第16話
ラーナ様から正式に第四騎士団の助っ人として、契約を結んだ証にクルシュさんとメイを助手として預かることになった。
二人との冒険をするにあたって、まずは領境を目指す予定だが、その前に連携の確認をしておきたかった。
そこで俺たちはいくつかコーリアス城郭都市近くでクエストを受けて一緒に仕事をすることにした。
それを行ったことでわかったことは、二人の戦闘スタイルと性格だ。
クルシュさんの戦闘スタイルは、バックラーなどの片手で持てる盾を使って、守備を主体とした防衛剣術で敵を倒すというよりも仲間を守るスタイルだった。
性格は口調から男勝りで大雑把に見えるが、気配りができて優しい女性であることが伝わってくる。
スラム街の出身だと言っていたが、生きていくために多くの知識を必要としてきたのだろう。
野宿などのサバイバル術も独自の方法と、騎士団として習った二通りの方法を臨機応変に使い分けることで対応していた。
器用で気配りが出来て、優しく、その心は騎士道精神を大切にしていて、弱者を守る心を持つ人だった。
メイの戦闘スタイルは、その小柄な体格を活かした素早い動きと、身を隠して騙し討ちなどを行う短剣術だった。スピード重視の暗殺スタイルだ。
それに風の魔法を加えることで、牽制や目眩しなどを行って相手を撹乱させる。
性格は、意外にも気遣いがあまり得意ではなく、無頓着なところがあり、クルシュさんに度々フォローされている姿を見かける。
ドジというわけではなく、なんでもそつなく行うのだが、何をやっても楽しそうではない。
技術はあるが、義務というか、機械のように正確さだけで、楽しんだり、困ったり、メイ自身がどんな感情で取り組んでいるのか伝わってこない。
「メイ、少しいいか?」
「どうしたんですか? ソルトさん!」
クルシュさんが第四騎士団に仕事の報告に行っている間に、俺はメイと馬車の近くで二人になったので、少し話をしてみることにした。
俺が呼ぶと嬉しそうに駆け寄ってくる。
その度に小柄ながら身長とは裏腹に成長したロケットおっぱいが、ぷるんぷるんと上下に弾むので、見ないように目頭を押さえてしまう。
「あっいや、メイはなんでも出来るから偉いなって思ってな」
俺はメイの行動に感情が含まれていない原因を聞こうと思って問いかけることよりも、まずはメイを褒めてみることにした。
アーシャの時に思ったのだが、人間は褒められると嬉しくなって口が軽くなる。
気持ちよく話してくれたらいいが、言いたくないことなら無理に聞く必要はない。
「むむむ! ソルトさんは私を褒めたいのですか?」
「あっ、ああ。料理も、短剣の使い方も、情報収集、御者もやってくれていつも助かってるよ。メイはなんでも出来て凄いな」
「ぬふ〜!!!」
メイが変な息の吐き方をする。
この態度は褒められるのが好きなタイプなのか? 物凄く嬉しそうな顔をしている。
「しっ、仕方ないですね。そこまで褒めるなら私の頭を撫でる権利をあげます」
「えっ? 頭を撫でる権利?」
「そうです! 女子の頭は軽はずみに触ってはいけないんですよ! もしも、ソルトさんがそんなことを簡単にしていたら、嫌われますからね」
「うっ!!!」
アーシャはなんだか妹って感じがして、結構な頻度で頭を撫でていた。
それにシンシアにも回復魔法をかけながら、頭を撫でたことがあるぞ。
もしかして、二人とも嫌だったのかな?
「ふふふ、どうしたんですか? ほらほら、私の髪に触れられる権利は今しかありませんよ」
「あっ、ああ。ありがとう」
言われるがままに俺は手を伸ばしてメイの頭を撫でてやる。
栗色の髪にボブカットの綺麗に整えられている髪は、フワフワとした気持ちの良い髪質をしていた。
「ふふ、ソルトさんに頭を撫でられてしまいました〜」
なんだか物凄く嬉しそうな顔をされているので、余計に聞きにくくなってしまった。まぁ、いいか。
メイのメンタルが不安定なら心配だったけど、今の調子なら大丈夫だろう。
「うん? 二人とも何をしているんだ?」
「あっ、いやこれは?!」
「クルシュ様〜、ソルトさんが頑張っている私を褒めてくれたんです」
「何? それはいいな。ソルト殿! 褒めるのはメイだけか? わっ、私は頑張っていないだろうか?」
チラチラと頭を撫でる手元を見るのはやめてほしい。
メイは可愛い系なので、撫でるのもアーシャみたいに妹感覚でできるが、クルシュさんは美人なので、こちらが気後れしてしまう。
「ほらほら、ソルトさん。クルシュ様が待ってますよ」
戸惑う俺にメイが小声で後押ししてくる。
くっ?! メイは純粋に見えて意外にイタズラが好きだ。
助手を始めてから遠慮というか、距離感が急激に近くなりすぎていると思う。
「ああ、そうだな。クルシュさん、いつもありがとう。クルシュさんが守ってくれているから安心して詠唱が出来ているよ。それに気配り上手で、きっと良いお嫁さんになるだろうな」
俺は褒めながら、クルシュさんの髪に手を伸ばした。
「おっ、お嫁さん!!!」
頭を撫でようとした瞬間にクルシュさんが大きな声をあげて、飛び退いてしまう。
「わっ、私のようなガサツな騎士に、お嫁さんが務まるはずがないだろ?! なななな何を言っているんだ。ソルト殿は?!」
顔を真っ赤にしたクルシュさんが走り去っていった。
宙ぶらりんになった俺の手はクルシュさんの頭を撫でそびれて、行き場を失ってしまう。
そこにメイが収まった。
「ふふ、クルシュ様は恥ずかしくて逃げちゃいましたね」
「そっ、そうか……?」
「ソルト様って結構鈍感なんですね」
「えっ? 鈍感?」
「なんでもありません。クルシュ様の分まで私の頭を撫でていいですよ」
「あっ、ああ」
何故かその後もメイの頭を撫でさせられて、メイは満足そうな顔をしていた。
「ぬふ〜」
俺は逃げ去ったクルシュさんが気になったが、まぁ怒っているわけではないと思うので、大丈夫だろう。
「あっ、それで前に言われていた領境の瘴気に向かわれるんですか?」
「ああ、二人のことがわかったからな。そろそろ準備をして向かおうと思っているよ」
「やっぱり行くんですね」
「うん? メイは乗り気じゃないか?」
「いえ、向こうには家族が住んでいるんです。父は第二騎士団所属なので」
家族の話をしている時のメイは、嬉しそうな顔をするのではなく、無表情になっていた。
あまり家族と仲が良くないのかもしれないな。
「まぁ、瘴気を浄化しに行くだけだ。難しく考えないでいこう」
「あっ、もうワシャワシャしちゃダメです! 女の子の扱いが雑ですよ!」
「はは、悪い悪い。ちょっと妹を思い出してな。メイの髪は妹の髪よりも綺麗でフワフワだったから、ついな」
「もう、仕方ないですね。妹さんよりも綺麗な髪をしていると言ってくれたから許してあげます」
髪の毛を整えるメイの仕草に、ガシガシだったアーシャの髪を思い出す。
自分で手入れもできなかったアーシャは大丈夫だろうか? 髪に櫛をいれてやることもあって、なかなか絡まって取れなかった。
だけど、メイの髪は指からサラサラと落ちていくほどに柔らかくて綺麗だった。
こんなにも女性で違うのかと笑ってしまう。
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