第22話
ガイン殿が一対一で話があるというので、クルシュさんとメイを退出させて、部屋の中で向かい合う。
「まずは、昨日の詫びだ」
そう言ってガイン殿から投げられたのは刻印が刻まれた手紙だった。
「これは?」
「あちらとこちらを行き来するために必要になる物だ」
「あちら?」
「惚けるなよ。アザマーン領のことだ。このダウトの街は、アザマーン領と街を二分している。門を越えるための通行許可証だ」
なぜ通行許可証を渡されたのかイマイチわからない。
俺は瘴気の調査をして、それを取り除けば帰還するつもりだった。
「それは助かります」
「ああ、それで? どこまでラーナ様に聞いてきた?」
「はっ?」
「うん? 間者の調査も兼ねているのだろう」
「ああ、そういう」
「惚けるなって言っただろ。フレイナが間者の調査をしていて、お前たちを寄越した。そして、隣のアザマーン領が怪しいことは俺も掴んでいる」
すみません。全く聞いていません。
フレイナ様には、関与しなくていいって言われています。
ていうか、アザマーン領が怪しんですね?!
「お前が冒険者のフリをして向こうに潜入するってことなんだろう? 瘴気の出現も向こうの領で起きていることだしな。こちらにも被害は出ているが、それほど大きくはない。むしろ、アザマーン領は聖属性が少ないから、悲惨な状態だ」
こんな形で瘴気の情報を手に入れるとは思っていなかったが、ガインさんは勝手に勘違いしている。
だが、向こうで瘴気の事件が起きているなら、アザマーンに行く必要はある。
「先ほど話をされていたアンダーグランド。それに風俗街。そういう者たちが何かしらの動きをしていると……」
フレイナ様ではなく、メイに聞いた情報だ。
それに先ほどガイン殿自身が話した言葉を繋げて伝えてみる。
「なんだ。わかってんじゃねぇか。つまりはそういうことだ。木を隠すなら森の中。怪しい物を隠すならダウトの街ってな」
どうやらガイン殿が勝手に勘違いしてくれたようだ。
つまり怪しいダウト領を調査することで間者の情報が得られるかもしれないってことだな。
「それに、アザマーン領の新しい領主はヤバいやつだからな」
「新しい領主?」
「そうだ。ラーナ様に手を出そうとしたバカ弟だよ。ラーナ様と兄君のアザマーン伯爵は元々昔からの交流があった。確かに持病は持たれていたが、結婚するまでは病状はそこまで悪くなかったはずだ」
これは俺の知らない情報だ。
ラーナ様はご結婚をしていたのか? 貴族のことなので、冒険者ギルドで聞けばすぐにわかるが、あまり他人の情報を聞くものではないと思ってしまう。
だが、これが必要なことなら聞くしかない。
「というと?」
「思いの外、早くにアザマーン伯爵の病状が悪化したんだ。それも結婚をしてすぐに悪くなったと言っていた。それが不思議なんだ」
「不思議?」
俺は全く話が見えないが、相槌を打つだけでガイン殿が勝手に話をしてくれる。
聞いて良いのか怪しいところではあるが、今のコーリアス領で起きていることは把握しておきたい。
「ああ、アザマーンの伯爵の弟は、少し歳が離れていてな。何かと悪い噂の絶えない人物なんだ。もしかしたらその弟ユーダルス・アザマーンが、兄をとな……。憶測で確信はないが、疑いたくなる。兄が死んだ後に、兄の嫁を寝取ろうと夜這いをかけるような男だ」
ラーナ様も何かと苦労をしてきたんだな。
「ラーナ様は恐怖して、コーリアス伯爵様も家に帰ることを受け入れ、夜逃げするようにこちらに戻したんだ」
ラーナ様だけでなく騎士たちの間にも苦労があったのだろう。
ガイン殿の顔に疲労が見える。
「アザマーン領は獣人たちの領だからな、俺たちとは勝手が違うところがある」
アザマーン領は獣人の領主が、領地を治めている。
それは獣人王国との友好の一環として、外交官に爵位を与え自治領を認めたのだ。
では、どうして風俗街が許されているのか?
理由として、発情期と呼ばれる彼らの特殊な体質が関係していた。
ある一定の周期が来ると、男性も、女性も、性欲が強くなり、どちらも異性を求めるようになる。
いつしか獣人同士だけでなく、好色家たちが彼らの発情期にアザマーン領に訪れるようになって、観光地化して行った。
王国としては、それらの管理をするために商売として認めたので、風俗街ができて、それに伴ってアンダーグランドに生きる者たちが、獣人以外の人間も紛れ込ませるようになったというわけだ。
「なるほど。重々承知しました」
「ああ、俺の知っている情報はその程度だ。現在のダウトを治めるアザマーン側の領主は、女だ」
「女性ですか?」
「ああ、ウサギの獣人ハニーだ。常に網タイツにボディがハッキリわかる黒い服を着ているからすぐにわかるぞ」
あ〜いわゆるバニーガールだ。
前世の記憶がこんな形で役に立つとは、リアルバニーガールさんが領地を治めているということだな。
「わかりました。クルシュさんや、メイが派遣されたのも、女性であるハニーさんに近づくためかもしれませんね」
「何を見当違いなことを言っている」
「はっ?」
「クルシュとメイには許可証を出せない」
「なぜですか?」
ということは俺一人で向こう側に行かないといけないってことか? それはリスクが高すぎないだろうか?
「すでに顔が向こう側に割れているからだ」
「顔が割れている?」
「当たり前だろ。騎士団に所属しているんだ。向こうがラーナ様を狙っているなら、こちらの戦力を把握するのは当たり前だ」
水面下でバチバチなんだな。
つまり、獣人たちが支配する風俗街に、俺一人で潜入して、瘴気も含めて事件を解決して来いってことだな。
ラーナ様! ハードな仕事すぎませんか?
「重ねて承知しました。その間に二人に何かあれば許しませんよ」
「ああ、昨日のバカみたいなことは起こさせねぇ。まさか、使えないクズがあそこまでバカだったとは思わなくてな」
どうやらメイのお父さんは、第二騎士団でも使えない者として扱われているようだ。それはそれで可哀想だが、自業自得なら仕方ない。
「なら、二人の安全と、そちらの処理はお願いします」
「ああ、お前も無理はするなよ。あくまで調査だ」
どうやら根は悪い人ではないようだ。
俺の心配をさせてしまったな。
「ええ。適当に瘴気を解決したら戻ってきます」
「そちらも頼んだ」
許可証を受け取って、ガイン殿との会合を終えた。
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あとがき
どうも作者のイコです。
昨日はたくさんのブクマ、応援をありがとうございます!
無事に酒に呑まれずに帰ってきました。
ただ、私も気持ちいい回復魔法が使いたいって心底思いながら、酒を飲んでいました(´・ω・`)
今日も応援よろしくお願いします!
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