第7話 回復薬を作ってみた
「ようこそサリー様。こちらにどうぞ」
9時に、薬師ギルドを訪れると、サイラスさんは、既に私を待っていた。やはり神経質そうにしている。案内された調合室には、私が買った600万マルクもする超お高い魔法薬作成キットがドンと置いてある。
まず、回復薬の素材の説明から始まった。
「初級回復薬は、『ヒール草』だけで作れます。必ずよく洗ってください。土や虫が入ると薬の効果が悪くなります」
ヒール草は、どこに生えているのだろう。自分で採りに行けたらいいけれど。
それに水も気になる。よく洗っても、水には不純物が入っているはずなんだよね。
「洗うのは飲み水でいいですか」
「はい。できるだけきれいな水がいいです」
「だとすると、蒸留水で洗った方がいいですか」
「ジョウリュウスイですか? よく分かりませんが、井戸水などの新鮮な水がいいです」
うらら時代では、いくらきれいに見えても水には不純物が入っているから、中学の授業レベルでさえも蒸留水を使ったのだけれど……。純粋な水という概念が科学の発達していないこの世界にはまだ無いのだろう。ここは黙って説明を聞くことにする。
「よく洗ったヒール草をちぎって、この皿に乗せます。今回は一枚だけ使いますね」
「手でちぎらないとだめですか。量はどうするのですか」
「器に入ればいいので、ナイフで切ってもいいですよ。量は装置が自動的に調節するので大丈夫です」
小さく切って入れれば、あとは量を自動的調節してくれるのか。科学が進んでいないこの世界で自動化を実現できているのは、なかなかすごい。これはきっと魔法による技術だろう。
「隣の四角い容器に水をたっぷり入れます。これもきれいな水がいいです」
「わかりました」
サイラスさんは隣に置いてあった水差しの水をどぼどぼと注いだ。その水差しの水って本当にきれいなの? と思ったけど、口をつぐんでおく方がよさそうだと思い直す。
「四角い容器のとなりに、ふたをしたビンを上向きにいれてください」
「わかりました」
ふたをしたままでいいのか疑問に思ったが、黙っておくことにする。
「最後に、ここを開けて『くず魔石』を入れて、スイッチを押してください」
「『くず魔石』ってなんですか?」
「弱い魔物が落とす魔石です。色はどんなものでもいいです。質がよくて大きな魔石だともったいないので、くず魔石でやりますが、高価な魔石でもかまいません」
「分かりました」
弱い魔物なら倒せるかな。魔石が自分で取れたらいいなと思う。
スイッチを入れたらグイングインという音がして、しばらくしたら、回復薬が一本出てきた。緑色をしていて、ちゃんとふたがしてある。
「おおおすごい!」
本当に自動でできてしまった。ビンにもふたがしてあるしすごいな、これが魔法で、このセットが魔道具というわけなのか。だとすると高いのも無理ないのかもしれない……。
「ヒール草の葉一枚で、一本の初級回復薬が出来ます。それにヒール草と一緒に『マナ草』を入れるだけで、中級回復薬ができます。高級回復薬も中級と同じ材料で作ります」
この装置で、高級回復薬まで出来てしまうとは! 私のラノベ知識とは、いい意味でずいぶん違う。
「では、最初から作ってください。最初は難しいでしょうが、だんだんできるようになりますよ」
「わかりました。がんばります!」
そう素直に言いながら、こっそり作り方をちょっとアレンジしてみる事にした。
まず、薬草を一枚ていねいに洗い、ちぎってお皿にのせてから、セリーナに聞いてみた。
「生活魔法のクリーンという魔法ってあるの?」
「お嬢様、クリーンの魔法はございます。メイドですので私が使えます」
「じゃあ、このお皿の薬草へ、クリーンの魔法をかけてくれる」
「お任せください、お嬢様。では『クリーン』」
なんか、薬草がすごくきれいになったように思うのだけど気のせいかな。手で触らないでクリーンしたのもいいと思うんだよね。
隣をちらりと見たら、サイラスさんが、目を丸くして黙って見ている。
「今度は、生活魔法のウオーターで水を入れてくれる」
「お任せください、お嬢様。では『ウオーター』」
いい感じだ。魔法の水の方が絶対きれいだと思うんだよね。サイラスさんは無視しよう。
「よし、じゃあ。スイッチオンだ!」
「スイッチオンですか? お嬢様、何ですかそれ?」
「ま、まあ、そんな気分だったの オホホホ」
「お嬢様、初級回復薬が出てきました。でもお手本より透明な気がします。どうしたことでしょう」
「ふふふ」
これは大成功かもしれない。でも、やらかしたとも言えるのかもしれないが……。
「そのまま、ちょっとお待ちください。鑑定の魔道具を取りに行ってまいります」
サイラスさんが、小走りに奥へと行ってしまった。気のせいか顔色が悪かったみたい。
「お待たせしました。今お作りになった初級回復薬を鑑定してみますね」
サイラスさんが、ゴーグルのようなものを顔にはめて、私とセリーナが作った初級回復薬を鑑定している。
「おお、これは。「初級回復薬・高品質」ですね。すごいです。これだと、中級回復薬程度の効果があると思われます」
「えへへ。やったね。セリーナ両手を前に出して。イエーイ!(大声)」
「こうですか。イエーイ(小声)」
私とセリーナはハイタッチをして、大喜びだ。
そのあと、ど素人の作った初級回復薬が高品質だったので、ちょっとした騒ぎになってしまった。偉い人(ギルド長さん?)もやってきてほめたたえてくれた。
確かにうれしかったけど、ほめられたいわけじゃないから、ささっとその場を抜け出す事にする。
調合室を出た私たちは、受付のオリビアさんの所に向かう。
「オリビアさん、薬草の生えている場所と、弱い魔物のいる場所を教えてください」
そう言って、場所を教えてもらう。薬草も自分で採取してみたいと思ったのだ。新鮮な薬草ならもっと高品質な回復薬ができるかもしれないと考えたからだ。
その後、薬師ギルドから自宅に帰った。思い出すたびに、私の心臓が飛び跳ねてしまいなかな眠れない。
ベッドに入ってステータスを確認してみると、調合スキルに新しい項目が出来ている。うれしくてしばらくステータスを見続けた。
今日は、私の進む道がはっきりと見えた。明日からは、がんばって突き進むぞと決意した。
――――――――――――
名前:サリー・グレアム
スキル:基礎魔法
スキル:聖魔法Lv99(身体強化、バインド、バリア)
スキル:調合Lv99(初級回復薬(新))
スキル:科学魔法Lv99(未)
スキル:探知Lv99
ギフト:女神フリーディアの加護(空間収納、科学魔法創造、スキル習得率大幅増加)
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