第2話
城郭都市コーリアスに到着して馬車を降りる。
馬車の扉が開かれて、視線を上げれば左右に女騎士が列を作っていた。
「えっ?」
先に降りたクルシュが声を挙げる。
「皆の者、ご苦労であった。此度は護衛だけだと油断してしまった。私の判断ミスであった。本当に申し訳ない。この命で償うべきだったが、こちらにいる冒険者ソルト殿によって救われた。隊員の命を救ってくださり、そして私の命を救っていただき本当にありがとうございます」
馬車を降りると正式なお礼と、何故か俺の紹介をされる。
列を作っていた女騎士たちも全員が俺を見て敬礼をする。
「「「ありがとうございます! ソルト様!!! 仲間の命を救っていただき感謝します!!!」」」
俺はただただ圧倒されるばかりだ。
女騎士ばかりということもあるが、全員からこのような感謝で迎えられると思っていなかったからだ。
「人助けはするものだな。命が助かって良かったよ」
なんと答えれば良いのか迷って、そんな他愛のない言葉を発してしまう。
苦笑いを浮かべていると、列の中央を歩いてくる金髪の美女がいた。
胸元はドレスを着ていて、大きく開かれた爆乳が惜しげもなく披露されている。
「冒険者ソルト様。此度は私を含め、隊員の命を救っていただきありがとうございます。領主の妹で、家令を務めております。ラーナ・コーリアスです」
柔かな物腰に、花のような良い匂いがする。年下の美人にそっと手を握られて、ドキッとしない男はいないだろ?
瞬時に聖属性魔法で自分の手に浄化をかけた。
戦闘を行って洗ってもいないので、俺にできる対処はそれが限界だった。
「いえ、旅は道連れ世は情け、成り行きでしたから」
極力、失礼なことをしてはいけないと思って、俺は視線を下げないようする。
じっと、ラーナ様の瞳を見つめ続けた。
チャームの呪いにかかったように、美しい瞳に吸い寄せられそうになるが、決して微動だにしない。
「とても謙虚で誠実な方なのですね」
「いえ、そんなことはありません。ただ、見捨てれば、寝覚めが悪いと思っただけです。結局は自分のために行ったことですから」
本当にその通りだ。
新たな門出に、人が死ぬのを見たくないと思ったに過ぎない。
「ますます、ご立派です」
褒めてくれるラーナ様は何故か手を離してくれない。
どうしたら良いのかわからなくて、戸惑っていると高身長の女騎士がラーナ様の後ろに現れた。
「私からもお礼を伝えてもよろしいですか?」
「そうね。フレイナ団長」
真っ赤な髪に切長の瞳。男である俺と目線が変わらないクールビューティーが、ラーナ様に声をかけてくれたことで、手を離してもらえた。
「改めて、第四騎士団団長を務めているフレイナ・アルバンと申す。団員の命を救っていただき感謝する。ソルト殿」
「はっ! はい!」
女性にいうことではないと思うが、イケメンでカッコ良い女性にドキドキしてしまう。
「さぁ、色々と疲れていることだろう。貴殿が泊まるためにホテルを用意させてもらった。今日はそこで休んでほしい。今後の話は明日にでも」
「今後?」
何が待っているのかわからないが、とにかくコーリアスの城郭都市に着いて宿を探さなくても良いのは嬉しい。
コーリアス伯爵領は魔物の出没頻度が多い。
瘴気が発生していることで、その頻度は増しているので、冒険者の数も増えていることだろう。
さらに他国との国境沿いでもあるので、争いが多い地域だ。
だからこそ、戦闘を生業にしている者たちが集まって金回りが良い。
逆に言えば、ホテルの価格も高くなって、泊まれる部屋も限られてしまう。
「わかりました。何から何までありがとうございます」
「ああ、それではな。案内はメイ! 頼めるか?」
「はいです!」
フレイナ団長に指名されたのは、栗色の髪色をした小柄な団員だった。
「君は!」
「助けていただきありがとうございます! ソルト様にいただいた命です!
馬車で倒れていた彼女が元気な顔を見せてくれたのは嬉しい。
ただ、特徴的なのは、小柄ながらロケットのような張りの良い巨乳だった。
一瞬だけ、目を落としそうになるが、必死で視線を彼女の顔へと向けた。
「ソルトだ。よろしく頼む」
「メイと申します。案内をさせていただきます」
「よろしく頼む」
俺がメイと挨拶をしている間に、ラーナ様、フレイナ団長が団員に声をかけて撤収していく。
最後に銀髪美女こと、第四騎士団副団長のクリシュが俺に近づいてきた。
「ソルト殿、貴殿には本当に助けられた。騎士として、恩に報いる所存だ。忘れないでほしい」
真剣な瞳で告げられたので、下手なことを言ってはいけないと判断して、俺は首を縦に振った。
「ああ、忘れないでおこう」
「ありがとう!」
俺が同意を示すと、キラキラとした瞳で嬉しそうに笑顔を向けてくる。
まるで子犬が尻尾を振っているようだと笑ってしまいそうになる。
「それでは明日」
そう言って立ち去っていくクリシュを見送ると、メイからも強い眼差しで見つめられた
「どうかしたのか?」
「ソルト様は凄いですね!」
「えっ? 俺が何かしたのか?」
「いえ、クリシュ様がお認めになっていることが凄いのです」
「認めている?」
「そうです! クリシュ様は誰に対しても厳しく決して、男性に笑顔を向けたりする方ではありません。軽はずみに男性が近づけば剣を抜いて突きつけるほどでした」
そんなイメージはなかったが、どうやら戦闘時に出会えたのは幸福だったのか?
クリシュのイメージは、話をしなければ近寄り難い美人程度だったが、話してみると人懐っこい犬のようなので、可愛いと思うのだが……。
「メイ殿はクリシュ副団長が好きなんだな」
「はい! ラーナ様は美しく! フレイナ様は凛々しく! クリシュ様は気高く! お三方ともとても尊敬しております」
メイから伝わる熱気に苦笑いを浮かべてしまう。
「そうか。メイ殿もそうなれるといいな」
「はい! ソルト様はとても良い方ですね。どうぞ、私のことはメイと呼び捨てにお願いします!」
「わかったよ、メイ。俺のこともソルトと気軽に呼んでくれ」
シンシアやアーシャのような妹たちと話している気分になって、メイといると和んでしまう。
「いえいえ、お三方が恩を感じられる特別な方です。どうぞ、ソルト様と呼ばせてください」
「はは、俺も堅苦しいのが苦手なんだ。頼むよ」
「では、ソルトさんではいかがですか?」
「ああ、それなら」
メイのことがわかって、少しだけ打ち解けた気がする。
だが、見た目通りと言えばいいのか、元気な態度と人懐っこい仕草は、一つ一つの動作が大きくてアーシャを思い出す。
「それではホテルにご案内しますね」
「ああ、頼む」
案内されたのは、コーリアスでも一番のホテルだった。
貴族様が泊まるような、ちゃんとしたホテルで、俺の方が緊張してしまう。
俺のような者が泊まっても良いのかと思うほどだったが、さすがは一流ホテルマンたちは顔色一つ変えることなく出迎えてくれた。
部屋までたどり着いたところで、メイに告げられる。
「それでは明日のお昼頃に迎えに参りますね。朝に街を出歩いても良いですが、お昼頃には戻っていただけると嬉しいです」
「あっ、ああ、わかった」
改めて呼び出されることは決定事項だった。
それでもフカフカのベッドに、部屋付きの風呂桶があるのは最高すぎる!
俺はしばし貴族様から与えられる贅沢を満喫させてもらうことにした。
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