第11話

 瘴気が溢れる場所に辿り着くと、オークゾンビが蔓延っていて、全てを一人で相手にするには骨が折れる。


 ただ、クルシュさんが無属性だとわかったことは吉報だ。


 無属性なら、聖属性ほどではないが、死属性のゾンビ系を相手にしても対処ができる。風属性のメイも倒すことはできなくても時間を稼ぎ、クルシュさんの援護ができるから、問題はないだろう。


「二人とも露払いを頼む」

「任されよう」

「はいです」


 二人の戦いを見ていると、どうやら安心して任せられるようだ。


 クルシュさんは自信に満ち溢れているな。


 剣に迷いが消えて、オークゾンビを切り伏せる魔力も充実している。

 初めてあった時のような不安や焦りは感じられない。


「良い腕だ」


 俺は露払いを二人に任せて、先へと進む。


 その先には朽ちかけたドラゴンゾンビが起き上がって血肉を垂れ流している。

 瘴気によって死属性がドラゴンに宿ったのだろうな。


「安らかに寝ているあなたを叩き起こしたことは詫びよう。だが、今のあなたはただの骨でしかない。安らかに眠る手助けをさせてもらう」


 瘴気が濃くて、息をすることも苦しい。

 聖属性である俺ですら立っているのがやっとだ。


「聖魔法上位滅却魔法キリエエレイソン」


 闇の眷属、邪なる者の存在を浄化し、消し去る魔法だ。


「GYAAAAAAAA!!!!!」


 俺が詠唱を始めると、危険を察したのか咆哮を放ちながらドラゴンゾンビの瞳が怪しく光を放つ。発動前に動かれるとは思っていなかった。


 だが、俺は動くことができない。


 ここで詠唱を止めてしまえば、ドラゴンゾンビを滅ぼすことはできない。


 この呪文は、俺の魔力のほとんどを消費しなければ、ドラゴンゾンビほどの巨大な瘴気を消滅させることはできない。


「ソルト殿! あなたは私が守るから続けられよ!」


 起き上がったドラゴンゾンビの前に、俺を守ろうとしてクルシュさんが立ちはだかった。


「後ろは任せてくださいです!」


 振り返ってみれば、メイが迫るオークゾンビを風の力で寄せ付けないように壁を作ってくれている。倒せはしないが足止めをする賢いやり方だ。


「さぁ、ドラゴンゾンビよ! 貴様の相手は私だ! 騎士として、私はソルト殿を絶対に守る!」


 これほどまでに頼もしい騎士はいないな。


 アーシェは自由奔放に剣を振るタイプだった。


 だけど、クルシュさんは女性とは思えない大きな背中で俺を守り、敵との間に立ちはだかっている。

 

 なんと心強いのだろう。


「GYAAAAAAAA!!!」


 ドラゴンゾンビが立ち上がって苦しみから逃れるために、その爪を振るう。


「言っただろ?! ソルト殿は私が守ると。やらせはしない!」


 全身に無属性の魔力を纏ったクルシュさんが、ドラゴンゾンビの攻撃を受け流す。


 その光景はドラゴンと戦う英雄のようだ。


「ぐっ?!」


 それでもドラゴンゾンビの方が強い。

 無属性は魔物を倒すことができても、浄化ができるわけじゃない。


「ッッッ!!!」


 ドラゴンゾンビの爪がクルシュさんの服を裂き血が飛ぶ。

 もっと早く詠唱を終えたい。


 だが、あと20秒、15秒、10秒……


「ぐっ! 負けない!」


 立ち上がったクルシュさんがドラゴンゾンビの牙を剣で受け止める。


「キリエエレイソン!!!!」


 膨大な青白い光が迸り、ドラゴンゾンビを包み込んでいく。


 全ての瘴気を滅却して浄化していく。


 聖属性の上位魔法の光が消える頃には、迫ってきていたオークゾンビたちも全てが浄化されて、息苦しかった空気も改善されていた。


「ソルト殿!」

「クルシュさん、ありがとうございます! あなたのおかげぇえええええええ!!!!」


 こちらを振り返って走ってくるクルシュさんは、服がドラゴンゾンビに破かれて! クルシュさんの着痩せして隠れていた巨乳が揺れている。


 おっぱい……? おっぱいか……?


