第8話

 依頼内容を聞くと、ドラゴンゾンビの討伐だった。


 なんでも、近くの山にドラゴンの遺体が放置されていたのが原因だという。

 

 瘴気が多くなっているコーリアス領で、ドラゴンの遺体を放置すれば、ドラゴンゾンビとして目を覚ますのは当たり前の話だ。


 瘴気に汚染されることで、魔物として目覚めてしまう。


 そんなことをしたのか知らないが、瘴気はドラゴンゾンビの出現でさらに強くなってしまう。


「わかった。それなら俺の得意な案件だな。クルシュさん、メイ。ちょっと仕事をしてくるから」

「何を言っているのだ? 私たちも協力すると言ったではないか」

「えっ?」

「そうですよ!? 瘴気が出ているなら、他にも魔物が集まっていると思います。露払いは任せてください」

「いや、君たちは第四騎士団所属だろ? 勝手に付き合わせるわけにはいかないだろ?」


 実際、俺一人では危険な任務だ。


 だが、元々シーフとしての仕事をしていたので、俺ならなんとかやれないことはない。


 今まで共に戦ってくれた二人がいないが、自分の得意な案件だから受けられる。

 

「コーリアスの街を守るのが第四騎士団の名誉なんだ!」


 クルシュが真剣な目で俺を見る。

 

「第一騎士団は、王都で領主様の護衛を。第二騎士団は、領境の警備を。第三騎士団は、隣国との国境警備を。そして、この城郭都市コーリアスを守るのが我々第四騎士団の仕事だ。コーリアス近郊で起きている事件なら、解決するために動くのは当たり前だろ?」


 クルシュの言葉にメイが、うんうんと頷いている。


「あの、ソルト様。第四騎士団は、確かに女性ばかりですが、その実力は確かです。それは冒険者ギルドが保証します」


 なぜか、冒険者ギルドの受付まで後押ししてくるので、断ることが難しくなる。


「ハァー、わかった。協力してもらえるだろうか?」

「喜んで!」

「任せてください」


 俺は二人の装備に目を向ける。 

 あの護衛の時よりも二人の服装は軽装だった。

 俺としてはすぐに向かいたい。


「装備は軽装のようだが、そのままで行くのか?」

「ああ、私は剣士。メイはシーフだからな。元々装備は軽装なのだ」

「はい! あれは護衛任務で盾になることも想定していました!」


 騎士としての覚悟の装備だったというわけか。

 なら、本来の装備は今の彼女たちが正しいってことだな。


「そうか、俺も聖属性のシーフだから、このままで大丈夫だ。えっと」


 俺は冒険者ギルドの受付さんを見た。


「あっ! 私はトワといいます」

「トワさん。ドラゴンゾンビの依頼を受ける。受理を頼む。それと居場所を教えてくれるか?」


 俺が受付のトワさんに問いかけると、メイが手を挙げる。


「それは私が案内するのです!」

「メイが?」

「はい。実は、第四騎士団にも近くの村からどうにかしてほしいと依頼が来ていたのです」

「騎士団に? なら、冒険者ギルドで受けるのは悪いんじゃないか?」

「いいや、残念ながら、コーリアス領は強力な聖属性を使える騎士がほとんどいない。炎、氷、光などの他の属性で対処はしていたが、瘴気を完全に浄化することは難しくてな。いないことはないのだが、他の騎士団で彼らも各地で瘴気に対処しているから呼び戻すわけにも行かない」


