第25話
《sideハニー》
現状のアザマーンは、あまりええ状況とは言えへん。
本来、伯爵となられるはずだった方が亡くなってしもうた。
あの方はお優しくて、賢い人やったけど病弱やった。
だから、亡くなったのは仕方ない。
弱い者は死ぬ。それが獣人の掟の一つや。
せやけど、代わりに伯爵になったんは、弟で黒獅子族のユーダルス様やけど、あれはあかん。
あの方は、何かと悪い噂がついて回っとる。
古き良き時代の獣人たちの生き方を好む方で、力で決める弱肉強食に狡賢く頭を使って勝ち残る人物を好んどる。
力を純粋に極めた者や狡賢い者たちが領のために動いているなら、まだ許せる。
せやけど、そういう奴らは徒党を組んで悪いことを考えるようになった。
今の領内はキナ臭い状況になりつつある。
ウチはそいつらが繋がって最近の瘴気事件を起こしたんやないかと睨んどる。
ユーダルス様もそいつらと繋がりがあるかもしれん。
「ミーア、ちょっとええやろか?」
「ハニー様、なんの用にゃ?」
「ふふ、そう邪魔扱いせんといて欲しいわ〜。ウチらの仲やろ? 昔みたいに姉ちゃんって、呼んで欲しいわ」
「わかったにゃ。それで? ハニー姉が何の用にゃ?」
冒険者ギルドに、いつもの服では目立ってしまう。
せやから普段着で来たんは、昔馴染みのミーアと話すためや。
アザマーンのルールは簡単。
いくつか街があって、街を納める領主には子爵位を与え管理を任せるんや。
ウチも、元々Aランク冒険者の実績があったから、前の伯爵様に管理を任されて、領境の警備も兼ねたダウトの領主を任命された。
そこまでは問題なかった。
同じパーティーメンバーやったミーアが冒険者ギルドマスターに就任してくれたから、連携もしやすくなって、ウチらは女性を守るために街作りを始めた。
表向きには、ダウトの街は色街のように振る舞ってはいるんやけど、女たちを匿う駆け込み場所として作り替えているところや。
力ある者や狡賢い者たちに虐げられる女を一人でも減らしたいと思って、ウチは動いとった。
せやけど、獣人は良くも悪くも弱肉強食で強い男に女は惹かれる。
確かに潔く強い男はウチも好きや。
そんな男に出会ったら、この身なんていくらでも捧げてもええ。
最近の男はあかん。
狡賢くて本物の強さを持った男が少ないんや。
実際、領主と伯爵が集まって話をする会議の場でも集まってくる領主たちは強い。
ただ、会食をしていても、食べるのが汚くて、見た目は不潔で、バカな話をして、狡賢い勝ち方を自慢する。
そんな情けない男ばかりや。
だから、ウチは最近のアザマーン領へ反発を感じ取った。
「おいおい、ハニー。お前、最近ちょっと調子に乗ってんじゃねぇのか?」
会議が終わった後のウチを黒豹のバンが止めた。
確かにバンは強い。
せやけど、獣臭くて、側におりたいとは思わん。
ウチらも獣人以外の人と交流を持つようになって、気品や気位を持つようになった。獣人と普通の人、その狭間で生きるためには学ばなあかん。
それを拒否して、昔ながらの生き方を選ぼうとしている男たち。
知識と教養を学んで、自分たちの価値を守ろうとする女たち。
その対立関係の筆頭に私は立っとった。
「なんや? 用事か?」
「おうおう、そんな意気込んでもお前みたいな女はいつでも組み伏せられんだ」
バンは、最近になって領主になった男や。
ユーダルス様の側近として、古参の領主を排除してその街にのさばっている。
風の噂では相当にクズだと聞いているが、今は事を構える時ではない。
「ふん、お前などの相手するんは嫌や。ほっとき」
「くくく、いいのか? お前の街近くは最近瘴気が溢れているんだろ?」
「あん? 何の話や?」
「俺なら、聖水を手に入れることもできるんだぜ。どうだい? 俺の女になったら分けてやるぜ」
虫唾が走るほどにうっとうしい。
こんな男の言いなりになるぐらいなら、自分の命を使って、瘴気から生まれる魔物と戦ったるわ!