 いや、ブラジャーはかろうじて残っている!


 大丈夫だ! 全てが見えているわけじゃない。

 

 騎士団にいるのに、どうして白い肌を維持できているんだ?!

 いや! 俺は何を考えているんだ。


「ソルトさん。凄いです!」

「なっ!?」

 

 クルシュさんに気を取られていると、背後からメイが抱きついてきた。


 そのロケットおっぱいが、俺の背中に!!!

 

 ちょっと距離感が近すぎないか? 魔物を討伐できて嬉しいのはわかるが!!!


「ソルト殿! やりましたね!」


 嬉しそうに俺の手を握って見上げてくるのはやめてくれ!

 顔を見下ろした先に谷間が……。


「クルシュさん! 怪我を?!」

「えっ?」

「ああ、こんなものカスリ傷だぞ!」

「ダメです。ちゃんと浄化しないと。メイもこっちにきてくれ。死属性の魔物と戦ったあとは瘴気が残って体を蝕む恐れがあるんだ。二人に聖魔法をかけるから」

「わかりましたです!」


 そう言って正面に回ったメイも元々が軽装だった服が、風の魔法とオークゾンビの死闘で破れて、足やお腹がさらけ出されていた。


 くっ! ロケットおっぱいにばかり意識が向いていたが、小柄で可愛らしいメイの下着が晒されていた。


「ヒール!」


 俺が回復魔法を唱えると聖属性の青白い光が彼女たちを浄化する。


「あぁんっ……ひゃっ……んくぅっ……」

「ん゛ん゛っ!」


 くっ、目を開けるととんでもない光景が広がっていそうな艶かしい声が……。


 アーシャやシンシアの時もそうだった。

 回復魔法をかけているときは、気持ちが良いのか、変な声を出してくる。


「はぁはぁ……すごく、気持ちいっ!」

「ああ゛っ!」


 前回、メイに回復魔法をかけた時は、気を失っていたから忘れていたな。

 俺は目を開けないように我慢して修復が完了するのを待った。


「ハァハァハァ、うん? ソルト殿はどうして目を閉じているのだ?」

「ふぅふぅふぅ、クルシュ様。それは殿方として、クルシュ様の柔肌を見ないようにしているのですよ?」

「柔肌? はっぅうう!!!」


 メイが指摘したことで、クルシュさんはやっと自分の胸元が曝け出されていることに気づいてくれたようだ。


 俺は冒険者として装備していたローブを脱いで、クルシュさんに投げた。

 回復魔法を施すには、傷が見えているので回復魔法をかけてからになってしまったが、メイにもタオルを投げ渡した。


「えっ? 私?」

「メイもズボンが破けているだろ。腰に巻いてくれ」

「ふふ、ソルトさんは私のことも女として見てくれていたんですね!」


 なぜそこで嬉しそうなんだ。

 とにかく二人のアラレもない姿を一瞬でも拝んでしまったことに罪悪感を持ちながらも、気を取りなおす。


「馬車に着替えがあったはずだ」

「そうですね。ソルトさん、馬車に行ってきます」

「ああ、わかった」


 二人は離れた場所に止めていた馬車に着替えをするために戻ったので、俺はドラゴンゾンビが消滅した場所に向かう。


 そこにはドラゴンの骨と、黒い魔石が放置されていた。


「この魔石はなんだ?」


 禍々しい魔石に俺は聖魔法を放った。


 黒かった魔石は青白くなって、綺麗な輝きを放つ魔石に戻っていく。


「もしかして、これがドラゴンの魔石だったのか?」


 瘴気によって黒く染まっていたのだとしたら、誰がそんなことを? 


 自然の瘴気によって汚染されたなら魔石を、誰かがこの場所に持ってきたのか?


「ソルトさん! 着替えが終わりました!」

「ソルト殿! 調査を任せてすまない」


 俺は疑問を抱えたまま魔石を二人に見せて、軽く調査をして依頼を終えた。


 痕跡らしき物は何もなかったが、どうしても黒く染まった魔石が気になってしまう。


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