第1話
一台の馬車を取り囲むように、スケルトンやゴーストが群がっている。
まずは、モンスターたちの意識を馬車から逸らさなければならない。
「おい! 怪我人はいないか?」
俺が声を張り上げると、ゴーストやレイスと呼ばれる霧状のモンスターがこちらを振り返る。
だが、馬車を守るように戦う一人の騎士。
スケルトンには声が聞こえていないのか、戦闘を継続していた。
「俺は冒険者だ! 加勢する!」
「助太刀に感謝を!」
モンスターを挟んで意思を伝えることはできた。
一瞬だけこちらを見た騎士の顔は、キラキラときらめく銀色の髪が美しい女騎士だった。透き通った銀の瞳と視線が交差する。
今まで出会ってきた中で最も美しい女騎士だ。
だが、今はそんなことを考えている場合ではないな。
向かってくるゴーストの群れに、俺は聖属性魔法を発動する。
「ホーリーアロー!」
冒険者の適性検査を受けた際に、俺は聖属性の適性を持っていた。
聖属性と言っても、十三属性ある魔法の種類の一種で、地、水、火、風、無、光、闇、雷、氷、癒、聖、死、時空。
聖属性持ちは、そのうちの一つで、この世界では珍しいことじゃない。
多くはないが、少なくない人数はいるだろう。
「ホーリークロス!」
ゴーストをホーリーアローで消し去り、レイスをホーリークロスのパワーで吹き飛ばした。
瘴気から生み出される死霊系の魔物は死属性なので、聖属性の効果が発揮されやすい。
俺は短剣を構えて、スケルトンに聖属性を纏わせて斬りつける。
「カタカタカタ!!!」
「ふん!」
三人で冒険をするためにシーフとして、短剣を使うようにしていたおかげで単身でもスケルトンを蹴散らせる体術は使える。
どうにか合流を果たせるぐらいには、敵の数を減らせることができた。
「怪我人はいるのか?」
先ほどから戦っているのは彼女だけで、馬車があるのに他の者の姿が見えない。
「助かりました」
合流できたことに安堵の息が漏れる。
「重傷者が馬車の中にいます。他の者たちは護衛対象を逃すためにこの場を離れました。私がしんがりとして敵を引きつけていたのです」
囮どころじゃないな。生贄だぞ、それでは!
「わかった。俺と死霊との相性は悪くない。一気に片付けよう。近くに死霊術師がいるはずだ。そいつを見つけて倒せば、終わるはずだ」
「それなら場所はわかります」
「そうなのか?」
「はい! あそこに」
俺が来た方角とは反対側に、宙に浮いている王冠をつけたワイトの姿が見える。
「ワイトキングか!? わかった。あいつは俺が相手をしよう。スケルトンを頼めるか?」
「もちろん」
背中を預け合うように俺は短剣を構えて、スケルトンを倒していく。
さすがは騎士だ。俺などよりも攻撃の精度が高い。
アーシャよりも正統な剣術で防御も堅い。
「今よ」
道が開かれて、俺は死霊を呼び出しているワイトキングと対峙する。
「レイスよりも強力だからな。一気に終わらせるぞ! セイクリッドクロス!」
聖属性の上位魔法を唱えれば、清らかな力が全てを浄化する。
「ワイトキングよ。消え失せよ!」
強力なモンスターが瘴気を吸い込んで暴れ回る。
それを浄化するのが、聖属性の宿命とも言える。
「グアアああああああ!!!」
魔力の半分を使って放たれた聖属性魔法によって、ワイトキングが浄化されていく。
「なんとかなったな」
振り返れば、スケルトンやゴーストも消滅していくのが見えた。
「怪我人は?」
「こっちよ」
銀髪の女騎士も疲れているのはわかるが、俺は重症者の方に意識を向けることにした。
馬車の中にいたのは、小柄ながらも栗毛の可愛らしい女騎士だった。
スケルトンに肩から切りつけられたのだろう。出血が酷い。
