《1/30書籍発売》聖属性ヒーラーは女騎士団の助っ人回復術師をやってます

イコ

辺境へ

序章

 幼馴染二人の治療を終えたところで、魔法使いのシンシアが口を開いた。


「私、結婚しようと思うの」


 くすんだ黄色い髪を肩まで切り揃えて、女性らしく育った妹分のように思っていた。

 そんなシンシアから、結婚を報告されたことで、俺が思ったのは……。


 あっ、ここ異世界だ。


 別に召喚されたわけでも、ゲームの世界に入ったわけでもない。

 ましてや、子供の頃から転生してチート能力を持つこともなかった。


 シンシアの結婚報告を聞いた瞬間に、ここは異世界なんだって認識したのだ。

 かつて前世があり、昔の記憶を持っていたことを知った。


 それは俺がシンシアのことを女性として見始めていて、告白をしようか悩んでいたからだろう。

 死ぬ前の俺も、幼馴染の結婚を見送る奥手な男だった。


 今の俺は聖属性の魔法が使えるヒーラーで、冒険者パーティーではシーフの役目も担っている。ソルトという二十五歳の青年だ。


 冒険者の仲間であり幼馴染の魔法使いのシンシア、剣士のアーシャ。


 俺たち三人は故郷の村が魔物に襲われて、今日まで身を寄せ合って生きてきた。

 生きるために冒険者になり、多くの交流を持って今日までなんとかやってきた。


 シンシアとアーシャは二十歳になって、立派な女性になった。


 俺が二人のお守り役をするのが今日で終わるのだ。


 シンシアの結婚報告で冒険者を解散する。


「ウチも、騎士団にスカウトされてるんだ! 凄いでしょ!」


 ポニーテールの髪を元気に揺らしながら笑顔で自慢してくるアーシャは、どこか幼さを残している。

 冒険者になる際に、適正検査で剣の才能があったことで、随分とアーシャに助けられた。


「ああ、凄いな。安定職をゲットしたんだ。やるじゃないか!」

「へへへ、ソル兄が色々と教えてくれたからだよ」


 妹分として、女性として見てしまっていたシンシア。

 本当の妹のように可愛く思っているアーシャ。


「ソルト兄さん。今まで本当にありがとうございました」


 魔法使いとしては優秀なシンシア。

 彼女の魔法があったからこそ、今日まで生き延びられた場面が数多く存在する。


 小柄でよく笑うとエクボが特徴的な可愛い女性。


「何を言っているんだ。俺たちは兄妹のようなもんだろ? お前たちが立派な大人になってくれて、それぞれの道を歩むんだ。これほど喜ばしいことはないぞ」


 少しの強がりと、自分の気持ちに蓋をして、俺は二人の妹たちの頭を撫でた。

 三人で冒険者として稼いだお金を二人に多めに分配した。


 今日までリーダーとして管理をしていたが、これからはそれぞれでやっていかなければならない。


「多くないですか?」

「祝儀も含まれていると思ってくれ。これとは別に渡してやる余裕がないからな」

「ソルト兄さん、ありがとうございます」


 シンシアが深々と頭を下げてくれる。

 アーシャは金勘定をするのが苦手なので、多くても理解していないようだ。


「ソル兄はこれからどうするの?」

「俺か? そうだな。王都を離れてコーリアス伯爵領にでも行こうと思う」

「コーリアス伯爵領?」

「ああ、俺は聖属性の素質が強いからな。あっちの方で瘴気が広がっていると噂を聞いたんだ。それに回復術は、辺境に行った方が重宝してもらえるだろ?」


 実際に冒険者として、何度かコーリアス伯爵領へ行ったことがある。

 その際には、回復魔法を使うだけでお金を稼ぐことができた。


 聖属性は、浄化以外にも治癒師の才能があって、ヒーラーになれたのは俺にとっては神様からのギフトだ。


「そっか、寂しくなるね」


 少し瞳を潤ませるアーシャ。


 これまで三人で支え合って生きてきた。

