第18話 

 たどり着いた城郭都市ダウトは、隣にあるアザマーン伯爵領と東西を隔てて街ができている。


 街の半分ぐらいに門が作られて、互いに通る際には通行証を見せることで気軽に通行が許されている。


 王都近くになれば、王都から派遣された領境長なんていう役職もあって、役人としてキッチリ領境の警備と監視をしている。


 だが、辺境の伯爵領同士であれば、互いに取り決めをして、行き来する場所に街を作ることで交流しやすくしているそうだ。

 

 そうすることで、お互いの領に何かあった際に救援がしやすくなり、普段から交流を持つことで、同じ街に住んでいる者として意識付けができる。


 また領主同士で話をする際にも、共通の街として会合にも使いやすい。


「これがダウトの街か、コーリアスとはまた違った雰囲気なんだな」

「この街は、アザマーン領の特色を色濃く受けているんです」

「アザマーン領の特色?」

「はい。あちらは風俗街があって、賭博場や裏稼業の人々が集まる場所なんです」


 悪い者たちが合法的に集まれる街や領地がある。

 

 それを作ることで王国は管理がしやすくなるので、一箇所に集めてしまうのだ。

 

 俺も冒険者として風俗街の話は聞いたことがある。


 シンシアとアーシャが嫌がるので、アザマーン領に行ったことはなかったが、今後は瘴気の発生を突き止めるために、行く必要があるかもしれないな。


「あ〜、ソルトさんもやっぱり男性なんですね!! 興味があるんですか?」

「絶対に行きたいって思うほどじゃないが、まぁ俺は女性と付き合ったことがないからな。興味はあるぞ」


 実際、俺はここまでの四日間で自分の愛棒を慰めてやることもできなかったので、そろそろ限界が近い。


 幼馴染たちとの旅では、ここまで気持ちが昂ることはなかった。


 だが、側にいるのが、整った容姿をした美人なクルシュさんと、ロケットおっぱいで甘えてくる美少女メイという極上の相手に、どれだけ我慢の連続だったことか……。


「えっ! その歳で誰とも付き合ったことがないんですか?」

「コラッ! メイ、そういうことを言うもんじゃない」

「ですが、クルシュ様。男性でドウ……、いえなんでもありません」

「ドウ?」


 メイは知っているようだが、クルシュさんは首を傾げている。


「だけど、モノは考えようですね。そうですかそうですか、まだ誰ともお付き合いしたことがないんですね」


 ニヤニヤとした顔を向けてくるメイ。

 なんだか、申し訳なさそうな顔をするクルシュさん。


 冒険者は風俗街で済ませる者は多いが、俺は幼馴染たちの目を盗んでまでそういう事をしたいという想いはなかった。


 だから余計に機会に恵まれなかっただけなんだけどな。


 一人で仕事をするようになったんだから行ってもいい。

 ラーナ様の仕事が終わったら、アザマーンに行ってもみようかな。


「とにかく街に入ろう」


 俺の初物宣言なんてどうでもいい。


 今は仕事を優先しないとな。


「は〜い!」

「そうだな。手続きをして来よう」


 門番に話をつけてくれるのは、第四騎士団副団長のクルシュさんが適任なので、任せている。


 俺が冒険者証を見せれば、通行は可能だが、今はラーナ様から受けた依頼で行動しているので、わざわざ冒険者証を出すこともない。


「おい、お前! メイじゃないか?」


 一人の門番がこちらに声をかけてきた。

 小柄な男性で、どこかメイに似ている。


「……お父さん」


 こちらに家族がいると言っていたから、父親が門番をしていてもおかしくはない。


「やっぱりメイか、こんなところで何をしているのだ。仕事か?」

「はい。仕事です」


 いつも元気溌剌ゲンキハツラツで、こちらをからかってくるようなメイだが、父親の前では萎縮していた。


「お前は相変わらずだな。そんな調子で第四騎士団としての勤めを果たせているのか? 皆さんにご迷惑をかけているんじゃないか? 女ばかりの騎士団だと聞いたぞ。女に何ができる? お前たちだけで本当にラーナ様を守れているのか? やはり第二騎士団が街にいないとダメなんだ」


 メイの父親は、メイの返事など聞くことなく、ただただ自分の意見を述べている。


 しかも、次第に第四騎士団の批判になって、第二騎士団がいかに素晴らしいのか語り出した。


 クルシュさんが戻ってくる気配はなく、メイは父親に反論もしない。

 感情を殺して、無表情で聞いていた。


 その顔は俺が心配していた、心を込めずに仕事をするメイと同じ表情だった。


「失礼」

「うん? あんたは?」

「俺はラーナ様の依頼で、こちらのメイ殿と仕事を共にしている者だ」

「ラーナ様の依頼で?」

「ああ。こういう者だ」


 俺は少し横柄な態度で、身分を証明するために冒険者証を提示する。


「うん? 冒険者? そんな下賎ゲセンな奴がどうして?」


 メイの父親から返ってきた言葉に俺は首を傾げる。

 

 冒険者は身分が低い者が成る仕事だと勘違いしている田舎者は多い。


 だが、貴族の中にも冒険者登録をしている者はいる。

 何よりも、ある程度の高ランクになれば国に認められた存在として、貴族と同じ位を王様から名誉として与えられることがある。


「お父さん?! 失礼なこと言わないで! ソルト様は、凄い冒険者様なのよ!」


 メイは俺が冒険者証を見せた意味を理解しているようだ。


「お前!! 父親に向かってその態度はなんだ!?」


 怒鳴って手を上げようとするメイの父親の手首を掴んだ。


「なっ! 貴様! 何をする!」

「お前がバカだから止めたのだ」

「バカ?! 冒険者風情が!」

「ふん!」


 俺はメイの父親の腕を振り払って下がらせる。


「そこの門番!」


 俺は近くにいた少し身分が高そうな門番を呼びつける。


「うん? なんだ?」

「これの意味はわかるか?」


 俺は冒険者証を提示する。


「なっ!!! Aランクの冒険者様!!! もっ申し訳ありません!!!」


 どうやら意味がわかるやつだったようだ。


「このバカが、俺を下賎の者と呼んだのだ。どういう教育をしている?」

「申し訳ありません!」


 状況を理解したようで、メイの父親の頭を掴んで、地面に叩きつけるように頭を下げさせる。


「なっ!」


 何が起きているのかわからないメイの父親は、上司らしき男の事を不思議そうな顔で見ていた。


「バカ、頭を上げるな。Aランク冒険者の称号は国から認められた証だ。位で言えば男爵様と同等だ。それに二つ名も授けられておられる。それは功績が認められていることを意味するのだ。Aランクの中でも子爵様と同等の権限が与えられている!」


 自分の権力を見せびらかしているようで、あまりいい気分ではない。


 だが、知識とはもっていない方が悪い。


 しかも、Aランクは所属している国が実力を認めなければ成ることができない。


 貴族同等の権力が与えられる代わりに、国に有事が起これば協力する義務を約束する。実際に、今の俺は瘴気の調査をしていることは国のためでもある。


「子爵様!?!! もっ、申し訳ありません。そのような方とは知らずに無礼をいたしました」


 こんなことは本当はしたくないが、話を聞かない相手なら、わかりやすく力を見せた方が早い。


 メイの父親は泥にまみれて頭を下げ続けていた。


 俺はメイを見ると、メイは嫌悪感を含んだ顔で、父親を見ていた。

 

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