「結構や、自分のことは自分で守る」
「ふ〜ん、いいのか? 俺ならお前を守ってやれるのに」
「どういう意味や?」
「別に。ただ、俺は瘴気を減らす方法を知っているってだけだ」
瘴気を減らす? 自然発生している物をどうやって減らすっていうんや。
「うっさいわ、ボケ。お前みたいな臭くて汚い男は願い下げや」
ウチはそう言ってバンから距離をとった。
去り際に、バンから威圧と「後悔しろ!」と恨み言のような言葉が投げられた。
確かに、バンの言葉を断ってから、ダウトの街で起きる瘴気による事件が増え続けているんはホンマや。解決をするために、ミーアと相談するためにやってきたんや。
「そういうことにゃら、それなら多分解決するにゃ」
「解決する? どういう意味や?」
「ほら、帰ってきたにゃ。ハニー姉の鼻で確認すればいいにゃ」
「鼻で?」
ミーアに言われて振り返ったら、一人の男性冒険者が入ってきた。
珍しく獣人の冒険者やないことに驚きながら、嗅覚や聴覚などが鋭い獣人の鼻をもってしても、一切の臭さを感じひん。
「賢くて、清潔で、何よりも臭くない聖属性の冒険者にゃ」
ミーアの言葉にウチは驚きと、もっと側で匂ってみたいと思ってしもうた。
ウブで初物の美味しそうな匂いと、清潔で良い匂いが鼻腔を満たす。
これや! こういう普通でええ。
ううん。清潔にしてくれるだけやない!
あとは強さや!
それがあれば申し分ないけど、見た目は十分にウチのタイプやな。
ウチらは、ちょっと冒険者ギルドで話をすることになった。
「それで? どれぐらい浄化をしてくれたのかにゃ? サービスするにゃ?」
「あっ、いや。今日は働きすぎて疲れたから宿で休みたい。確認を頼む」
「えっ?! これ全部やったのかにゃ?」
「ああ」
隣で依頼書と、実際にやった仕事内容を付け足してメモした用紙を見せてもらう。
そこにはウチが悩まされとった問題が全て解決してあるように書かれていたんや。
そんなバカなことあらへん。
ここ数ヶ月かけて処理をしなあかん案件ばっかりやってんで。
瘴気が魔物を生み出すだけやあらへん。
水を汚染して、土を死なせ、草花も咲かさへん。
全てを死滅させてしまう。
このままでは近い将来食糧不足や、水不足に悩まされるようになるはずやった。
それらの懸念を全て、取り払ったと書かれていた。
出現した魔物も全て倒して魔石の回収もされていて、その数も200以上はありそうやった。
「ちょっとこれ借りてもええやろか?」
「ああ、確認が必要なんだな。俺は休憩しているから好きに確認してくれ」
ミーアが魔石を確認している間に、ウチは冒険者ギルドを後にして、書かれた場所に行ってみた。
報告にあったことは、全てホンマやった。
いや、それ以上の成果を出しとった。
瘴気によってどんどん死にかけていた森は生き返り、田畑は作物がいつも以上に豊作で、何よりも汚染されていた川が綺麗に浄化されて、透き通るような美しさを放っていたんは驚いたわ。
「なんやこれ! こんなんありえへんやん。清潔で、良い匂いがして、あれだけの魔物を倒せるぐらいめちゃくちゃ強い! こんなん惚れへん方がおかしいやん」
ダウトの街が生まれ変わった姿が広がってた。
ここは良くも悪くも観光地としてマナーの悪い人間もくる。
だから、汚れるのは仕方ないってどこかで思っとった。
せやけど、ウチが治め愛する街が戻ってきたんや。
「これは絶対にお礼をしなあかんね」
初めてやけど、絶対に気持ちよくしたらなあかんやん。
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