 それが明日からはバラバラになる。


「そうだな。今日は俺の奢りだ。じゃんじゃん食えよ」

「本当?! 甘い物でもいい?」

「おう、甘い物もじゃんじゃん食え食え。二人の門出を祝してだ!」

「やったー!!!」

「ふふ、ありがとうございます。ソルト兄さん、遠慮しませんよ?」


 妹たちは、甘い物に目がないので、喜んで注文していく。

 二人と食べる冒険者としては最後の食事だ。


「おう、遠慮なんているかよ。二人の妹が同時に旅立つんだ。一気に片付いて清々するぐらいだ!」

「まぁ! だけど本当に……」


 シンシアの顔にも寂しさが滲み出る。


「ソルト兄さんがいたからこそ、私たちは頑張ってこれました。励まし、勇気を与え、支えてくれたことを心から感謝します」


 娘を嫁にやる父親の気持ちというのはこういう気持ちなのだろうな。


 好きだった女ではあるが、妹だとも思っている。

 幸せになるなら、俺じゃなくてもいいと思えた。


「ああ、俺たちの絆は永遠だ。もしも、困ったことがあったらいつでも相談しろよ」

「はい! ソルト兄さん」


 祝いの食事を、口一杯に詰め込むアーシャ。

 少しだけ上品に、だけどアーシャと同じように甘い物に目がないシンシア。


 俺は今日を最後に、彼女たちと組んでいたパーティーを解散する。


「なぁ、俺たちは良いチームだったよな?」

「当たり前じゃん! ソル兄がいなかったら、私の体はもう戦えなくなってるよ」

「そうですね。私も毒や呪いを、ソルト兄さんが解除してくれました」

「はは、二人とも大袈裟だな。それに俺を持ち上げろなんて言ってないぞ。俺は三人で最高だと思ったから聞いたんだ。アーシャの剣術で魔物が切り伏せられるのを何度見たことか! シンシアの魔法が俺たちの命を数えきれないほど救ってくれた」


 互いに、これまでの活躍や思い出を語り合った。


 いつか誰にでも別れがやってくる。

 それが今日やってきたに過ぎない。


「改めて、ソルト兄さん」

「ソル兄」


 二人は目配せして息を合わせる


「「ありがとうございました!」」


 こうして仲良し幼馴染三人組は、それぞれの道を歩むために、冒険者を解散して引退を表明した。


 ♢


 冒険者ギルドにはシンシアの結婚報告を受けたので、解散することを告げた。

 いつも王都の受付嬢をしてくれるミリアさんは、冒険者ギルドで一、二を争う美人であり、猛烈に目を引く双子山を胸部に所持している。


 そんなミリアさんが猛烈に俺の行き先を聞いてくる。


「次は、どこの町に行くつもりなの?」

「多分、辺境の伯爵領にでも向かおうと思っています」

「そう! わかったわ」


 何がわかったのかわからないが、俺は王都を出て、伯爵の領に向かう。


 旅は道連れ世は情けというが、一人の旅も悪いものじゃない。


 魔物が出没するが、魔物除けのアイテムを用意しておけば問題はない。


 疲れたなら、途中にある街で休憩をしてもいい。


「あ〜あ、寂しいが一人を満喫するしかないな」


 そんな気分で歩きながら、三日ほど進んだところで面倒事を目にしてしまう。


 コーリアス領に入ったばかりの領境、馬車が魔物の襲撃を受けていたのだ。


 しかも、相手は死霊術師とは、瘴気が多くなっている影響が出ているのだろう。


「旅は道連れ世は情けか!」


 俺は加勢する決心をして、重い腰を上げた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 10万字までは投稿を続けますので、どうぞお付き合い頂ければ幸いです。


 応援はいつでもお待ちしております(๑>◡<๑)

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