第20話

《sideメイ》


 門番として、父がいることはあり得ると思っていました。


 だけど、出来れば会わずに済めばいいと思っていたのに、ソルトさんとお話をしているのを邪魔するように現れました。


 本当に最悪です。


 しかも、ソルトさんに失礼な口を聞いて、信じられない。


 門番なら、様々な人を見るために身分のことや階級についても勉強をしなくてはいけないはずです。

 それなのに冒険者は自分より下だと判断して、勉強すらしていなかったのでしょう。


 昔から、父はそういう人でした。


 口では自分は門番として凄いと自画自賛するくせに、少しでも難しい話をすると、俺には関係ない! わからない話をするなと怒鳴りつけてきました。


「メイ、大丈夫か?」


 第二騎士団の人に案内してもらって、ホテルの馬車置き場に案内してもらっているとクルシュ様がやってきました。


「クルシュ様、申し訳ありません。私の父が問題を起こしてしまって」

「気にするな。メイが昔から家族とソリが合わなかったことは、前に聞いていたからな」

「はい。ですが、久しぶりに会った父があそこまで無礼なことをするなど、思いもしませんでした」


 家での父しか知らなかった私は、門番として仕事はちゃんとしているのだと希望を持っていました。それなのに今日の態度は最悪です。


 門番としての仕事を放棄して、私の説教を始め。


 それを止めたソルトさんに食ってかかり、相手の身分がわかっても知識がないあまりに無礼な態度を取り続けていました。


「ああ、私も話を聞いて驚いた。まさか、長年門番として働いているお父上が冒険者のことを知らないなどと誰も思っていなかったようだ」


 門番として当たり前のことすら知らなかった父のせいで、ソルト様、クルシュ様に迷惑をかけてしまって悔しくなってしまいます。


「メイ、君が気にすることではない。横柄な態度で怠慢な仕事をしていたようだが、今後はガイン殿が引き締めてくれるはずだ」


 第二騎士団のガイン隊長にも、ご迷惑をかけてしまいました。


 今はソルトさんとお酒を飲んでいるそうです。


 一番の被害を被ったソルトさんは、優しく気にするなとクルシュ様に伝えていたそうです。


「食事にしよう。ガイン殿が、ソルト殿を客として認めた以上は、ダウトの街でも無碍に扱われることはないだろう」

「はい」


 私たちはホテルに併設されている食堂に向かって食事を摂りました。

 ホテルの目の前にある酒場では第二騎士団と、ソルトさんが酒を飲んで食事をしているところです。


「気になるか?」

「……はい」

「気にするなと言うわけにはいかないが、ガイン殿は酒を飲むのが好きだからな。多分、今日は遅くなるか、帰ってこないかもしれない」

「そこまでですか?」

「多分な」


 ソルト様が心配で、私は眠ることができませんでした。


 遅い時間になって、酒場の騒ぎが静かになりました。


「少し見てくる。メイは寝ていろ」

「いえ! 私も行きます」

「わかった。ソルト殿は酔っているだろうから、危ないかもしれない。少し離れて見ていてくれ」

「わかりました」


 私たちはソルトさんが、酔ってどんな態度に出るのかわからないので、警戒してホテルの入り口でソルトさんがやってくるのを待ちます。


「キタ!」

「行ってくる!」

「はい! お気をつけて!」


 クルシュ様がソルトさんに近づいていく。


「きゃっ!」


 ソルトさん大胆です! いきなりクルシュ様に抱きつきました!


「うん?」

「そっ、ソルト殿!」

「クルシュしゃん! ただいま。帰りました! 勝ちましたよ! あなたを守りました!!」


 守った? どう言うことでしょうか?


「お帰りなさい! ふふ、ありがとうございます。さぁ部屋まで案内します」


 クルシュ様に肩を借りてソルトさんがこっちにやってくる。


「メイ、すまない。力を貸してくれ。ソルト殿が眠ってしまった」

「わかりました!」


 私はクルシュ様の反対側に回ってソルトさんを支える。

 身長が高いソルトさんの足を二人で持ち上げますが、足を引き摺るような形になってしまう。


「ひぅ?!」

「どうした?」

「そっ、ソルトさんの手が」


 小柄な私の体に腕が回ってきて、大きな手のひらが胸を鷲掴みにしています。


「もう少しで部屋だ。頑張ってくれ。ソルト殿に意識はない」

「はっはい!」


 胸を触られてしまっています!!!


 唇だけでなく、胸も触られてしまいました。


「開けるぞ」

「はい! んん」


 なっ、なんで胸を揉むんですか? 掴むだけなら我慢できるのに、絶妙な指使いで……。


「どうした?」

「いえ、大丈夫です。ソルトさんをベッドへ」

「ああ、くっ!」

「クルシュ様?」

「だっ、大丈夫だ」


 私たちは二人でソルトさんをベッドへ寝かせました。


 ソルトさんの手は私たちの胸に当てられていて……。


「クルシュ様!」

「メイもだったか、これは強引にやめさせないといけないな!」

「はい」

「ヒール!」


 私たちが腕を掴んだ瞬間、ソルトさんがヒールの魔法を発動しました。


 これはダメなやつです!


 ソルトさんのヒールは凄く気持ちいいのです! 全身がほんのりと暖かくなって、全身をマッサージされるような心地よい刺激が体を襲います。


「くっ!」

「んんんあぁんっ……ひゃっ……んくぅっ……」

「ん゛ん゛っ!」


 ヒールをかけながら、絶妙な指のタッチで胸を触ってくるので!!!


「はぁはぁ……もうダメ! ぬふ〜」

「メイ! 耐えるんだ! ああ゛っ!」

「ヒーリング!」


 また違う魔法を! そう思った瞬間に私は意識を失ってソルトさんの上に倒れていきました。


 気を失ったのです。

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