「増血剤はあるか?」
「ええ、救命道具に」
「よし、なら飲ませてくれ」
「どうやって?」
困惑した表情を見せる女騎士に、説明する時間も惜しい。
俺は増血剤を受け取って、水と一緒に口に含んで、瀕死の患者に流し込んだ。
「ヒール!」
さらに、ヒールの魔法を放つ。
残念ながら、癒属性の治癒師に比べれば、治療速度は早くない。
一分間回復魔法をかけ続けなければ、聖属性魔法の治癒魔法は効果を発揮してくれない。
俺が治療師一本に絞れない原因の一つだ。
「凄い!」
「そうか? まぁ正規の回復術師ならもっと早く治せるけどな」
「だが、これほどの重傷を治せる者など」
「癒属性の者がハイヒールを使えば、もっと早く治せると思うぞ。俺は残念ながら聖属性でな。ヒールを使ってもどうしても遅くしか効果を発揮できないんだ。何より、魔力の消費も激しい」
切りつけられた傷はなんとか全て治すことができた。
増血剤も飲ませたから、血が足りなくて死ぬこともないだろう。
「メイ! 本当に良かった!」
銀髪の騎士が、栗色の小柄な騎士を抱きしめて喜びを表現する。
俺は戦闘して、回復まで魔力を使ったので限界が近い。
「うっ!」
「大丈夫か?! 顔が真っ青だぞ」
「魔力切れだ。すまないが、少し寝かせてもらう」
「ああ、魔物を退けてくれてありがとう。あなたは私たちの命の恩人だ。この恩は騎士として必ず果たそう」
「まぁ、好きにしてくれ。寝る」
俺はそのまま倒れるように馬車の椅子にもたれて眠った。
♢
次に気がつくと柔かな感触が頬に伝わってきた。
暖かくて良い匂いがする。
「うっんん?」
「目が覚めたか?」
状況がわからなくて、ぼんやりとする視界をあげると銀髪の美女がいた。
「うわっ!?」
「驚かせてしまったか? 確かに私の太ももは鍛えていて固いと思うが少しショックだぞ」
やっと頭の整理ができて、状況を理解した。
「膝枕?」
「ああ、仲間が増援を連れて戻ってきてくれたんだ。今は我々の街に向かって馬車を走らせているところだ」
「増援??」
意味がわからないまま、確かに馬車が走っている。
そして、外の景色を見れば、向かうはずだったコーリアス伯爵領の首都となる城郭都市コーリアスが見えていた。
「コーリアス?」
「そうだ。我々はコーリアス第四騎士団だ。領境の視察で、伯爵様の妹君であるラーナ様の護衛をしていたのだ。まさか、死霊を操るワイトキングが出てくるとは思わなくて、命を捨てる覚悟をしたところだった」
どうやら三日歩いて領境まで辿り着いた俺は、馬車で丸一日寝てしまっていたようだ。近くの村に停泊していた騎士たちに救出され、そのまま城郭都市まで運んでもらったというわけか。
「それを貴殿が助けてくれたこと、本当に感謝している。私はコーリアス第四騎士団副団長を務めるクリシュという者だ」
「あっ、ああ。冒険者のソルトだ」
クリシュに握手を求められて、自己紹介を告げた。
俺はどうやらとんでもない人間を助けてしまったようだ。
「貴殿が目を覚ませば、ラーナ様が直々にお会いしたいということだ。すまないが時間をもらえるとありがたい」
「それは構わない。俺はコーリアスで冒険者をしようと思っていたんだ」
「そうか?! それは吉報だな!」
見た目はとても美しい女性だが、女騎士として男言葉が混じるのは、仕事柄なのだろうか? 綺麗にドレスを着て着飾っていれば、どこかの令嬢だと言われても頷ける容姿をしているのにもったいない。
何よりも吉報だと言って笑った顔は破壊力抜群で、とても美しかった。
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