。その調査が必要ってことやんな?」

「ああ、もちろんだ」


 俺の言葉にミーアとハニー様は、視線を合わせた。


 二人の美しい顔がなんとも言えないほどに可愛い。


「今回、ウチはミーアと瘴気を解決するために冒険者ギルドを訪れたんや。しかも獣人の中に瘴気に関与していることを口にした者がおった」

「瘴気に関与した者?」

「そや。自分なら聖水を手に入れられる。瘴気を増やして困っているなら助けてやるぞってな」


 そんなバカみたいな誘い文句をかけてくる相手が本当に黒幕なのだろうか? もっと裏に誰かいるんじゃないか? 


「せやけど、ソルト殿のおかげで瘴気はほとんど浄化できたしな。相手の思惑は外れたってことや」

「そうなんですか? だが、これだけの瘴気が発生するってことは、完全な原因は取り除けていないと思うんだ」

「それについては私が話すにゃ」


 ミーアは瘴気について調べてくれていた。

 それがあったから、俺も今回の瘴気を浄化するのに迅速な行動が取れた。


 ミーアの情報は信用できる。


「瘴気が発生し始めた時期に、ブラックウルフが住み着いていると噂になっていたにゃ」

「ブラックウルフ?」

「そうにゃ、ブラックウルフは闇属性でアザマーンでは見かけたことがなかったにゃ」


 自信満々に胸を叩くミーアだが、ブラックウルフだけで瘴気が増すとは思えない。


 だが、魔属性と死属性の数が増えれば、自然発生で瘴気は多くなる。


 北の大地に住まう魔族が多いのは、瘴気が多くて住みやすいからだ。


「関係があるかもしれないので、そちらの調査も進めておきます」

「何を言っているにゃ?」

「えっ?」

「流石に魔物の討伐を聖属性のヒーラーだけに任せるわけにはいかんやろ。ウチらも一緒に協力するわ」

「そうにゃ、久しぶりの戦場は腕がなるにゃ!」


 なぜだ! ギルドマスターと領主自ら俺の手伝いをすると言い出した。


 四六時中二人と行動を共にしろと言うのか? もしかして俺は疑われているのか? それでずっと色仕掛けをされているのではないか?


 バニー様が話すたびに、テーブルの上で胸がバウンドしている。

 ミーアが身じろぎするたびに、その巨乳が揺れている。


「それは流石に二人とも立場のある人間です。危険なことをさせるわけにはいかない!」


 二人と行動をするのは避けたい。


「何を言うてるんや! むしろ、こんな危ないことを他の子に任せる方が無責任やわ」

「そうにゃ! このギルドで、私たち以上の冒険者はいないにゃ」


 くっ! 確かにAランク以上の冒険者は王国では多くない。彼女たちが、この冒険者ギルドで一番強いのも事実だろう。


「……わかりました。それではダウト周辺の調査が終わるまで、よろしくお願いします」

「こちらこそや」

「頼むにゃ!」


 重要人物と共に行動をすることになってしまった。


 とにかく今後の方針が決まったので俺は席を立つ。


 一刻も早くこの場を離れて一人になりたい。


「今日は休ませてもらうので、明日からお願いします」

「そろそろサービスするにゃ?」

「ウチが相手しよか?」


 やっぱり誘惑をしてきた! 絶対にその手には乗らないぞ! 二人が俺を疑っていることは間違いない。


 獣人ではない、普通の冒険者が来るのは珍しいと言っていたからな、疑うのが当たり前だ。


「今日は疲れたのでホテルで休みます!」

「なんや連れへんなぁ〜」

「そうにゃ! そうにゃ! サービスさせろにゃ!」


 俺は二人から逃げるように冒険者ギルドを出た。


 ♢


《side???》


「どう言うことだ!?」

「おやおや〜、どう言うことだろうねぇ〜」

「何を笑ってやがる! お前の言う通りにやれば、ダウトの街は瘴気に囲まれて、他の街に救いを求めるって言ってたじゃねぇか!! 俺はそれを待って聖水を売り込む手筈で、金をばら撒いたんだぞ!」


 アホな獣人が何やら叫んでるねぇ〜。


 本当にバカの相手は嫌だ嫌だ。


「あ〜あ、実験は失敗のようだね」

「なっ!?」


 ここでも上手くいかなかったなぁ……。


 最近は本当に失敗続きだよ。


 ゴーストをワイトキングまで育てたのに、ちょっと目を離した隙に討伐されちゃった。


 ドラゴンゾンビも、放置して瘴気を増やそうとしてしていたのになかなか上手くいかないなぁ〜。


「どうしてくれんだよ!? お前の作戦に乗って、こっちは犠牲だけじゃなく、金を相当使っているんだぞ!?」

「うるさいなぁ〜。もう君はいらないよ」 

「はっ?」


 黒豹の獣人がうるさく吠えている。

 

 私の目的は十分に達することができた。


「邪魔だよ!」


 だから、払い除けるように腕を振るう。

 

 あ〜あ、ちょっと手を払っただけなのに大袈裟に吹き飛んで、血を吐いちゃった。

 これだからか獣人は弱い種族なんだよ。


「弱っ! ねぇ、君って獣臭いんだよね。ずっと嫌いだったんだ。そうそう、君に良いことを教えてあげよう。もうすぐこの領地は魔狼に襲われて滅ぶと思うよ。ブラックウルフと勘違いしているみたいだけど、そんな中途半端なこと私がするはずないじゃん。さようならバカな獣人さん。自分の欲望のために生きて死ぬんでしょ? 本望じゃないですか?」


 起き上がることもできない獣人を放置して、私は空間を開いた。


「そうそう、君に一つプレゼントをあげるよ」

「やめっ! やめろーー!!!」


 ふふ、少しは楽しめるかな?


 また次の実験材料を持って遊びに来るまでに、どうなってるかな? ふふ、楽しみ楽しみ。

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