 なるほど、第四騎士団としても聖属性を使える者がいないから困っているということか、なら冒険者として助っ人をするというのはありだな。


 いきなり第四騎士団専属と言われても、怪しさを感じていたが、内部の事情がわかれば、相手の求めていることが見えてくる。


 つまり、ラーナ様は、ワイトキングを倒せる俺の聖属性の力を知って、今回の瘴気事件を解決させたいと思っていたわけだ。


 それなら俺を第四騎士団の専属回復術師に採用してくれようとしていたことにも納得できるな。


「とにかく俺も対応できるのか行ってみないとわからない。二人ともよろしく頼む」

「おう! 任せてくれ」

「はいなのです」


 俺は二人の騎士を連れて冒険者ギルドを後にした。


 ♢


《sideトワ》


 私の元に一通の手紙が届きました。


 手紙の内容はAランク冒険者である《聖光のソルト》さんが、コーリアスに向かったという内容に飛び上がるほどの歓喜したのです。


 手紙の主は、王都に住んでいるミリア姉さんからのでした。

 コーリアス伯爵領は、辺境で瘴気が多いため魔物が発生しやすい場所です。

 

 瘴気が魔物を生み出し、さらに強化してしまうので、瘴気が悪しき物であることはわかっていても、その対処が難しいのです。


 だからといって、冒険者がたくさん辺境に来て助けてくれるとかと言えば、そうではありません。


 高ランク冒険者ほど、大きな仕事を受けてはくれますが、仕事が終わると王都に戻ってしまうのです。


 やはり人が集まる王都の方が、何かと娯楽が多く、情報も集まりやすいためでしょう。何よりも冒険者としての活躍や名誉が集まる場所です。


 名声を求める冒険者にとっては、辺境の田舎領など相手にしてられないということです。


 高ランク冒険者の方々が、コーリアス領に来てくれた際には、大切にしたいと思っています。

 ホテルのサービスが格安で充実しているのも、冒険者ギルドから多少の援助をしているからです。


 そんな、冒険者ギルドとしても頭を悩まさせられていた近年。

 

 王都に住む姉は、故郷であるコーリアス領を気にかけてくれていました。

 そんなミリア姉さんから届いた手紙に、私は涙を流してしまいました。


 今、もっともコーリアス領に必要な人材が来てくれるのです。


 第四騎士団の騎士たちと共に、冒険者ギルドを出ていくソルトさんの後ろ姿に、私は歓喜してしまいます。


 誰かを信じるってことはとても難しいことだと思います。

 期待しては裏切られて、裏切られては、また別の誰かを信じようとする。


 だけど、冒険者は信じていても命のやり取りがある難しい仕事です。

 無理をさせすぎてしまうと戻ってこれないこともあります。


 魔物がいて、戦争が起こり、人の命がどうしても軽くなってしまう世の中で、自分の理想とする人物を見つけ、信頼して、その人が側にいてくれることが、どれだけありがたいことなのか……。


 《聖光のソルト》さんは、冒険者の中でも珍しいほどに紳士的で、しかもずっと二人の女性冒険者さんを大事に守っておられました。


 どちらか二人の付き合っているのではないかと、冒険者ギルドの受付たちの間では話題になったほどです。


 それほどに受付嬢の中でも人気があって、何度かコーリアス領へ依頼で来てくれた時には、嫌な気分になってもらいたくないと思って、ギルドマスターと細心の注意を払っていました。


 ソルトさんは、他の冒険者とは違って、穏やかで、落ち着いた人物です。


 第四騎士団の方々がソルトさんを勧誘したいとやって来た時は戸惑いました。

 ですが、それも仕方ないことだと思えたのです。


 勧誘したあとは、第四騎士団専属になって、騎士団の中から女性を恋人に選んでもらってもいいと言います。


 それってズルくないですか? 私たち冒険者ギルドの受付だって、ソルトさんを……。


 とっ、とにかく冒険者ギルドとして、ソルトさんに依頼を引き受けてもらうことができたのは喜ばしいことです。


 やっぱり期待せずにはいられません。


 瘴気が溢れるコーリアス領を救ってくれるのは、ソルトさんではないでしょうか? そう思えてならないのです。


 もっ、もしもソルトさんが私を望んでくれるなら、全てを捧げてもいいのに……。


 なんちゃって、そんなことをしたらミリア姉さんに怒られちゃいますね。

 

 ソルトさんは、ミリア姉さんのお気に入りだから。

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