第14話

 ディナーを終えた俺たちは場所を応接間に移動して、食後のティータイムをすることになった。どうやらこちらが本命で、ラーナ様は俺に何か話をしたかったようだ。


「ラーナ様、夕食をご馳走様でした」

「いえいえ、此度も活躍されたとクルシュから連絡を受けました。そこで改めて、ワイトキング、ドラゴンゾンビの討伐を成し遂げていただいたお礼をしなくてはいけないと思ったのです。こちらこそ領地の安全を守っていただき、ありがとうございます」


 ラーナ様が深々と頭を下げれば、着替えてきた豊満な谷間が最大限に強調されてしまう。俺は見ないように目を閉じてラーナ様が顔を上げた頃合いを見計らって目を開く。


 応接間は食堂とは違って、少しラフな雰囲気ではあるからこそ油断してはいけない。ゆったりとした時間の中で気を抜くとだらしなく視線を向けてしまう。


 食事の部屋には騎士が四方に配置されているから自分を戒める事ができた。

 だが、応接間には、ラーナ様とフレイナ様、それに俺だけだ。


 食堂よりも狭い部屋だからなのか、警備が少なく、警戒心が薄れたように感じられる。


「何度もお礼を言われているので、大丈夫ですよ。それに俺は冒険者として当たり前の仕事をしただけですから」


 正面に座っていることで、ラーナ様の全身を見て話をする。

 特別に視線を逸らすつもりはないが、話をしている間は、なるべく胸ではなく顔か瞳に視線が合うように意識した。


「ソルト様のことが少しわかってきた気がいたします。とても謙虚で真面目なのですね」

「自分ではあまり自覚はありませんが、そうなんですかね?? 幼馴染の妹たちには鈍感だと良く言われましたよ」


 アーシャやシンシアからは女心がわからないからダメなんだとよく叱られた。


「どちらかと言えば俺は不真面目なところがたくさんありますよ」

「そうなのですか? ふふ、そういう一面も見せていただきたいものです」


 ニコニコとしていたラーナ様が真剣な顔になられたので、少しだけ姿勢を正した。


「ソルト様」

「はい!」

「お願いしたいことがあります」

「なんでしょうか?」

「第四騎士団の専属というのは、ソルト様の自由を奪うことになるとクルシュやフレイナに指摘されました。ですが、コーリアスは現在瘴気の危機に晒されています」


 そこまで深く考えた訳ではないが、どうにも怪しいとは思ってしまった。

 無料より怖い物はないと思う。

 よくして置いて、後から請求されることになっては困るので、一定の線引きはしておきたい。


「はい。それはドラゴンゾンビなどでも理解しています」

「そこで、騎士団には、コーリアス領をもっと好きになってもらってから、改めてお誘いしたいと思います。すぐに返事をもらえなかったのはそういうことだと理解しましたので!」


 まぁ間違ってはいないかな。

 コーリアス領は嫌いではないが、田舎なので永住したいとかと言われれば、ノーだ。


「ですから、助っ人というのはいかがでしょうか?」

「助っ人ですか?」

「はい。客人として、我が第四騎士団にご協力をお願いしたいのです。もちろん、今の冒険者としての仕事を行ってもらっていて構いません。ですが、たまにこちらのお仕事の手伝いをお願いしたいのです」


 まぁ、それぐらいなら問題はないだろう。

 ホテルを数日間使わせてもらっただけでも報酬としては十分なほどに恩を感じられた。


「わかりました。それなら問題はありません」

「本当ですか?! よかった〜!」


 嬉しそうに両手を組むと、大きな胸が持ち上げられて谷間が強調されてしまう。

 正面から見ているせいで破壊力がヤバい。


「それでは騎士団からクルシュとメイをソルト様の助手として派遣させていただきます」

「えっ?! 助手ですか?」

「はい。此度の一件で、クルシュは随分とソルト様にお世話になったと言っていました」

「いや、お世話なんてしてませんよ。むしろ、こちらの方がクルシュさんに助けて頂いたぐらいです」

「ふふ、クルシュは生い立ちが大変だったので、なかなか心を開かないのです。そんなクルシュが、ソルト様に出会って自信を持つ子になりました。ありがとうございます」


 ラーナ様はクルシュさんの事を本当に大切にしているんだ。

 その気持ちを軽く見ることはできないな。


「クルシュは、ソルト様に出会ってから、どんどん成長しているように思います。今後もソルト様の元で彼女に自信をつけさせてあげてください」


 クルシュさんが元々持っていた潜在能力の高さだと思うが、少しでも俺の言葉が役に立ったなら嬉しいな。


「わかりました。クルシュさん、メイには助けられています。それに二人がいてくれることで、俺もコーリアスのことが知れるのでありがたいです」

「よかった! それでは決まりですね。今後もコーリアス領をどうかよろしくお願い致します」

「こちらこそ、色々と良くしていただきありがとうございます」


 簡単な口約束ではあるが、これはちゃんとした契約として、俺は認識することにした。

 

 応接間を出て、フレイナ様が外まで案内をしてくれる。


 部屋の外に立っていた二人の護衛にラーナ様を任せて、フレイナ様と廊下を歩く。


「色々と面倒なことを押し付けてしまった、すまない」

「いえ、俺も元々こちらで瘴気が発生していると聞いて、仕事を求めてきたので、領主代行であるラーナ様のお墨付きがもらえたのはありがたいです」

「そう言ってもらえるとありがたい。どうにも、騎士団はコーリアス領内に入り込んだ間者の特定で、手を取られてしまって、二人しか貸し出せないことを許してほしい」

「間者ですか?」


 スパイということはわかるが、そんな事を俺に話してもいいのだろうか?


「ああ、この瘴気が発生しやすくなった原因でもあるんじゃないかと私は思っているんだ」


 なるほど、どこかで瘴気に汚染された魔石をコーリアス領に持ち込んで、ドラゴンの骨と共に置いておくことで、ドラゴンゾンビを発生させた人物がどうやらいそうだな。


「わかりました。そちらの方も関係がないか、こちらでも調べてみます」

「それは助かるが、無理はしないでほしい。それは我々の仕事だからね」

「ええ、ほどほどにしておきます」


 フレイナ様と笑顔で握手をして、俺は領主の館を後にした。


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